机上の空論過ぎる「マーケティング」振りかざすより人と会おう

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こんにちは。エステー特命宣伝部長の高田鳥場と申します。おかげさまで、T.M.Revolution 西川貴教さんとポルトガルの少年・ミゲル君が共演した消臭力のCM“夢の共演篇”がCM総研の8月前期CM好感度ランキングで1位になりました。改めて皆様に御礼申し上げます。

さて、今日お話しするのは、14日から開始したミュージカル『赤毛のアン』(http://www.st-musical.com/)についてです。このミュージカルはエステーpresentsの舞台で、すべてチケットプレゼントキャンペーンにて行われ、チケットの販売をしません。

一体なぜ当社ではこんなことをするか――ちょっと最近考えがいろいろとまとまってきましたので、ここに書いてみたいと思います。まとまったきっかけは、消臭力のCMが1位になったことを西川さんに直接報告しに行った時です。8月10日の両国国技館ライブの時だったのですが、そこでは7000人近くのお客さんが西川さんを熱烈に応援していました。西川さんが歌い、拍手が起こり、観客に炎がついている様を私は見ていて、この時「この人たちが1位にしてくれたんだ……」と思いました。

普段エリック・クラプトンのコンサートを見に行ったとしても、観客に関心を持ったことはありません。でも、自分がいま見ているこの人たち7000人が消臭力を応援してくれたんだ、という連帯意識をその時は感じました。テレビのマーケティングに慣れていると「7000人なんてたいしたことないよ、テレビは100万単位だからね」なんて言いがちですが、でもね、7000人って実際に数で見たらすごいですよ。

CMってものは、テレビの向こうの人にメッセージを送るわけですが、そこには「人間」というものがない。あの日、両国国技館にあった人肌、空気、熱気――本当にアツかったです。ライブの良さってここですよね。でも、広告に携わる人間は私も含め、どうしてもこの「人肌」や「ライブ感」を忘れてしまいがちです。

【広告マンが「コンセプト」とか「インパクト」とか言うのは……】

ステージ上でロックシンガーが「今回のコンサートのコンセプトは……」なんて説明し始めたら興ざめしますよね。それなのにプレゼンの時やCMの説明をする時に広告マンはそんなことを言ってしまう。「ツアーのテーマは……」くらいだったらステージ上で言ってもいいけど、「インパクトを届けます」とかはステージに全くそぐわない。

それなのに、ついつい広告に携わる人たちって、これらのことばを使うことがかっこいいと思ってしまいます。そうだと思う理由は、目の前に“客席”がないからなんですよ。

話はもっと前に戻ります。かつて私は某食品メーカーで働いていました。その時の体験にも「人肌」「ライブ感」がありました。2000年に不祥事が起きた時、工場では「お客様に向き合おう」ということを従業員一同考えるようになり、「工場開放デー」というイベントをやりました。普段は機械を黙々と動かしている人が綿菓子を作ったりしたのです。

普段、工場の人は定時になったら家に帰るものです。でも、工場開放デーの前、彼らは終業後に工場に残って集まっていました。何をやっていたかというと、インターネットで綿菓子の作り方を調べ、1カ月延々綿菓子作りの練習をしていたのです。綿菓子は100円で売ることにしたのですが、その理由は、無料にすると長い行列ができてしまい、本当に綿菓子を食べたい人に行き渡らなくなるからです。

普段、その会社が商品を作るには、ものすごい量の設備投資をし、材料に吟味を重ね、多額の人件費をかけていました。綿菓子づくりの練習をしていた時、彼らは自らの会社を振り返り、「これだけの投資をし、オレ達は1個100円の商品を作ってたんだよね……」とハタと気付いたようです。お金を取ってプロとして製品を作っていた彼らは、綿菓子だって1個100円で売るには必死に練習をしなくてはいけない、と思ったわけですね。ここで私も「お客様に向き合う」ことの重要性に気付いたのです。

【イベントでバイト任せではなく社員も汗を流す方が良い】

ただ単にお客さんを迎え入れ、お決まりの見学をしてもらい、ありがとうと土産を渡すだけではなく、100円で売る綿菓子のために業務終了後に毎日綿菓子づくりの練習をする。あ、これが「人と向き合うこと」なんだ、と反省をするとともに、感銘を受けました。

