五輪惨敗のカーリング 「野球のように選抜チームを作るべき」が的外れな3つの理由
ミラノ・コルティナ五輪において2勝7敗と苦戦し、10チーム中8位に終わったカーリング女子日本代表「フォルティウス」に対してネット上で激しい批判が集まっている。2018年平昌五輪、2022年北京五輪では「ロコ・ソラーレ」が日本代表として戦い、それぞれ銅メダルと銀メダルを獲得しただけに、彼女たちと比較して技術的・戦略的あるいは精神的な未熟さを指摘する書き込みも少なくない。【前後編の前編】
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世界的にも“選抜しない競技”
野球やサッカーなど団体競技の日本代表チームというのは、その時点で最も優れているとされる選手たちを選抜して編成される。しかしカーリングの日本代表は、選抜チーム方式ではなく、フォルティウスなどチーム単位で日本代表権を争う。そのため、素人目にはわが国のベストの布陣には見えない。このことが激しい批判を受けやすい一因となっているのではないか。

そもそも、なぜカーリングの日本代表は選抜チーム方式を採用していないのだろうか。
スポーツライターが解説する。
「第一に、カーリングは個人ではなくチーム完成度が重要であるという競技特性を持っているためです。たとえば野球にも連携プレーはありますが、本塁打だったり奪三振だったり個人技で決着がつくことも多いですよね。でもカーリングは、個々のスター選手の一投よりも4人プラスリザーブの“固定メンバー”の連携が勝敗を大きく左右するのです。個々のショットの精度が低くても、後に投げる選手がいくらでもリカバーできます。それより重要なのはコミュニケーション。戦術や氷の読みやストーンのクセなどを正確に共有することこそが肝要で、それらは長期間一緒にやらないと噛み合わないものなのです」
ゆえに、“上手い人を集めた即席ドリームチーム”よりも“何年も一緒に戦ってきた気心知れたチーム”の方が圧倒的に強いのだという。
「カナダやスウェーデン、スイスなど世界の強豪国も、クラブチーム代表方式。国内で行われた大会の優勝チームがそのまま国の代表になるという“クラブチーム=ナショナルチーム方式”を採用しています」
つまり日本だけが特殊なのではなく、世界的に“選抜しない競技”となっているというのだ。実際に、世界トップ層において“国内1位チームの2選手+2位チームの2選手”でチームを編成したら弱体化し、国内中堅チームにすら負けてしまうという現象が発生した。過去に強豪国が“選抜代表化”した時代はあるにせよ、大抵は失敗して元に戻しているという。
“監督のあり方”が独特
選手それぞれの役割の違いにも着目しないといけない。
「たとえばサッカーの場合、FWは点を取る、DFは守る、などと役割が固定化していますが、カーリングでは、全員が戦術を理解し、全員が氷を読み、全員でミスを修正する。思考の同期が競技力になっているのです」
さらに、他に類を見ないほど独特なのが、監督のあり方である。
「カーリングは、監督が試合中に指示できません。野球やサッカーでは監督に戦術決定権がありますし、バレーボールなども監督が試合を中断して選手たちに戦術を伝える。でもカーリングは、選手がタイムアウトを取って監督に相談することはできても、監督側からゲームに介入することは許されていません」
すると、どうなるか。
「ほぼ全戦術を主将であるスキップが決めます。戦術の責任がスキップ一人に集中しているため、スキップ中心の人間関係、信頼構築が競技力を引き上げることになります」
実際のところ、国際試合では「フォルティウス」や「ロコ・ソラーレ」などのチーム名は使われず、「チームヨシムラ」「チームフジサワ」などスキップの名前を冠したものとなっている。それほどスキップの存在は絶大なのである。
「したがって、選抜方式を導入しようとすると、まず“誰がスキップになるか”から歪みが生じ、初っ端から人間関係が崩壊する恐れがあります。試合中も戦術選択で揉めるでしょう。判断スピードは低下し、勝率が急落すること必至です」
一般的な団体競技における選抜チームでは、仮に選手間で意見が合わなかったとしても、最終的には監督が判断すれば済むわけだが、カーリングではそう簡単にいかないのである。
オーケストラとジャズセッション
「他にも理由があります。試合直前に選抜チームが行う合宿制度はカーリングと相性が悪いんです。選抜方式だと、普段は別チームでプレーしている選手たちが、国際大会直前に集合して数週間で仕上げる。でもカーリングは、ショット順、戦術の優先順位、ミスのフォローなどが無意識レベルで共有されていないと厳しい。個々の溝は、短期間の合宿では絶対に埋まりません」
ダメ押しは、カネの問題である。
「強化費は限られています。選抜しても世界で勝てる保証はなく、むしろ既存チームの完成度を壊すリスクが高いため、選抜チームを作るよりも強い既存チームをそのまま出す方が合理的です。“代表を選ぶ競技”ではなく、“代表になるチームを育てる競技”なのです」
たとえて言うなら、サッカーなど多くの団体競技の選抜チームは「オーケストラ」。そこには譜面があり、指揮者がいて、優秀な演奏者がいる。
しかしカーリングは、指揮者無し、全員が即興で曲を作る、いわば「ジャズセッション」なのである。
唯一例外的に成立するケースとは
カーリングという競技の特殊性、そしてスキップの重要性が非常に高い、ということはわかった。それならば、まずその国で一番優秀なスキップを選び、そのスキップが残りのメンバーを決めれば良いのではないか。
「その案は、理屈としてはかなり正しく、唯一成立しうる選抜方式といえるかもしれません。ただ、それでも現実的に厳しい理由がいくつかあります。まず、“一番優秀なスキップ”を決められない問題。カーリングにおいてスキップの評価は極端に曖昧です。チームの完成度に依存しているからです。単に“良いチーム”に乗ってるだけの可能性がありますし、得点貢献率など個人指標がほぼ意味を持たない。つまり、スキップ単体の実力を分離評価できないのです」
野球ならOPSなどの諸指標、サッカーなら得点関与率などがあるが、カーリングの個人成績は大会や対戦相手のレベルに差がありすぎて役に立たないのだとか。
「それに、スキップを“王様”にすると人材が集まりません。理論上はスキップが自由に選べば最強と言えそうですが、現実にはトップ選手ほど“部下扱い”を嫌うもの。結果、二流だけが集まるチームが完成してしまいます」
実はこれも海外で実例があり、失敗に終わっているという。ただし、例外的に成立するケースがある。
「そのスキップが既に世界トップチームを持っている場合です。つまり、選抜チームではなく、最強スキップのチームがそのまま代表になる。これは結局、今の方式と同じですけどね」
なんだか『ねずみの嫁入り』のように話が元に戻ってしまったが、まだまだ納得できない方もおられるだろう。
後編では、たとえば、「トップ選手ほど部下扱いを嫌う」というが、「あなたを五輪に出してあげますよ」と誘われたら拒否する選手はいないのではないか、などの疑問について深掘りしている。
デイリー新潮編集部
