老後資金が一瞬で吹き飛びました…年金20万円・退職金1,200万円・貯金700万円の67歳夫婦のもとへ届いた、実家暮らしの41歳次男への「朱書きされた封書」の中身
内閣府の『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上の者のいる世帯のうち「親と未婚の子のみの世帯」の割合は20.2%(543万2,000世帯)に上り、高齢者世帯の約2割を占めています。未婚化や非正規雇用の長期化を背景に、「7040問題」や「8050問題」は、いまや多くの家庭にとって身近なリスクとなっているようです。事例を見ていきましょう。※事例の人物名はすべて仮名です。
真面目で内気な次男のやらかし
マサハルさん(67歳)と妻のカズエさん(67歳)は、地方都市の持ち家で穏やかな定年後を過ごしていました。
夫婦には2人の息子がいます。長男は都内の中堅企業に勤め、結婚して自前のマイホームを建てて独立しており、自分の家庭のやりくりで手一杯なため実家とは疎遠気味でした。一方で、実家で同居しているのが次男のミチハルさん(41歳)です。
ミチハルさんは昔から口数が少なくおとなしい性格でした。派手な遊びは一切せず、派遣社員としての仕事が終わればまっすぐ帰宅し、カズエさんの買い物や庭掃除を黙々と手伝う「手のかからない真面目な息子」でした。しかしその内面では、要領よく独立していった兄への強いコンプレックスと、40代になっても低収入の非正規雇用から抜け出せない焦燥感を長年抱え込んでいたのです。
「自分も一発逆転して、両親を安心させたい」「兄に負けないくらいの蓄えを作りたい」--そんな歪んだ焦りから、ミチハルさんは数年前、インターネットで知った高リスクな暗号資産投資に手を出しました。知識もないまま負債を抱えると、親に隠れて消費者金融やカードローンで借入を重ね、穴埋めのために海外FXや高額な投資セミナーへとドミノ倒しのようにのめり込んでいったのです。
資金に窮したミチハルさんは、親の隙を見てキャッシュカードを持ち出します。近くのコンビニATMへ通い、1日の利用限度額いっぱいの現金を、数日あるいは数週間おきに断続的に引き出していました。数ヵ月かけて引き出された金額は、夫婦の大切な蓄えであった700万円全額に達していました。
通常、短期間に多数の引き出しが行われると、金融機関から未記帳明細や不審取引の確認ハガキが郵送されます。しかし、同居しているミチハルさんが毎日両親より先にポストを確認し、銀行からの通知や督促状をすべて抜き取って隠していました。また、スマホでの即時引き出し通知サービスなどを利用していなかったマサハルさん夫妻は、貯金が引き出されていたことに気づくことができませんでした。
しかし、マサハルさんとカズエさんの平和な日常は、ミチハルさんの告白によって崩れ去ります。
ミチハルさんが両親に見せたのは、「親展」「重要」と朱書きされた裁判所からの特別送達や、消費者金融からの催告書でした。宛名はすべてミチハルさん。ただならぬ気配にマサハルさんがミチハルさんを問いただすと、彼はその場にへたり込み、ボロボロと涙をこぼしながら真相を打ち明けました。
違法な高利貸しや闇金融からの借入や遅延損害金を含めた借金総額は1,000万円を超えており、連日のようにミチハルさんの携帯電話へ厳しい取り立てが続いていました。さらに、「支払わなければ実家や勤務先にも押しかける」といった脅迫が来ていたそうです。息子から事の次第を告白されたマサハルさん夫妻は、パニック状態に陥ってしまいます。
本来、法的には出資法違反の超高金利をとる違法な闇金融への返済義務は元金すら存在せず、弁護士や警察に相談すれば対処可能でした。しかし、法的な知識がなかった夫婦は「借りたものは返さなければ息子の人生が終わってしまう」「警察や取り立てが家に来たら世間体がない」と思い込んでしまったのです。
脅迫的な請求にいわれるがまま、マサハルさんは命の綱であった退職金1,200万円の大半を取り崩し、一括で全額弁済。こうして、夫婦が老後を穏やかに過ごすはずだった1,900万円の資産は吹き飛んでしまったのです。
現在、マサハルさんは67歳にして警備員のパート勤めを始め、カズエさんも近所のスーパーでレジ打ちの仕事を再開しました。毎月約20万円の年金だけでは、将来の医療費や自宅の維持費を賄いきれません。身を粉にして働きながら、真面目だったはずの息子の横顔に怯える日々を送っています。
7040問題、親子共倒れを防ぐには
LIFULL HOME'Sの2025年の「実家暮らしに関する調査(一都三県)」によると、40代の実家暮らしの割合は26.4%。4人に1人が実家で暮らしている実態がうかがえます。40代・50代で未婚のまま親と同居を続ける単身者は増加傾向にあります。親の世代が70代、子どもの世代が40代に差し掛かるなかで、子どもの就労不安定や社会的孤立が長期化し、親の年金や蓄えに依存して生活が維持されている世帯は少なくありません。子どもが真面目に見える場合であっても、将来への不安や経済的焦燥感から、トラブルとなるリスクが潜んでいます。
また、子どもの借金やトラブルが発覚した際、親が最も避けるべきなのは「世間体や哀れみから自腹で肩代わりすること」です。保証人や連帯保証人になっていない限り、成人の子供が作った借金を親が返済する法的義務はありません。親が退職金や貯蓄を取り崩して完済しても、本人の金銭感覚や問題の根幹が解決していなければ、同じ過ちを繰り返すリスクが高まります。それどころか、親自身の老後資金が枯渇し、共倒れを迎えることになるかもしれません。
万が一、子どもの巨額の借金が発覚した場合は、感情的に肩代わりするのではなく、弁護士や司法書士といった専門家に相談し、任意整理や自己破産などの「債務整理」を本人に行わせましょう。また、通帳や印鑑などの貴重品は親自身が厳重に管理し、勝手な引き出しを防ぐ環境を整える必要があります。
子どもへの情愛と「家計の防衛」は切り離して考えなければなりません。子どもの過ちをすべて親が抱え込むのではなく、法律や公的サービスの力を借りながら、親自身の老後基盤を守ることこそが、家族全員が破滅する最悪のシナリオを回避するための道となり得るでしょう。

