イギリス・スコットランドを拠点としていたロケット開発企業「Orbex(オーベックス)」は現地時間2026年2月11日、管財人選任の手続きを開始したと発表しました。自社開発の小型ロケットによる初のテスト飛行を2026年中に予定していましたが、資金調達の失敗と買収交渉の決裂により、事実上の経営破綻となりました。


買収交渉はイギリス政府がブロックか

2015年に設立されたOrbexは、全長19mの2段式小型ロケット「Prime(プライム)」を開発していました。バイオプロパンと液体酸素を推進剤に使用し、従来のケロシン系燃料と比べてCO2排出量を最大90%削減できるとされる低炭素設計が特徴です。イギリス政府から総額2600万ポンド(約52億円)の公的融資を受けており、2025年1月にはイギリスのビジネス担当大臣が「国内の宇宙産業を変革する」と期待を寄せていました。


当初はスコットランド北部のサザーランドに自前の宇宙港を建設する計画でしたが、2024年後半に建設を無期限凍結し、シェトランド諸島のサクサヴォード宇宙港へ打ち上げ拠点を移しています。


その後も経営の悪化は止まらず、2026年1月にはデンマークのロケットエンジン子会社「Orbital Express Launch ApS」が破産申請し、約90名が職を失いました。Series D(第4ラウンド)の資金調達は成立せず、英国の国家資産基金からの追加融資もリスク懸念で見送られました。


最後の望みだったフランスの宇宙スタートアップ「The Exploration Company」による買収交渉も決裂。ヨーロッパの宇宙専門メディアであるEuropean Spaceflightの報道によると、イギリス政府がこの買収を阻止した可能性が指摘されています。ロケットという安全保障に関わる機微技術の海外流出への懸念に加え、2600万ポンドもの公的資金を投じて育成した知財がフランス側へ渡り、イギリス独自の宇宙輸送能力が失われることを警戒したためとみられています。


【▲ Orbexが2026年2月に公開した小型ロケット「Prime」の組立中の様子。フェアリングと第2段が飛行形態に統合された状態で、カーボンファイバー複合材の黒い機体構造が確認できる(Credit: Orbex)】

破綻の直前、Orbexは製造中のPrimeロケットの画像を公開しています。第2段とフェアリングが飛行形態に統合された構造体や第1段タンクの部品が確認でき、技術的にはかなりの段階まで進んでいたことがうかがえますが、1機のロケットも打ち上げることなく、経営破綻という結末を迎えました。


なお、Orbexが計画していたサザーランド宇宙港の権利については、ライバル企業のSkyrora(スカイローラ)がリース権を含む資産取得に最大1000万ポンド(約20億円)を投じる意向を示しています。


ESAの小型ロケット育成プログラムは残り4社に

Orbexの破綻は、ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の小型ロケット育成プログラム「European Launcher Challenge(ELC)」にも影響を与えることになります。約9億ユーロ(約1440億円)が投じられるこの取り組みでは、2025年7月にOrbexを含む5社が選定されましたが、参加企業は2027年末までの軌道投入実証が求められています。


残る候補の4社についても触れておきましょう。


ドイツの「Isar Aerospace(イザール・エアロスペース)」は、Spectrum(スペクトラム)ロケットの初飛行を2025年3月にノルウェーのアンドーヤ宇宙港で実施しました。ヨーロッパ大陸からの民間初の軌道打ち上げ挑戦として注目を集めましたが、打ち上げ約30秒後に姿勢制御を失い墜落。現在は2回目の飛行を2026年3月以降に予定しています。


同じくドイツの「Rocket Factory Augsburg(ロケットファクトリー・アウクスブルク:RFA)」は、サクサヴォード宇宙港に52mのアンビリカルタワーや管制センターを完成させるなどインフラ面では先行しており、RFA Oneロケットの初飛行を2026年後半に目指しています。


スペインの「PLD Space(ピーエルディー・スペース)」は「Miura 5(ミウラ5)」の初飛行を2026年中にフランス領ギアナのクールーで計画しています。直近ではスペインの衛星通信企業との打ち上げ契約を獲得するなど商業面でも動きを見せています。


フランスの「MaiaSpace(マイアスペース)」はAriane 6を手がけるArianeGroupからのスピンオフ企業で、再使用型ロケットの2026年中の初打ち上げを掲げています。


Ariane 64成功の裏で際立つ格差

Orbex破綻が発表された翌日の2月12日、ESAの大型ロケット「Ariane 6」のブースター4基搭載型「Ariane 64」がクールーから初飛行に成功し、Amazonの衛星インターネット通信サービス「Amazon LEO」の通信衛星32機を低軌道へ投入しました。地球低軌道(LEO)への打ち上げ能力は約21.6トンです。ESAのアッシュバッハー長官は「欧州のロケット群がこれで完成した」と述べました。


【▲「Ariane 6(Ariane 64)」ロケット(Credit: ESA/CNES/Arianespace/ArianeGroup/Optique video du CSG-P. Piron)】

Ariane 64の成功により、大型ロケットでの存在感を改めて示したヨーロッパですが、小型ロケット分野ではまだ1社も商業的な軌道投入を達成できていません。一方、アメリカではRocket Lab(ロケットラボ)が小型ロケット「Electron(エレクトロン)」で2025年に21回の打ち上げを成功させて専用打ち上げ市場を牽引。さらにSpaceX(スペースX)の大型ロケットFalcon 9(ファルコン9)がライドシェアミッションで小型衛星を圧倒的な低価格で軌道投入して市場シェアを獲得しており、ヨーロッパ勢との差は歴然としています。


OrbexのチェンバーズCEOは「ロケット開発は資本集約的で開発サイクルが長く、初の商業打ち上げにたどり着くまでの資金の壁は避けられない」と語っています。Orbexの破綻は、まさにこの構造的な課題を改めて浮き彫りにしたと言えます。


ELCに残る4社が2027年末の期限内に軌道投入を実証できるかどうかが、ヨーロッパの小型ロケットの未来を左右することになりそうです。


 


※本記事中の円換算は1ポンド=約200円で計算しています。


文・編集/sorae編集部


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