「世界中の10億人を結びつける」という、壮大な目標を掲げた没入型プラットフォームRoblox(ロブロックス)。そのために欠かせないキーパーソンのひとりが、7月1日、最高マーケティング責任者兼市場拡大責任者に就任したジェレット・ウェスト氏だ。ウェスト氏は、ゲームをはじめとしたエンターテイメントの世界に造詣が深く、Netflixではマーケティング部門の上級管理職として、ヨーロッパやアジア太平洋地域など40カ国以上でサービスの立ち上げと成長に貢献。その後はエックスボックス(Xbox)の最高マーケティング責任者、そしてマイクロソフト・ゲーミング(Microsoft Gaming)のコーポレート・バイスプレジデントを務め、ゲーム、ハードウェア、サービスのマーケティング戦略を開発・実行する400人以上のグローバルチームを牽引してきた。10億もの人をどのような戦略で集め、つなげようとしているのか。「日本に来るのは4年ぶり」というウェスト氏に、Robloxで実現したいことや日本マーケットにかける思いについて話を聞いた。

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Robloxはクリエイターなしには語れない

――Robloxのどのようなところに魅力を感じ、ジョインしましたか?

ユニークなコンテンツがあり、そのコンテンツがブランドを物語るような会社――そんなところを、私はずっと探してきました。そして、マーケターにとって一番の醍醐味は、ユーザーに喜んでもらえること。そうした私が望む要素を兼ねそなえ、体現する会社がRobloxだったのです。Robloxにはさまざまなコンテンツがあり、毎日7950万人ものユーザーがバーチャル空間を訪れて自由に時間を過ごしています。しかも、そのコンテンツをユーザーがクリエイターとなって作るという、非常にユニークなUGCプラットフォームです。毎日数多くのコンテンツが生まれるので、次に何がヒットするのかを予想するのも楽しいですし、ユーザーやクリエイターが発する熱量を追いかけていくことにも喜びを感じています。

ジェレット・ウェスト(Jerret West)氏

――Robloxで実現したいことをお聞かせください。

このプラットフォームの多彩なコンテンツを生み出しているのはクリエイターで、Robloxはクリエイターなしには語れません。最初はユーザーとしてRobloxに参加し、趣味でゲーム作りを始めた人が、だんだんスキルを上げてプロの開発者になっていく。そうして誕生したコンテンツの面白さや、その背景にあるクリエイター自身のストーリーを、まずは伝えていきたいです。そして、高いエンゲージメント効果が期待できるプラットフォームの強みを活かして、ブランドのよきパートナーでもあり続けたい。Robloxには「マイ・ハローキティ・カフェ」や「TWICEスクエア」など、ユニークなバーチャル空間がいくつもありますが、昨年だけでも200ものブランドがバーチャル空間を誕生させました。このようなブランドのバーチャル空間でユーザーが過ごす時間は1日平均で11分もあることを、商品やサービスのグローバル展開を考えている多くのブランドに知っていただきたいと考えています。

――特に力を入れていきたいことはありますか?

ブランドマネージャーの視点でRobloxを考えると、広告活用だけでなく、バーチャル空間での没入型体験も重視しなければならず、なおかつ、ビジネス的なパフォーマンスも伴わなければなりません。ブランドが求めるものをうまく融合し、エンゲージメントを高める瞬間を生み出すため、注力しようと考えているのが「ライブイベント」です。コンサートやハロウィンなどの祝日、そして人気コンテンツのリリースもユーザーにとっては大事なイベントのひとつ。世界中からユーザーが集まり、喜びや楽しみを分かち合える機会を最大化できるライブイベントを盛り上げることで、ブランドの期待に応える環境を提供していきたいと思います。

――「世界中の10億人を結びつける」ため、ライブイベントのほかに考えていることはありますか?

