財布にたまった小銭が邪魔になることはあるが…(shiii / PIXTA)※写真はイメージ

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財布の中で増えていく、1円玉や10円玉などの小銭――。会計のたびに「使おう」と思っていても使い切れず、少しずつ残ってしまうことがある。

そんな小銭をセルフレジに次々と投入し、買い物の支払いに充てる様子を描いた漫画が先日、Xに投稿された。

投稿者は、財布にたまった硬貨をセルフレジでまとめて処理する行為を「物騒すぎるライフハック」として紹介。別のアカウントは「マネーロンダリング(物理)」と表現した。

この漫画は注目を集めた一方、「店からすると故障やトラブルの元なので迷惑極まりない行為ということを解って欲しい」「エラー起きて詰まるんよ」「そういう行為はライフハックでなく迷惑行為です」など、批判の声も多数寄せられた。

実際に店員として働く人々からは、「大量の硬貨を投入されるとエラーや詰まりが発生して復旧に時間がかかる」という体験談や、「硬貨だけでなく財布の中のゴミや汚れた硬貨、変形した硬貨などが故障の原因になり得る」との指摘も寄せられている。

こうした問題を回避するためか、大手コンビニ「セブン-イレブン」の一部店舗では、セルフレジの硬貨投入口が一度に1枚しか硬貨を投入できない仕様になっている。

法律上、硬貨による支払いには、同じ種類の硬貨を20枚までとする制限がある。また、店舗の業務を妨害する意図で大量の硬貨を投入した場合には、犯罪が成立する可能性もある。

セブンは「硬貨1枚ずつ投入」の運用をテスト中

セルフレジで硬貨を一度に1枚しか投入できない仕様としている理由について、弁護士JPニュース編集部がセブン-イレブン・ジャパン社に問い合わせたところ、以下の回答があった。

セルフレジにおいては、硬貨詰まりが発生するとお客様のお買い物に影響が生じるため、日頃より対策の検討を継続しております。

詰まりの要因の多くは、硬貨の大量投入や硬貨以外の異物の投入であることから、その対策の一つとして、今回『硬貨を1枚ずつ投入いただく運用』をテストしております。

設置後は、レジの硬貨詰まりの減少が確認できており、一定の効果が得られています。

一方で、『投入に時間がかかる』等のご意見もあるため、効果と利便性の両面から今後の運用を検討しています」(広報担当者)

つまり前述したネットの声でも指摘されているように、硬貨の大量投入はセルフレジの詰まりを引き起こす要因であるため、セブン-イレブンは投入枚数を制限しているということだ。

同一額面の硬貨は一度に20枚まで

有人レジであっても、客が買い物の際に大量の小銭を使うと、それを数えなければならない店員に負担が生じ、営業に支障をきたすおそれがある。では、大量の小銭を使った支払いについて、法律上はどのようなルールが定められているのだろうか。

お金に関する法律に詳しい荻野晶太弁護士によると、日本銀行が発行する銀行券、いわゆる「紙幣」については、日本銀行法により「無制限に通用するもの」と定められている(46条2項)。したがって、紙幣については、枚数に関して法律上の制限はない。

一方、硬貨については、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」により、「同一額面の貨幣について額面価格の20倍までに限って通用する」と定められている(7条)。

つまり、同じ額面の硬貨で支払う場合、原則として20枚を超えると、店側は受け取りを拒むことができる。

「このような制限が設けられているのは、硬貨は日常的な少額決済には便利である一方、大量に用いられると、受け取る側にとって数える手間や保管の負担が大きくなり、円滑な取引を妨げるおそれがあるためです。

もっとも、これはあくまで相手方が受け取りを拒むことができる範囲を定めたものです。そのため、支払いを受ける側が同意している場合には、20枚を超える硬貨であっても支払いに用いることは可能です。

セルフレジについても、人の代わりに機械が受け取っているという点の他に違いはないので、同じルールが適用されると考えられます」(荻野弁護士)

損害賠償を請求される可能性は?

冒頭で紹介したネットの指摘にもあるように、財布にたまった小銭を処理する目的でセルフレジに大量投入すると、エラーや故障が起こる可能性がある。

このような行為で店側に損害を与えた場合、賠償請求が法的に認められる可能性が「まったくないとはいえない」と、荻野弁護士は警告する。

「たとえば、セルフレジに『〇〇枚以上の硬貨の使用はお控えください』など、使用できる硬貨の枚数について具体的な注意表示がされていたにもかかわらず、その枚数を超えて硬貨を投入し、その結果セルフレジが故障したような場合には、問題となり得ます。

このような場合、『利用者には注意表示に従って一定枚数を超える硬貨の投入を避ける義務があった』と評価される可能性があります。そして、その義務に違反したことにより店舗側に損害が生じたといえる場合には、損害賠償義務が発生する余地があります。

もっとも、注意表示が単に『大量の硬貨の使用はおやめください』という程度にとどまる場合には、『大量』が具体的に何枚を指すのかが明確ではありません。

そのため、そのような表示だけを根拠に利用者の義務違反を認め、損害賠償義務まで負わせることは容易ではないと考えられます」(荻野弁護士)

故意があるなら器物損壊罪や軽犯罪法違反も…

セルフレジを故障させたことにより、犯罪に問われるケースはあるのだろうか。

最初からセルフレジを故障させる目的で大量の硬貨を投入するような行為は、刑法261条の器物損壊罪に該当する可能性がある。法定刑は3年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金または科料(※)だ。

※1000円以上1万円未満の金銭の納付を命じられる刑罰

もっとも、通常、財布の小銭を減らすためにセルフレジへ硬貨を投入したにすぎないのであれば、仮にその行為が原因で機械が故障したとしても、それだけで器物損壊罪が成立するわけではない。同罪は、罪を犯す意思(故意)が要求される故意犯であり、過失によって物を壊した場合には成立し得ないからだ。

とはいえ、故障には至らなくても、小銭を大量に投入すると通常の支払いに比べて精算に時間がかかり、店員やレジに並んでいる他の客にとって迷惑になり得る。もし、店員や他の客に迷惑をかけたり、店舗の業務を妨げたりする意図がある場合には、軽犯罪法違反となる可能性がある。

「軽犯罪法1条31号は『他人の業務に対して悪戯(いたずら)などでこれを妨害した者を、拘留または科料に処する』と定めています。

そのため、単に支払手段として硬貨を使用したというだけでなく『店舗の円滑な精算業務を妨害する目的で大量の硬貨を使用した』といえる事情がある場合には、この規定に抵触する余地があります」(荻野弁護士)

ネット上でも「迷惑行為」と指摘されているように、硬貨の大量投入は、セルフレジの故障や他の客への影響につながる可能性がある。

場合によっては民事上・刑事上の責任を問われるおそれもあるため、「財布にたまった小銭を片付けたい」という場合でも、常識的な利用を心がけることが大切だ。