ふるさと納税で「白内障手術」や「美容整形」…地元患者にシワ寄せも? 識者が鳴らす警鐘

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肉の代わりに「白内障手術」?

ふるさと納税の返礼品といえば肉や米、海産物が定番だった。そこにいま、医療が入り込んでいる。

茨城県つくば市は’26年7月1日、市内の高田眼科が提供する「多焦点眼内レンズによる白内障治療サポート券」を返礼品に加えた。保険適用外の費用に充てられる補助券で、補助額15万円に対する寄付額は50万円。医院の発表では、最大150万円分(寄付額500万円)まで4種類が用意されている。対象は市外に住民票がある人で、転売や換金はできない。

先行例もある。北海道札幌市は’25年12月、GDHインプラントオフィス札幌のインプラント治療に使えるクーポンを返礼品にした。約33万円の寄付で10万円分になる。神奈川県藤沢市には湘南美容クリニック藤沢院のギフト券が並び、最高は30万円分だ。

同じ医療でも中身は違う。多焦点眼内レンズは’20年から選定療養に位置づけられ、保険診療に自己負担を上乗せする形をとる。インプラントや美容医療は全額自己負担の自由診療である。

なぜいま医療なのか。つくば市の企画経営課に尋ねた。

ふるさと納税は『つくば市にある物・サービスの魅力発信につながるもの』として捉えております。特に、実際につくば市を訪れる契機となりうる『体験型返礼品』については、力を入れていきたいと考えております」

高田眼科の返礼品も医院側からの相談で始まり、総務省の確認を経て登録に至った。市を訪れる契機になる点で、体験型の延長にあるという整理だ。

ただ、市の回答は歯切れがよくない。

「今回のテーマである『医療返礼品』については、積極的に拡充し、推進していく意向は持っておりません」

理由も添えられていた。

「総務省の承認を受けているものの、地場産品の基準が強化される流れの中で、つくば市ならではの役務として整理をすることが難しいものの1つです」

採用した当の自治体が、新たな柱にする気はないと明言している。

この現象を財政学者はどう見るか。ふるさと納税を研究する桃山学院大学経済学部の吉弘憲介教授に聞いた。

ルール厳格化で「医療」に熱視線

吉弘教授は、返礼品の基準が厳しくなったことを背景に挙げた。

「付加価値がどれぐらい地域内に留まるかという総務省の基準が、この1、2年で非常に厳しくなっています。過去には、本当にこの地域の特産品なのか曖昧な返礼品もあった。貴金属や金の加工物です。そこで、その地域で100パーセント生み出しているサービスに注目が集まった。それで医療が出てきたのではないかと推測しています」

形のないサービスなら旅行券や宿泊券が先にあった。医療はそれらと違うのか。

「原則的には同じだと思います。カリスマ美容師がいる町なら、その美容室の利用券も返礼品にできる。保険の効かない先端医療を入れること自体、髪を切るのとどう違うのかと言われたら、大きくは変わらない」

ただし、と続ける。

「これが今後、がん治療のような命に関わる内容に入ったとき、返礼品に乗せる意味は考えなければいけない。先端医療は今も市場でやり取りされ、命に値段がついている点は変わらない。それでも、ふるさと納税に乗せるのは別の話です」

税金で「医療を買う」倫理的矛盾

保険が効かない費用を、よその自治体の住民税で肩代わりする形になる。

「日本の医療体制は、そもそも大きな税と社会保険料で支えられています。自由診療でさえ、医師を育てるには多くの税金が入っている。医療や医師という存在自体がパブリックなんです。それを、税財政を私化するふるさと納税でさらに買おうというのは、制度的にはできますし、規制上も問題ない。ただ倫理的に望ましいかと言われると、大疑問を持たざるを得ない」

吉弘教授は以前から、ふるさと納税を公共を手放す制度だと指摘してきた。その中核にあるのが医療だ。

「しかも二重の形で入ってくる」

では、地場産品の基準で医療を止められるのか。

「旅館業はよくて医療はダメだという理屈を立てるには、付加価値率とは別の基準を作らないといけない。それが可能なのかは、今の時点では思いつかない」

次の標的は「高額な美容医療」

高額化には制度側でブレーキがかかった。’26年度の税制改正で住民税の特例控除額に193万円の上限が入り、’27年の寄付分から適用される。控除される寄付額は438万円ほどが天井だ。

「上限額が設定されたので、500万円の寄付で150万円の医療サービスというようなことは、事実上できなくなるはずです」

寄付自体はできるが、枠を超えた分は自己負担になる。問題は下の価格帯だ。

「ポイントになるのは100万円以下の、自腹では高いなというあたりです。調べたら美容整形が結構あって、金額も高かった。ああいうものは今後も増えてくるのではないか」

地方をスルー? 都市間で動くお金

もう一つ指摘するのが、お金の流れだ。ふるさと納税は自分が住む自治体以外にしか寄付できない。

ふるさと納税の流出源は東京、愛知、大阪といった都市部です。美容整形などが集中しているのも都市部。こういうものが増えれば、都市部から都市部へお金を移動し合う状態になる」

