『拡張するファッション』林央子インタビュー by梶野彰一 (1)
ファッション・ジャーナリスト、林央子さんの著述、インタビューなどをまとめた「拡張するファッション」を読んでいると、'90年代以降の「ある」ファッションの動向がゆるやかに見えてくる。
世界がインターネットでゆるやかに繋がりはじめた時代、ソーシャル・ネットワークが拡散する前夜の、ちょっとした混沌と微熱の時代。自分のようにその時代にどっぷり多感な時期を過ごして来た者としては、そんなディケイドをついつい懐古してしまいがちかも知れない。
この本を手に取って出たそんな感想に、林央子さん自身は「実は昔は良かったな…いう感じの本にはしたくなかったんです。いろいろなことを見通した上で、これから先をポジティヴに考えるためのヒントになってくれれば」とまずはこう牽制しながら、この本について語ってくれた。
そもそも今、'90年代〜2000年初頭の時代を振り返ると面白く感じられるのはなぜだろう――。ページをめくりながら何度か反芻されてきたこの疑問に対する端的な回答は、それが「面白い情報は自分の足を運んで集めなきゃならない時代」であったこと、ファッションに限らず、グローバリゼーションが広がって見える景色がフラットになった今とはちがってデコボコしていたこと、だったのかもしれない。この数年は加速するように情報は溢れ、それに反比例するかのように何か物足りない時代のように感じてしまうのだ。
林央子(以下H)「最後に101年の年表を付けたのには、もちろんそういうことを違和感として持っていて、それをどう受け止めてどう対処したらいいのか、というのがあったからです。例えば私がかつて『花椿』の編集部で仕事をしていた街は銀座なのですが、確かに2000年以降は銀座のお店の並びも風景も変わってしまいましたよね。でも結局、歴史を遡っていくと『ファッションの民主化』というものは常にあったわけです。かつてはファションは特権階級の人だけのものだったところからはじまって、ミシンが開発され、既製服が登場して……。この大きな流れを考えると、現状がこうなっているのにも一理あるのだと思います。その歴史の流れの中では、必然とされてファッションがみんなのものになる。だから'90年代当時と今とで、どちらが良いかとは一概には言えないし、今はきっとその歴史の中のひとコマなのではないかと。だから相対化するために年表をつけて、見ながら自分でも考えたんです」。
'90年代半ば、資生堂の「花椿」編集部に籍を置きそのジャーナリスト、編集者のキャリアをスタートさせた彼女は、年々パリコレに通い、ファッションに対して自己のよりユニークな視線を投げかけるようになる。
H「パリコレに行ってレポートを書かなければならない時に、回数を重ねると自分が興味がある人の方ばかりを見てしまったり、偏りが出てきたんです。本来、メゾン系のブランドばかりに集中しない、というのは『花椿』の空気でもあったのですが、さらにそれを深めてしまったというか…。『花椿』は雑誌といっても資生堂の出版物で、スポンサーシップのことも頭に入れずに編集をしてきたので、もともとそういう発想がないのに輪をかけて、頑なに自分の興味を追求していました」。
'90年代の象徴的なマルタン・マルジェラの革命。そしてそれ以降、いわゆるメインストリームのファッションに疑問符を投げかけるようにして現れたBLESSやCOSMIC WONDERといったブランドへの取材を通してファッションの可能性を伝えてきた。
H「ひとつの編集部にいると、役割として平均的に新しいものを追いかけなければならない。それは私には向かないと思うようになりました。『花椿』を離れフリーになって最初の仕事が、木村伊兵衛賞の受賞に関する長島有里枝さんやHIROMIXのインタビューだったんです。自分の好きなテーマについて書くのがこんなに楽しいんだ、というのは編集部を離れて初めて感じました。最初からライターでやっていこうと決めていたわけではないんですけれど、いざフリーになってみたらファッションエディターとしての声はまったくかからなかったですね…『Purple』以外では(笑)。もちろんフリーならではの大変さはありましたが、好きな人を追いかけるのは楽しかった。私はすごく『花椿』が好きだったので、 実は編集部を離れる際、仕事自体を続けるか自問自答したんです。でも今は、新しい姿勢で表現をしようとしている同世代のクリエイターを見続けて、書き続けていきたいと思っています。スーザン(・チャンチオロ)にしろエレン(・フライス)にしろBLESSにしろ、彼らと出会えたのがラッキーだった。それを言葉で伝えたくてこの本が出来ました」。
