仕事での緊張感を吹き飛ばす方法は何か。企業研修講師の佐藤政樹氏は「以前所属していた劇団四季で学んだ、誰でも実践できる方法がある。身に付けておけば、強烈な不安や緊張も乗り越えられるだろう」という――。

※本稿は、佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方 うまくいかない自分を変える方程式』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■劇団四季で学んだ呼吸法のすごさ

私が所属していた劇団四季では、ダンスや歌、お芝居といった舞台パフォーマンスの質を安定させ維持するために呼吸法の体得が必須でした。プロの世界では、呼吸法が身についていなければ生き残れないほど重要視されています。

本番直前、舞台袖は強烈な不安と緊張に包まれます。特に主役として舞台に立つ直前の真っ暗な舞台袖は極限の境地でした。劇団四季の看板を背負い、1000人を超える観衆の前へ一歩踏み出す必要があったのです。

あのシーンを失敗したらどうしよう…
あそこがうまくいかなかったらどうなるのだろう…

次々と不安が自分を襲います。誰も自分を助けてはくれません。言葉は悪いですが、開演5分前のブザーの音が大きく響き、客席のざわめきが聞こえてくると、まるで処刑台に上るような心境でした。

その極限の境地で唯一自分を支えてくれるパートナーがいたのです。それが呼吸法です。

本来、舞台パフォーマンスの質を安定させるための呼吸法は、困難な境地で実践すると、不思議なことにその瞬間、心の中の“不安という灰色の霧”がすっと消えてなくなっていく効果があったのです。

漠然とした不安をその場で対処し、一歩踏み込んで勇気を生み出してくれる。私は呼吸法にそんな力を感じました。この「自分で自分を支え回復させる力」は、舞台だけでなく、心がざわつく苦しい局面でも私を救ってくれました。

その後の人生の様々な転機においても、私を支え続けてくれたもの。それが、自分の内側に備わっていた「呼吸法」だったのです。

ここからお伝えする呼吸法は、私がプロの世界で学んだものをビジネスパーソンが実践できるように応用したものです。不安への対処法を知っているかどうかは大きな差です。知っていればあなたの財産になります。これからの人生であなたを支える“一生のパートナー”だと思って、一緒に取り組んでいきましょう。

■自己回復力を高める呼吸法のやり方

ここからは、私が極限の境地でそのすごさを体感した呼吸法を、ビジネスパーソンでも実践できる形に落とし込み、次の流れで解説していきます。

(1)結論と呼吸の本質
(2)呼吸のポジションの考え方
(3)基本動作:吐ききって脱力
(4)息を支える
(5)今日からできる実践ワーク(ロングブレス)

では進めていきましょう。

■呼吸の本質は「吸う」ではない

(1)結論と呼吸の本質

自己回復力を高め、あなたを支える呼吸法とは何か。一言で表現すると「腹の底から深く息をコントロールしながら長く吐くこと」です。

呼吸に意識を向け、腹底から深く長く息を吐くことで、漠然とした不安感に対処することができます。詳しくは次の項目で触れますが、日常の些細な場面で繰り返すことで、心は少しずつ安定していきます。

呼吸がもたらすよい効果のエビデンスはあまりにも多くあるのでここでは割愛しますが、呼吸法は日常の様々な場面で応用できる再現性ある技術なのです。

「落ち着いて深呼吸しましょう!」というと「吸って〜、吐いて〜」こんな言葉が浮かびませんか。この時、“吸う”が順番として先にきていますが、実は呼吸の本質は“吐く”ことです。

吐いた結果、息は後から勝手に身体の中に入ってくる。これが劇団四季というプロの世界で最初に習ったことでした。

ただ何となく吐くのではなく、“コントロールしながら長く吐く”ことを実践することで、不安感や胸がざわざわモヤモヤする症状に、その場で対処することができるようになったのです。

では次に、そのための呼吸のポジションについて説明します。

■3カ所の“ゴムボール”を意識して呼吸

(2)呼吸のポジションの考え方

「真人の息は踵(かかと)を以てし衆人の息は喉(のど)を以てす」

これは、劇団四季の稽古場の入り口に掲示されていた、中国戦国時代の思想家「荘子」の言葉です。プロは足の裏ほど深い意識で呼吸するのに対し、素人は喉や胸といった浅い呼吸をしている-こんなニュアンスでしょうか。つまり深い呼吸の意識が重要ということです。

次の図をご覧ください。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

喉・胸・お臍(へそ)の少し下あたりに丸いゴムボールのような印がありますね。この印は呼吸の意識がどこに向いているかを確認するためのものです。

息が身体に入っていく時にゴムボールが膨らむ。息が外に出ていく時にゴムボールが萎(ちぢ)む。こんなイメージをしてみてください。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

多くの人は、喉や胸といった浅いポジションで呼吸をしています。しかし劇団四季のプロの世界では、呼吸の意識を深く深く、腹底のコアポジションまで落とすことが、安定した高いパフォーマンスのために必要不可欠だったのです。

まずは、この図のコアポジションの位置を体感して頂きたいと思います。次の図表をご覧ください。これは私がバレエ「ルミエール・フロアメソッド」で後藤早知子先生から習ったワークです。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