頑張る地域が寄付を集めて発展する。それが制度の建前だ。

「医療が返礼品の中核に入っていくと、制度が想定してきたものとは違うことが起きるのではないか」

一方、地方が医療に頼る事情もある。

「地域経済を支えているのは医療と公的サービスです。建設業がなくなって仕事がない地域で付加価値を維持するのは医療介護。それが返礼品として稼げるとわかれば、出していこうという話になる」

医療機関の側にも事情がある。

「コロナ後に急速に病院の経営が悪化しています。診療報酬に物価高を十分反映できず、実際に潰れ始めてもいる。経営を維持するために自由診療をやっていく判断はありうる。ただ、自由診療は余力のある人が受けるものです。経営が厳しい病院がある地域に、そういう人は多く住んでいない。都市部の需要を取り込みたい病院は意外と多いかもしれない」

地元患者が後回し? 医療圧迫の罠

医療資源には限りがある。

「いま100ある資源を、外から買われた分に割かざるを得ない。時間は24時間しかないので、通常の保険診療の時間を食うことが生じ得る。混雑という形で、その地域に住んで本当に病気の人が割を食う危険はゼロじゃない」

人間ドックや健診、歯科、痩身の薬や点滴を扱う内科もある。返礼品に並べば、近隣の都市部から人が動く。

「そこの医療資源を使っていることは間違いない。それが正しい公共のあり方なのかという疑問は出てきます」

医療を外せない現行ルールの壁

規制は入るのか。

ふるさと納税は、生じた問題に後から蓋をする形で続いています。問題だとなれば、来年からできなくなりますということは平気で起きる」

ただし、医療だけを外すのは簡単ではない。

「医療行為を規定する法律に基づくものはできません、と一括で規制するしか道がない。それはそれで反発が予想されます。他に高額で置き換えられるものがないからです」

自治体には、単価の高い返礼品を求める動機がある。

「小さい寄付をたくさん集めるより、100万円くらいのものが100件入るほうが効率がいい。高値で売れるものを探した結果、医療に注目する地域が出るのは不思議ではない」

医療はどの地域にも一定の水準で存在し、しかも地域内で完結するサービスでもある。

「総務省の指定制度からも全く問題ない。規制の強化と、日本の公的医療ネットワークが必然的に生み出した返礼品だと捉えることもできるかもしれません」

「やらないと負け」制度の末路

自治体が自制すればいい、という話にはならない。都市部にやめてくれと頼むのは、合理性を捨ててくれと言うに等しい。

「やる人とやらない人が二人いたら、やらない人は必ず負ける。負けるとわかっているゲームなら、自分もやると決めるしかない。合理的であるほど、やるべきだとなります」

制度全体としては、地方に回るお金をむしろ細らせるという。

「地方全体で使えるお金を、必ず少し減らす方向にしか働きません。ただ痛みは薄く広くばら撒かれ、勝ち組だけが突出して見えるので、やったほうがいいという見え方になる」

吉弘教授は3年前の取材で、ふるさと納税を未来を食べる行為だと語っていた。その見方はいまも変わっていない。

「返礼品の金額をものすごく低くするか、寄付額に上限をはめるか。つまりふるさと納税を不人気にするしかない。ただ、そちらに舵を取るインセンティブは現状ではすごく少ない」

それでも情報を届ける意味はある、と付け加えた。

「3年後、5年後にマイナスが出ますよという情報は、あまり人々に届かない。届かないので、ないことにされ、制度がより良いものだという情報のほうが強化される。ふるさと納税の行き着く先は必ずしも幸せな未来じゃないと言い続けることが大事です」

つくば市の回答に戻る。返礼品を出しながら拡充の意向はないと言い、市ならではのサービスとして整理するのは難しいと認める。制度の隙間で始まったものだと、いちばんよく分かっているのは当の自治体だ。

▼吉弘憲介(よしひろ・けんすけ) 桃山学院大学経済学部教授。1980年、長野県生まれ。’02年、法政大学経済学部卒業、’07年東京大学大学院博士後期課程単位取得退学、博士(経済学)。下関市立大学、桃山学院大学経済学部准教授等を経て2021年10月から現職。著作に『検証 大阪維新の会 「財政ポピュリズム」の正体』(ちくま新書、2024年)『アメリカにおける産業構造の変化と租税政策』(ナカニシヤ出版、2024年)など。

取材・文:田幸和歌子