「南海トラフ巨大地震」で人間の「闇」がむき出しに…1本のペットボトルの水で一触即発の「世紀末状態」をどう生き残るかという究極の問い

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今年(2026年)で東日本大震災(2011年3月11日)から15年。環太平洋火山帯に位置する日本列島は、揺れから逃れられない宿命にある。日本気象協会の過去の地震情報を確認すると、震度1以上の揺れは、ほぼ毎日、列島のどこかで起こっている。熊本地震(2016年)、能登半島地震(2024年)など甚大な被害の爪痕を残す地震も少なくない。そんな中、いつ起きてもおかしくないと想定されているのが南海トラフ巨大地震だ。

未曽有の揺れに私たちはどう行動し、どう対処し、どう生き残る道を探ればいいのか。4月23日に第5巻が発売する漫画『南海トラフ巨大地震』(講談社刊)の原作者bikiさんに、執筆意図と地震後の世界での生き残り方などを尋ねた。(取材・文=渡邉寧久)

【前編を読む】<【南海トラフ巨大地震】エレベーターに数日閉じ込められ、死ぬかもしれない…その時のために考えておくべきこと>

描いたのは、災害時の人間心理のリアル

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、本来なら救出にまわる側の人員も被災し、さらに被害が甚大だったために、公助だけではどうにもならない事態に陥った。公助の代わりに機能したのが人々の助け合い、一般市民が人命救助を行う「共助」だ。

漫画『南海トラフ巨大地震』でも、物語は公助ではなく共助から始まる。

被害状況がリアルに分からない中、人々は生き延びるためコンビニに殺到し、巨大ショッピングモールは野戦病院にも似た様相を呈する。

「災害直後は心理学的にも、ドーパミンが出て人々は頑張ろうとする」(bikiさん)というデータそのものに、無傷の人は夢中で怪我人を助けたりしている。これは長期戦になるぞ、と冷静に踏んでいるのは元レンジャー隊員くらいだ。善意の人々は食料を無計画に分け与えてしまい、善意より生き抜く本能を優先する人たちは、1本のペットボトルの水をめぐってさえも本能をむき出しにし、一触即発の緊迫した事態を巻き起こす。

「もともと治安のいい国や地域で災害が起きた時は、治安は維持されるだろうという研究結果があります。ただ、世紀末状態に陥ったら、どうでしょうか。人間のメンタルは、短期的には英雄的な行動をしようとしますが、時間が経つとマイナス面の衝動が出やすくなる。震災のフェーズが進んでいくと、ヒトの闇の部分が見えてくるのではと思っています」

物語の進捗と人間心理の移ろいをリンクさせ、bikiさんは時間軸やキャラクターを動かしていく。ステレオタイプに決めつけない。登場人物たちは、手探り状態ながらも局面によって少しでも適切な行動を選択しようと奮闘する。命が懸かった究極のクイズのような緊迫感と、人間が持つ柔軟性に救われる思いが、全編を通して読み取れる。

「自分ならどうするか」を作品を通して考えてほしい

「日本の半分がマヒする事態になったら、もうどうなってもいいやという人も急増するでしょう。想像を絶する事柄も起きるのだろうと思います。そこから復興までにいったいどれほどの時間や、コスト、マンパワーが必要なのか、そんな風に想像を巡らすと恐ろしい」

絶望的な状況下で、主人公は自問しながら行きつ戻りつし、颯爽としたヒーロー風には全然動けない。先走り気味になると、元レンジャー隊員が、冷静で俯瞰的な見地から待ったの冷や水を浴びせかける。

「あまりヒーロー漫画っぽくはしたくなかったので、最初はヒロインも出さなかった。高齢社会ですから、(主人公が)被災し困窮している高齢者に出会う可能性は高い。その際読者が、あ、コレ自分ならすぐ助けるな、と8割がた想像できるような状況は描きたくないのです。逆に、あえて意見が分かれる(賛否が)フィフティフィフティに割れるような場面設定にして、あなたならどうする? と、この作品を通してずっと読者に問いかけていきたい」

bikiさんが作り出すシチュエーションは、善悪や自分事か他人事か等で、直感的に妥当な選択肢が思い浮かぶような単純性は持ち合わせていない。4月には第5巻が発売されるが、今後の展開について「大災害が持つ多面性に焦点を当てて描き出せれば」と見通す。

「災害のフェーズは刻々と変わります。それを多視点から描き出すパートも考えています。ミクロだったり、マクロだったり、立ち位置によって捉え方はいろいろ異なる訳です。今後はトリアージの話、災害医療の話、避難所の運営の話なども描ければと思いますし、災害時に寝ずに仕事をしている隠れたヒーロー、ヒロインがどれだけいるのか、といったことも、ノイズにならない範囲で描き進めていきたいですね。最終的に、ここまで描けたらいい、というベンチマークは既にあって、ざっくりしたプロットも頭の中にはあります」

来たる災害に備えて、今からできることとは

首都圏から静岡、名古屋、大阪、高知、宮崎、鹿児島まで、太平洋岸の日本列島が一気に被災地になってしまう南海トラフ巨大地震。

揺れ、家屋の倒壊、火災、津波に加え、電気・ガス・水道が止まり、交通インフラが崩壊し、スマホは役に立たず、コンビニ・スーパーに食品が届かず、やがて人々の心も崩壊……。何もかもが崩れ去っていってしまうかもしれない、アフター南海トラフ巨大地震。

人間は巨大地震に対してわずかな準備をすることくらいしかできない。そしてそのわずかな努力さえ怠ってしまえば、あなたや家族が生き残る確率はグッと下がるかもしれない。

「自宅では、非常食を備蓄し、非常用電源も確保しています。1週間分程度が推奨されていますが、もう少し長く2週間分くらいはしています」

「災害時に自分がどこにいるかで8割9割、その人の運命も決まるでしょう。防災対策ができている自宅で被災したなら、あるいは想定に近く動けるのかもしれません。けれど主人公のように、海沿い等で被災したら? 電車の中だったら? 首都高速だったら? 外出先で被災した場合にも備え、リュックにはホイッスルとかチョコレートや飴、ペットボトル、大きなビニール袋、充電バッテリー等はいつでも入れてあります。本当に最低レベルの備えですけれど、これ等があるだけでも違うだろうと思いますよ」

いつ来るか分からいない南海トラフ巨大地震に過度におびえ過ぎることなく、けれども小さなことから常に備えを確認し続けることこそが、いちばん大切なのだそうだ。もちろん、いざという時のシミュレーション用に『南海トラフ巨大地震』(現在、1〜4巻発売中!)に目を通しておくことも、お忘れなきように。

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