プロ野球二軍の“過酷な現実”

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 プロ野球の二軍の世界を知っていますか? 芽の出ないドラフト1位もいれば、復活にかける元レギュラーもいる、とても過酷な世界が広がっています。

 『プロ野球 二軍監督―男たちの誇り』(講談社/刊)は、スポーツライターの赤坂英一さんが、取材を通してプロ野球の“二軍の世界”を描いたノンフィクションです。
 本書では、監督、コーチ、選手たちへの取材を通してプロ野球の“二軍の世界”を描きます。1章ごとに、スポットが当てられる選手や監督・コーチが変わり、ひとりひとりの選手たちの素顔が見えたり、なんとか1軍に送り出してやりたい! という監督の思いなどが垣間見えて、非常に読み応えがあります。

 本書から、第2章「ショートのプライド」より、北海道日本ハムファイターズの尾崎匡哉捕手の一節をご紹介します。

 尾崎選手は報徳学園高校時代、140km/hの直球を投げ、投手としても注目されていました。2002年春の選抜高等学校野球大会では遊撃手として全国制覇に貢献し、同年のプロ野球ドラフト会議では、日本ハムファイターズから1巡目氏名を受けて入団。
 しかし、入団以来2007年までは一軍出場は一度もありませんでした。

 そんな尾崎選手は、2008年の春季キャンプで、捕手のポジションに挑戦することになります。ドラ1入団の、期待のショートストップとして育てられてきた尾崎選手が、なぜキャッチャーにコンバートされることになったのでしょうか。

 当時、北海道日本ハムファイターズの二軍の内野守備コーチを務めていた水上善雄コーチは、ショートとしての尾崎選手の資質を誰よりも買っていたといいます。
 そして、取材に対してこのように答えています。

「初めてキャッチボールを見た瞬間、こいつはうまい、と思いました。もうとっくの昔にレギュラーになっていてもおかしくない素材だったんです。だから、何としてもショートで匡哉を一人前にしたかった、最初はね」

 水上コーチから見て、尾崎選手のピボット(打球を捕って送球する一連の動作のこと)は、群を抜いていたそうです。
しかし、そんな尾崎選手にも致命的な弱点がありました。正面に転がってくる平凡なゴロの処理をするときに、尾崎選手のその資質がマイナスに作用したのです。
 尾崎選手は、取材にこう答えています。

「ゆっくり待って捕ればいいゴロに、自分の動きを合わせられないんです。とっさにグラブを出して、土手や指先で弾いてしまう。しっかり握りなおしてからでも、ランナーを殺すには十分間に合うのに、ついすばやく送球しようとしてポロリとやる」

 水上コーチは、「尾崎選手は早くから才能が開花して、素質優先でやってきた反動で、ぶつかった壁を突破するのに時間がかかっているんだ」と評しています。しかし、地道なトレーニングもうまくいかず、イラ立つ尾崎選手は言葉も悪くなり、水上コーチもつい声が高くなっていきます。

 やがて水上コーチは、今のままでは、一軍に尾崎選手の居場所を作ることができないという、危惧を抱き始めます。
 守備力云々の話ではなく、今の日本ハムでは尾崎選手のようなタイプのプレーヤーが求められていないからです。つまり、難しいゴロをさばける派手なファインプレーではなく、どんなときでも正面のゴロを確実にアウトにできる能力こそが求められているということだったのです。

 プロ野球の一軍と二軍は需要と供給の関係にあります。
 二軍スタッフは、一軍が求めている選手を育てなければなりません。二軍は二軍でリーグを組んで試合をしていますが、それよりも選手を一軍に上げてやることを命題として、日々トレーニングを積んでいるのです。
 本書からはコーチ、監督たちは、こんなに選手やチームのことを考えているのか、という人間模様が見えます。

 本書には現在一軍でバリバリ活躍している選手から、まだ成長途中の若手選手まで様々な選手、そしてスタッフが取り上げられています。
 華やかな活躍の裏にある、選手と監督・コーチたちの物語。ファンならずとも引き込まれるはずです。
読む新刊ラジオ第1398回:本書をダイジェストにしてラジオ形式で配信中!



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