現在ユーザーの8割はゲームをするためにRobloxを訪れる人たちで、残りの2割はコンサートなどのイベント参加や買い物、学習、友人と会うことを目的として利用しています。Shopify(ショッピファイ)との連携によりeコマースも可能になりますし、ゲーム外でもボイスチャットやテキストチャットが続けられる「パーティ」機能も追加したので、これからコミュニケーションツールとして使う人がどんどん増えていくでしょう。我々は「世界中で生み出されるゲーム収益の10%を獲得する」という目標に向かって進んでいるのですが、それをデイリーアクティブユーザー(DAU)に換算すると、およそ10億人。大きな目標ですが、ゲームを充実させることはもちろん、そのほかの領域にも手を広げ、プラットフォーム自体をより魅力的にすることで、世界中の人たちをつなげていきたいと考えています。

唯一無二のバーチャル空間を生み出し拡大する日本市場

――日本の印象について、お聞かせください。

日本はユーザー、クリエイター、ブランドという3つの戦略の柱がそろった、とても重要なマーケットです。Roblox全世界のDAUは前年比21%(2024年6月までの3ヶ月)、アジア太平洋地域は31%であるなかで、日本は56%と圧倒的。日本のユーザーが使用したゲーム内通貨Robux(ロバックス)は前年比112%増と、世界全体で見ても突出した成長を見せています。クリエイターについても、manato48こと木村達郎氏が制作した「顔から逃げるゲーム」は20億以上もの訪問数を実現するという快挙を成し遂げました。映画「ビートルジュース ビートルジュース」とのコラボでも成功を収めるなど、その活躍はめざましいものがあり、彼に続くクリエイターが期待されるところです。そしてブランドが展開するバーチャル空間も、日本はとてもユニーク。「ソニック・スピードシミュレーター」は10億以上、「マイ・ハローキティ・カフェ」も約5億の訪問数があり、それぞれのブランドが唯一無二のバーチャル空間をRoblox上で作り出し、新たなファンを醸成する場にもなっています。

――日本のマーケットをさらに活性化させるため、どのような戦略を考えていますか?

ユーザーを増やすにはやはりコンテンツが鍵となるので、幅広いジャンルのコンテンツを充実させていきたいと考えています。また、コミュニティのつながりが強いRobloxでは「口コミ」の力も大きいので、どのコンテンツに焦点を当てるかを見極めて機会創出を図っていく予定です。ブランドが作るコンテンツのなかにはゲーム要素をうまく取り込めていないものもありますが、そうした課題を克服するにはRoblox文化に慣れ親しみ、コミュニティの特性や好みをよく知るクリエイターの力を借りるといいでしょう。直近12ヶ月で、Robloxは開発者・クリエイターのみなさんに合計8億ドル以上の収益を分配。トップ10の人には平均3000万ドル(約45億円)、トップ100は500万ドル(約7億5000万円)、トップ1000でも75万ドル以上(約1億1250万円)が支払われました。このようにRobloxではクリエイターの収益面での充実を図りつつ、サポートにも力を入れていく方針です。今年9月、電通グループとのコラボで次世代クリエイターを支援する「House of Creators」プロジェクトを開始したのも、そのひとつ。有望なクリエイターを発掘し、ブランドやIPとのマッチングやクリエイティブコンテストの実施などを通して、クリエイターサポートを続けることで、さらに魅力的なコンテンツを生み出していけたらと考えています。

――日本の広告主、ブランドに向けてメッセージをお願いします。

もっとも急成長しているユーザーは17〜24歳のグループで、人気ゲームトップ10のうち、5つは女性プレイヤーのほうが多いことからもわかるように、Robloxは性別を問わず幅広い年齢層にアプローチできるプラットフォームです。特定のユーザーに絞り込んだ没入型広告を展開できるほか、ブランド独自の魅力的なバーチャル空間を作れば、キャンペーンや新商品の発売イベントなどをタイムリーに開催することも可能で、世界中のユーザーと直接つながることもできます。いま世界中が日本で何が起こっているかに注目している時なので、Robloxでワクワクする体験をともに作り出していきましょう。Written by 山本千尋Photo by 渡部幸和