赤毛のアンにしても、これと同じことが起きています。もちろんプロモーションの側面もありますよ。エステーの冠がついて店頭キャンペーンをやることで、販売店さんの集客になり、当たった人は会場でパンフレットや看板などで「エステー」の文字を見ることになりますし、アナウンスでも「エステー」の名前が呼ばれます。

でも、これだけではお客様に向き合っていません。企業はただイベントをやればいいってもんじゃないんですよ。赤毛のアンの場合は20000人を招待しますが、この人々を迎え入れ、ちゃんと向き合うにはどうすればいいかを本社の赤毛のアンチームと全国営業マンと徹底的に話しあいました。7〜8年前のことですね。

結論としては、「フロントをしよう」ということになりました。フロントの仕事というのは、チケットもぎって、ペンライトで席まで案内し、送り迎えする、ということですね。通常こういった業務はアルバイトに任せるものです。これを、社員がやろうってことになったのです。

フロントの仕事を社員がやる

普通のオペレーションでやると、足の悪い人、おばあちゃんが並んでいたりしても、「ルールですから並んでください」となる。でも、お客様に本気で向き合おうとしたら、そういった人には椅子を用意したりするなど、配慮をするわけです。お客様に向き合うことで、マニュアルとは異なる違う動きが出てきます。

ある時は、外でおばあちゃんが倒れてしまったことがありました。普通、こんな時はイベントのオペレーション会社の人が救急車を呼び、一緒に病院へ行くと思いますが、実際に救急車を呼び病院へ行ったのはエステーの広報担当で、家族が病院へいらっしゃるまで玄関で待っていました。

その話は社長の鈴木の耳にすぐに入り、鈴木は「何かあったらすぐ行きますから」と客席で待機していました。今、広告もそうだけど「そこに人がいる」ってことを忘れがちで、机上の空論的な分析やクリエーターが自己満足な妙な芸術に走ったりして、人と接する機会を失っているように思えます。

私も『赤毛のアン』(http://www.st-musical.com/)の現場に張り付きますが、これは年に一度、「お客様に向き合う」ことの重要性を再確認させてもらえる貴重な2週間です。毎回お客様を席にご案内し、「人肌」を現場で感じることにより、普段偉そうに「マーケティングがさぁ……」なんて言っている自分がいかに机上の空論を振りかざしていたかを年に1回ちゃんと体で反省し、来年につなげようとあがいています。

【広告担当者は人と会わないと業界に麻痺してしまう】

その一方、「人と接する」ことをいつもやっている企業もありますよね。ホテルしかり、東京ディズニーランドみたいなテーマパークや遊園地もしかり。そんな会社はマーケティングや広告にも「人肌」がキチンと感じられる。ディズニーランドの広告、いいですね。人をもてなそうって気持ちにあふれている。

今回の西川さんの件、先ほどの工場の話、赤毛のアンにも見られるように、人と人の繋がりって本当はいっぱいあるにもかかわらず、これを忘れてしまった広告業界人はいかがなものですかね。なんか、人と会ってないと麻痺しちゃうよね。本当は、人と会わずに広告なんて作れないんだと思います。

「マーケティング」と称し、消費者に聞き、消費者が思っているものをプロとして作ってもヒットがなかなか生まれない。ひとつの企業で1000も2000も商品を作りますが、1個か2個しか残らないものです。「ちゃんとお客さんに聞いたのにな……」となるかもしれませんが、手法に頼ったマーケティングをしていて、本気で人と接していないのかもしれませんね。

「赤毛のアン」(http://www.st-musical.com/)は、普段業界にいると忘れがちな「ライブ感」「人肌」を私に思い出させてくれる貴重なイベントだと思っています。皆さん、来年はぜひ当ててくださいね。当たった方は、存分に楽しんでください!

文/高田鳥場(エステー特命宣伝部長)

■関連リンク

・エステー宣伝部ドットコム

http://www.st-sendenbu.com

・赤毛のアン
http://www.st-musical.com/