普段から呼吸の意識をこのコアポジジョンくらい深く捉えておくことが大切です。 息が浅い時の自分に気づけるからです。

これから自己回復力を高める呼吸法を実践しますが、このコアポジションから息を流し、 コアポジションに返ってくる。この流れを掴んでいきましょう。

■吸うのではなく「息を取り込む」

(3)基本動作:吐ききって脱力

次に呼吸の基本動作である“吐ききって脱力”を解説します。

先ほど、呼吸の本質は“吐く”ことで、吐いた結果、後から勝手に息が身体の中に入ってくる、とお伝えしましたね。息を吐ききって、下腹部全体を脱力して緩めることで勝手に息が取り込まれてきます。これが基本動作の“吐ききって脱力”です。

では実践してみましょう。

膝を立てて仰向けに寝た状態で、コアポジションを意識しながら、まずは口から息を吐いてみます。もう息が出ないというくらい一度吐ききってみましょう。この時、肛門を軽く引き締めるように吐いてみてください。

もう吐けないなというくらいになったら数秒キープし、締めた肛門を緩めると同時に腰回り全体をゆっくり脱力してみます。すると、多くの方が、お腹の底に息がすーっと取り込まれる感覚を感じます。

逆に、吐ききった後に、意図的に息を吸いこんでみてください。胸のポジションあたりが膨らむと思います。これが、息がうわずっている状態です。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

吸うのではなく“息を取り込む”です。呼吸法において“吸う行為”は意図するものではなく、脱力した結果として起こるものなのです。これを練習時の標準にしていきましょう。

「吐く時は口からですが、取り込む時はどうしたらいいですか?」

とてもたくさん頂く質問です。舞台俳優の場合、鼻から取り込むことで唾液が気管に入り咽せるのを防げるため、鼻からを勧めています。厳格な決まりはありませんが、あなたが仕事で歌など必要のないビジネスパーソンなら、口でも鼻でも自分がやりやすいほうで構いません。

■長く吐くためのテクニック

(4)息を支える

ここからは少しマニアックに感じるかもしれませんが、できる範囲で大丈夫です。次は「息を支える」を体感していきましょう。

息を長く吐こうとすると、支えがないとすぐに息がなくなってしまいます。試しに「はひふへほ」を一息で繰り返し言ってみてください。

おそらく数回も続かないはずです。それは息が支えられていないからです。しかし息が支えられていると「はひふへほはひふへほはひふへほ〜」と5〜10回連続で言えたりします。

これは“息を支える”感覚を掴むための一例ですが、「腹の底から深く息をコントロールしながら“長く”吐く」ためには、この支えが欠かせません。

では実際にやってみましょう。

先ほどと同様に膝を立てて仰向けになって床に寝ます。今度は、お臍の少し下辺りに、辞書くらいの分厚い重みのある本を置いてみましょう。息を吐くと本が床に向かって下がる動きをするはずです。

次に、息を吐く時に本が床に向かって下がらないように、お腹の底にあるゴムボールを上に向かって張り続けるようなイメージで息を吐いてみてください。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

吐くことで萎む腰回りを、萎ませないように張り続ける。これが息の支えです。張り続けるといっても、強く固める必要はありません。しなやかに張りを保つイメージです。この意識で息を吐くと、首や肩に力が入らず、深く長い息を吐けるようになります。

■息を細く長く吐く「ロングブレス」

(5)今日からできる実践ワーク(ロングブレス)

では最後に今日からできる実践ワークです。それが「ロングブレス」です。この言葉はダイエットの世界で一時期話題になりましたね。

ホースで庭に水を撒く時に、ホースの先をつまめば水量を調節して遠くに飛ばせますよね。しかしここでのロングブレスは、口先で息をコントロールするのではなく、口は開放し、腹底で細く長い息をコントロールしながら吐いていきます。

ロングプレスを次の図表で説明したのでやってみてください。

出典=佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方』(日本実業出版社)

日本では、人が亡くなる瞬間を「息を引き取る」と表現します。吐く力が失われ、息と共に命の終わりを迎える。そんなニュアンスだと私は捉えています。

佐藤政樹『世界一やさしい「ブレない自信」のつくり方 うまくいかない自分を変える方程式』(日本実業出版社)

逆に言えば、息を吐けることは生命の象徴でもあります。コントロールしながら息を吐く練習をすること。これが自家発電のように、自分で自分を回復させるエネルギーに繋がるのではないでしょうか。

プロの俳優は高いパフォーマンスのために、この呼吸法を完璧にマスターする必要があります。しかし、あなたはプロの俳優ではないので、完璧である必要は全くありません。気軽な気持ちで取り組んでください。

不安になったり、心がざわざわモヤモヤした時には、「口を開放し、お腹の底から細く長い息を吐き続ける」。このことを思い出してみてください。

目を閉じて、自分の好きな風景をイメージしながら呼吸法を実践すると、相乗効果があってとてもいいです。

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佐藤 政樹(さとう・まさき)
企業研修講師/講演家
1975年生まれ。28歳で劇団四季と気象予報士試験にダブル合格。劇団四季では『ライオンキング』などへの出演を果たし、入団8年目に『人間になりたがった猫』で主役としてスポットライトを浴びる。その後、ビジネス経験ゼロから飛び込み営業の会社に就職。約500名近くいる社員の中で「多大なる貢献をした社員第2位」を獲得。自身の経験をもとに講話をしたところ、口コミで全国に拡がり、現在は日本のリーディングカンパニーはじめ500社5万人以上の研修講師となる。プレゼンの殿堂TEDxにも出場し日本人では異例の50万回再生。著書に『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)がある。
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(企業研修講師/講演家 佐藤 政樹)