写真と文:梶野彰一(PHOTO & TEXT: SHOICHI KAJINO)
>>>『拡張するファッション』林央子インタビュー by梶野彰一 (2)へつづく
INFO:
『拡張するファッション』
林央子 著
ブルース・インターアクションズ刊 1,890円(税込)
『拡張するファッション』特設サイトはこちら
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林央子(以下H)「最後に101年の年表を付けたのには、もちろんそういうことを違和感として持っていて、それをどう受け止めてどう対処したらいいのか、というのがあったからです。例えば私がかつて『花椿』の編集部で仕事をしていた街は銀座なのですが、確かに2000年以降は銀座のお店の並びも風景も変わってしまいましたよね。でも結局、歴史を遡っていくと『ファッションの民主化』というものは常にあったわけです。かつてはファションは特権階級の人だけのものだったところからはじまって、ミシンが開発され、既製服が登場して……。この大きな流れを考えると、現状がこうなっているのにも一理あるのだと思います。その歴史の流れの中では、必然とされてファッションがみんなのものになる。だから'90年代当時と今とで、どちらが良いかとは一概には言えないし、今はきっとその歴史の中のひとコマなのではないかと。だから相対化するために年表をつけて、見ながら自分でも考えたんです」。
'90年代半ば、資生堂の「花椿」編集部に籍を置きそのジャーナリスト、編集者のキャリアをスタートさせた彼女は、年々パリコレに通い、ファッションに対して自己のよりユニークな視線を投げかけるようになる。
H「パリコレに行ってレポートを書かなければならない時に、回数を重ねると自分が興味がある人の方ばかりを見てしまったり、偏りが出てきたんです。本来、メゾン系のブランドばかりに集中しない、というのは『花椿』の空気でもあったのですが、さらにそれを深めてしまったというか…。『花椿』は雑誌といっても資生堂の出版物で、スポンサーシップのことも頭に入れずに編集をしてきたので、もともとそういう発想がないのに輪をかけて、頑なに自分の興味を追求していました」。
'90年代の象徴的なマルタン・マルジェラの革命。そしてそれ以降、いわゆるメインストリームのファッションに疑問符を投げかけるようにして現れたBLESSやCOSMIC WONDERといったブランドへの取材を通してファッションの可能性を伝えてきた。
H「ひとつの編集部にいると、役割として平均的に新しいものを追いかけなければならない。それは私には向かないと思うようになりました。『花椿』を離れフリーになって最初の仕事が、木村伊兵衛賞の受賞に関する長島有里枝さんやHIROMIXのインタビューだったんです。自分の好きなテーマについて書くのがこんなに楽しいんだ、というのは編集部を離れて初めて感じました。最初からライターでやっていこうと決めていたわけではないんですけれど、いざフリーになってみたらファッションエディターとしての声はまったくかからなかったですね…『Purple』以外では(笑)。もちろんフリーならではの大変さはありましたが、好きな人を追いかけるのは楽しかった。私はすごく『花椿』が好きだったので、 実は編集部を離れる際、仕事自体を続けるか自問自答したんです。でも今は、新しい姿勢で表現をしようとしている同世代のクリエイターを見続けて、書き続けていきたいと思っています。スーザン(・チャンチオロ)にしろエレン(・フライス)にしろBLESSにしろ、彼らと出会えたのがラッキーだった。それを言葉で伝えたくてこの本が出来ました」。
写真と文:梶野彰一(PHOTO & TEXT: SHOICHI KAJINO)
>>>『拡張するファッション』林央子インタビュー by梶野彰一 (2)へつづく
INFO:
『拡張するファッション』
林央子 著
ブルース・インターアクションズ刊 1,890円(税込)
『拡張するファッション』特設サイトはこちら
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