高市内閣の消費税減税策が円安阻止の“障害”に?…財政懸念残る一方、今週は介入警戒感から上値が重い展開か【今週の米ドル/円予想レンジ「155〜159.5円」の根拠】
日米協調介入の影響を受け、一時1ドル=155円まで米ドル安・円高が進んだ先週。高市内閣が「消費税減税」政策を決定したことを受け「円安の流れは大きく変わらない」との見方も根強いなか、テクニカル面では上値の重さが意識される展開となりそうです。マネックス証券チーフFXコンサルタント・吉田恒氏が、先週の為替相場を振り返るとともに、今週の展開を予想します。
8月11日〜8月17日の「FX投資戦略」ポイント
<ポイント>
・日米協調介入を受けて一時155円台まで円高に。その後158円台まで円安に戻したが、「NFPショック」で米ドル安・円高へ反転。
・協調介入でも、日本の財政懸念が続くなかでは円安の流れは変わらないとの声は根強い。ただテクニカル的には、ヘッジファンドの損益分岐点である120日MAの159円半ばを超えなければ米ドル/円の上値も重いのではないか。
・今週の米ドル/円は「155〜159.5円」と予想。
協調介入で一時155円台まで円高も、その後158円まで戻した先週
先週の米ドル/円は、週初に日米の通貨当局が円買いの協調介入を実施したことが確認され、「今後も必要なら躊躇なく対応する」と述べたことを受け、追加の米ドル売り・円買い介入が行われた可能性もあったことから、155円台まで円高が進みました(図表1参照)。
[図表1]米ドル/円の日足チャート(2026年4月〜) 出所:マネックストレーダーFX
その後はジリジリと158円台まで米ドル高・円安に戻す展開となったものの、金曜日に発表された米7月雇用統計で、NFP(非農業部門雇用者数)が予想を大きく下回り、前月比2万人減という「NFPショック」となったことから米利上げ観測が後退すると、米ドル/円も一時156円台後半まで下落しました。
投機筋の円売りポジションが急減…円高を後押しした介入以外の要因
日本の通貨当局は、7月30日から米ドル売り・円買いの為替介入を再開し、その後も断続的に介入を実施したとみられます。加えて、米当局もユーロ売り・円買いで市場に介入。円買いの「日米協調介入」が行われたのは1998年6月以来のことです。こうした動きを受け、米ドル/円は163円台から先週は155円台まで大きく米ドル安・円高に戻すところとなりました。
為替介入以外にこの円高を後押しした要因としては、投機筋の円売りポジション処分に伴う円買い戻しの動きがあったとみられます。
CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、介入再開前は売り越し(米ドル買い越し)が過去最高の18万枚に迫る16万枚まで拡大していましたが、4日時点では4万枚まで、一気に4分の1に縮小しました(図表2参照)。
[図表2]米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2026年1月〜) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
介入を受けた急激な円高による円売りポジションの損失拡大を避けるため、投機筋が円買い戻しを急いだことが、当局の介入による円買いと相まって、一時155円台までの米ドル安・円高の動きを後押ししたと考えられます。
消費税減税で円安再燃…高市総理が円安阻止の“障害”という構図に
ただ、155円台で円高が一段落すると、その後は一時158円台まで米ドル高・円安に戻すところとなりました。ここで相場の手掛かりのひとつとなったのが、与党・自民党による消費税減税の決定を受けて、財政規律への懸念が再燃したことです。
これを受けて、日本の長期金利である10年債利回りは一時2.8%まで上昇し、円売りが再燃する要因になったとみられます(図表3参照)。
[図表3]米ドル/円と日10年債利回り(2026年4月〜) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
以上のようにみると、日米協調介入によって円高へ反転させたものの、その効果が高市総理による消費税減税決定によって円安方向へ押し戻されたともいえそうです。客観的にみれば、結果として高市総理が円安阻止の“障害”になったという、やや皮肉な構図がみえてくるのではないでしょうか。
協調介入でも、財政規律への懸念続くなら円安基調は変わらない?
テクニカルな分岐点は120日MAの「159円半ば」
日米協調介入の実施を受けて、米ドル/円は円安基調から円高へ大きく反転しました。ただ、高市内閣が財源が曖昧なまま消費税減税を進めようとしていることから、財政規律への懸念を主因とした円安の流れは変わらないとの見方も根強くあります。そこで、この先の米ドル/円の行方について、改めて考えてみます。
米雇用統計の「ネガティブ・サプライズ」を受け、早期の米利上げ観測は後退しました。その一方で、日米協調介入後にはベッセント米財務長官らが日本の早期利上げへの期待を示唆し、日本では逆に利上げ観測が高まっています。
こうした動きを受け、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は先週にかけて比較的大きく縮小し、協調介入をきっかけとした米ドル安・円高の戻りを正当化する状況となりました(図表4参照)。このような日米金融政策の見通しは、米ドル/円の上値を抑制する要因になるでしょう。
[図表4]米ドル/円と日米政策金利差(2026年4月〜) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
また、もう1つ円安を抑制しそうな要因として、これまで円安の主導役とみられた投機筋の円売りが鈍化する可能性が挙げられます。
代表的な投機筋であるヘッジファンドの円売りポジションの損益分岐点の目安とされる120日MA(移動平均線)は、足下で159円半ば程度を推移しています(図表5参照)。この水準より米ドル安・円高で推移している局面では、ヘッジファンドは円売り拡大に動きにくく、むしろ円売りポジションの処分や、円買いへ動く可能性があります。
[図表5]米ドル/円と120日MA(2022年〜) 出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成
今週の米ドル/円予想レンジは「155〜159.5円」
今週はCPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)といったインフレ指標に加え、小売売上高など注目度の高い米経済指標の発表が予定されています。これらの結果を踏まえ、先週の「NFPショック」で後退した早期米利上げ観測が改めて吟味されることになるでしょう。
テクニカル面では、ヘッジファンドの円売り・円買いの分岐点とされる159円半ば(120日MA)に注目しています。米ドル/円がこの水準を大きく超えてくるようなら投機筋の円売りが再燃する可能性がありますが、この水準を超えられない場合には、むしろ投機筋が円買い拡大に動く展開も考えられます。
個人的には、介入再開への警戒などから米ドル/円が120日MAを上抜けるのは難しいと考えるため、今週の米ドル/円は上値が重く、「155〜159.5円」のレンジで推移すると予想します。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長
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