「防衛大学校卒」「元自衛隊」の政治家が、国民民主党代表選挙出馬を決めたのはなぜか…本人が明かした日本の防衛のリアルな課題
国民民主党代表選挙で玉木代表候補と対決中の橋本幹彦衆議院議員。防衛大学校を卒業し、航空自衛官を務めたという経歴をもつだけに、彼の目指す外交安全保障増には特徴があると話題だ。
橋本氏が重視するのは、意外にも“戦略”でも“装備”でもなく、「理念と実態の乖離」であり、それが安全保障だけでなく、経済にも波及しているという。いったいどういうことか。本人に尋ねた。
「いまの日本の最大の課題とは」
「いまの日本の外交・安全保障の最大の課題は、知の回路ができていないことです。知の回路とは、経験を知識に変え、次の判断へ戻すサイクルですが、現在の日本外交・安全保障にはこのサイクルがないので、紙上で立案された戦略が、現実を無視したものになっているのです」
橋本氏はまず、こう断言する。現在の日本の安全保障戦略がどれほど優れたものであっても、それを現場の実情やデータ、それに外交におけるインテリジェンスを踏まえて「軌道修正や改善していくサイクル」が機能していない……というのである。
結果として、日本の国力が浪費され、国防の実効性を大きく損ねているというのが橋本氏の問題意識だ。
この指摘は抽象的に聞こえるかもしれない。しかし氏は、航空自衛隊での実体験をもとに、具体例を次々と挙げていく。
防衛現場の疲弊
橋本氏は自衛隊在籍時代、F-2戦闘機の整備部隊に所属していた。F-2戦闘機は、世間では「国産戦闘機」「平成の零戦」と称賛される機体だ。しかし橋本氏が体験した現場の実態はまるで違った。
「私が所属していた当時、F-2戦闘機に一部の部品が長期間供給されないことがありました。そこで、部隊にあるうちの1機を『部品取り用』にして、それを解体して別の機に充てて整備をするしかないこともありました。保有機数はそれなりにあっても、実際の可動状況の乖離が大きく、『書類上は戦える』はずの複数の機体が、実際には部品を取られて虫食い状態になって、想定通りには戦えない状態だったのです。
また、一部の米国由来の機器やソフトウェアについては、日本側だけでは解析や根本改修を完結できず、アメリカの技術者に高いお金を払ってきてもらわなければなりませんでした。それも、ファーストクラスで呼ばなければならないことも。改修などのために、莫大な費用がかかったわけです。
結論から言えば、戦闘機は開発・取得したら終わりではなく、運用・補給・改修まで含めた体制を整えなければならないのですが、いまの日本ではそれが十分な状態であるとは言えない。ここを変えていきたいんです」
当時の橋本氏はこうした状況を問題視し、「張り子の虎」と表現したが、先輩からはこう返された。
「張り子の虎どころじゃない。片足も顔も落ちてるし、尻尾も取れてる」
文書上の戦力と実際の可動状況には大きな乖離がある──これが、橋本氏が最も問題視する理念と実態の乖離だ。これでは「戦争を起こさせないための抑止」につながらないどころか、いざ有事となった場合の対処もおぼつかないのではないか、というのだ。
横文字だけが踊り、現場は変わらない
近年、自衛隊の内部では「ミッションコマンド」という言葉が流行語のように使われている。指揮官の意図と任務を全体で共有し、相互信頼と共通理解のもとで、現場の規律ある自主性を活かす指揮統制思想である。米軍が重視し、ウクライナ軍も導入を進めている概念だ。
しかし橋本氏は、これもまた「理念だけに留まっていた感がある」と指摘する。
「現場の自衛官はミッションコマンドについて、『理屈はわかるけれど、掛け声だけで、今までと何も変わらないよね』と受け止めていました。組織の中で横文字は増えても、理念が現場に十分定着していない……と、自衛隊の仲間は嘆いていました」
ドクトリンに立派なことが書かれていても、文字だけでは現場の実態は変わらない。これでは、どんなに素晴らしい戦略や潤沢な予算があったとしても、画餅と言わざるを得ない。この構造は決して自衛隊だけでなく、日本社会全体に広がる「理念と実態の乖離」の典型だ。
橋本氏は、自衛隊組織に留まらず、日本社会にもこの問題が広がっていると指摘する。たしかに私たちの職場でも横文字の言葉が増えてきている。「SDGs」「ウェルビーイング」「カーボンニュートラル」「働き方改革」--しかしこれらは、言葉の意味は理解できたとしても、本当に組織に浸透し、働く人を幸せにしているのか。その美名に伴った実態を現場にもたらしているのか。
こうした課題意識をもつ橋本氏は、国民民主党の代表になることで、自衛隊だけでなく、社会全体の理念と実態を一致させたいと力説する。
なぜ変わらないのか
橋本氏は、日本の組織で理念と実態が乖離する理由を二つ挙げる。
第一は、人事の短期ローテーションが生む“事なかれ主義”だ。防衛省・自衛隊の多くの職務やポストでは、概ね2~3年程度で人事異動が行われる。「限られた任期中に大ごとがなければいい」という心理が働き、構造改革どころか現状の業務の改善も進まない。また任期が短いため、ようやく仕事に慣れて人間関係を構築し、いざ自分のやりたいことをしようとしても、気づけば残りの任期が少ない……ということが往々にして起こっている。
第二は、理念の背景にある“哲学”が十分に言語化されていないことだ。理念を掲げても、その背後の哲学が整理されていなければ、言葉だけが空回りする。
橋本氏は、「たとえば、自衛隊のなかにある哲学を浸透させたいという場合、一人ひとりの使命感の強度が問題なのではなく、組織のトップが『自分たちは何のために戦うのか、何を守るのか』という国家レベルの原則を十分に言語化し、現場の判断基準に落とし込めていかなければならないのです」と強調する。
「自重互恵」という世界観
では、橋本氏自身は国民民主党の代表として、どのような理念を掲げるのか。彼が提示したのは「自重互恵」という言葉だ。
まず自重とは「自らを重んずる」こと。自衛隊においては、現場の超人的努力に依存する国防から脱却することを意味する。国民保護でも、沖縄戦の反省を踏まえ、有事があった際にはまず住民が安全に避難できる体制を整える。
次の互恵とは、自らを重んじながら、互いの自立を支えること。これも自衛隊を念頭に置くなら、前述の課題から、予算や人員を増やすだけでは、国防の目的は達成できない。
「大きすぎる力は相手を刺激し、小さすぎる力は無力。相手の能力と意図を見誤らず、必要十分な抑止力を整備し、過剰反応と過小評価の双方を避ける。そのための、バランス感覚をもった予算案・人員案を策定し、実施することが大事なんです」
この「自重互恵」の理念は、国防だけでなく日本社会全体にも必要な概念だと橋本氏は言う。重い税負担・残業・満員電車・狭い住居……国民が「我慢」で支えている構造を変え、時間・空間・精神の余力を取り戻すべきであり、そのための政策が必要、とのことだ。
「理念と実態が一致すれば、国防は初めて機能する」
橋本氏は最後に、理念と実態が一致した場合のメリットをこうまとめる。
「まず問題を正しく認識できるようになる。これにより優先順位が明確になり、平時と有事における判断や取捨選択が容易になる。結果、現場の混乱は減り、装備品開発が実態に即し、少ない予算でも最大の効果が発揮できるようになる――すべての政策において、この考え方を根底に置きたいと思っています」
理念と実態の一致。この概念が橋本氏の外交防衛戦略の根幹ということだ。
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