第2次世界大戦後、関東地方のほぼ中央に位置する埼玉県には、東京都に隣接し、まとまった土地も確保できたことから、各種官公庁の施設が置かれました。そのなかには、首都圏を守るための重要な機関がいくつもあります。

首都圏を飛ぶ自衛隊機、民間機とも埼玉で管制

 毎年、反響の大きい「都道府県魅力度ランキング」の最新版が2024年10月13日に発表されました。

 例年、上位争いだけでなく下位争いも注目を集めますが、昨年(2023年)最下位だった茨城県が45位に上がり、今年47位になったのが佐賀県です。そのようななか、茨城県よりも下位の46位に沈んだのが埼玉県でした。

 埼玉県は「都道府県魅力度ランキング」下位争いの常連で、雑誌やTV番組などでもたびたびネタにされます。映画化され話題にもなったマンガ『跳んで埼玉』で自虐ネタが披露されるなど面白おかしく描かれることが多いですが、じつは首都圏のみならず日本を守るために重要な国家機関が集中している自治体でもあります。そのなかから、5か所を見てみましょう。

中部航空方面隊司令部(狭山市、入間市)

 航空自衛隊は日本の空を、大きく4つのエリアにわけ、それに合わせて部隊を配置しています。そのなかで首都圏を含む本州中央部と四国の一部を担当するのが、中部航空方面隊です。


首都圏の防空を担う中部航空方面隊司令部が置かれる航空自衛隊入間基地(画像:航空自衛隊)。

 この部隊は狭山市と入間市にまたがる入間基地に司令部を置きますが、その担当エリアには北は仙台市から西は神戸市までが入り、域内には日本の人口の約75%が居住しています。隷下にあるスクランブル任務などに就く戦闘機部隊は百里基地(茨城県)と小松基地(石川県)に置かれ、日本海上空や首都圏沿岸の太平洋上空を含めて警戒監視についています。

東京航空交通管制部(所沢市)

 首都圏を飛行する民間機の管制業務を一元的に担うのが、所沢市にある東京航空交通管制部です。担当空域は東北南部から中国地方東部までの本州中央部で、成田空港や羽田空港に離着陸する航空機をほぼ管制しています。

 軍用機を除いた日本の航空管制は2024年現在、札幌、東京、神戸、福岡の4か所で空域を分担していますが、2025年をめどに東京、神戸、福岡の3か所に再編される計画です。また、低高度空域(上空10km未満)は東京と神戸の2か所で、高々度空域(上空10km以上)は福岡で一括管制することになる予定です。

 そうなると、東京航空交通管制部の担当エリアはさらに広がり、北海道から本州中央までとなります。

陸自の上級司令部ふたつは朝霞で同居

 埼玉県に所在する自衛隊の司令部は、空だけではありません。

陸上総隊司令部(朝霞市、和光市、新座市)

 陸上自衛隊は全国を5つのエリアにわけ、地域ごとに師団や旅団など配置しています。実際に現場へおもむき、矢面に立つ部隊の作戦面における最上級司令部といえるのが、朝霞駐屯地に所在する陸上総隊司令部です。


陸上総隊司令部と東部方面総監部の2個司令部が併設されている陸上自衛隊朝霞駐屯地(柘植優介撮影)。

 陸上総隊の隷下にあるのは、陸上自衛官約15万人のうち約13万人で、直轄部隊として落下傘部隊である第1空挺団や、日本版海兵隊と呼称される水陸機動団、本格的特殊部隊である特殊作戦群などがあります。

東部方面総監部(朝霞市、和光市、新座市)

 前出の陸上総隊司令部とともに朝霞駐屯地に同居するのが東部方面総監部です。ここは陸上総隊の隷下にある、関東甲信越と静岡県の1都10県を担当区域として受け持つ東部方面隊の司令部で、域内の防衛警備を担うとともに、首都圏で万一災害などが起きた際の初動を担当します。

 駐屯地内で司令部と総監部の建物も隣接しており、普段から徒歩でスタッフが行き来しています。

 なぜ朝霞駐屯地に陸上総隊司令部と東部方面総監部が併設されているのかというと、東京近郊の自衛隊駐屯地としては広い敷地を有しているからです。最初に設置されたのは東部方面総監部で、1990年代に行われた東京周辺にある防衛施設の再配置計画で新宿区市ヶ谷から移転してきました。そして2010年代に、新設される陸上総隊司令部も朝霞に置くことが決まり、2018年3月から同居するようになりました。

 なお、朝霞駐屯地は正門周辺部が東京都練馬区にあるため、住所は都内になりますが、敷地面積の9割以上は埼玉県にあり、電話番号の市外局番も「03」ではなく「048」です。

さいたま市には大規模災害時の支援拠点も

 県庁所在地さいたま市の、さいたま新都心には中央省庁の出先機関が集約配置されており、大規模災害時は立川広域防災基地を補完する「さいたま広域防災拠点」として、首都機能のバックアップ拠点と位置付けられています。

さいたま新都心合同庁舎(さいたま市)

 さいたま新都心合同庁舎は1号館と2号館の2棟からなり、2号館に治安や防衛、災害対応を担当する関東管区警察局や北関東防衛局、関東地方整備局などが入っています。

 関東管区警察局は警察庁の下部組織で、東京都を担当する警視庁以外の関東甲信越および静岡県の10県警を指揮監督し、各種調整を行います。


国鉄大宮操車場跡地に開設された、さいたま新都心合同庁舎。中央の高い建物が2号館、その奥の赤い通信鉄塔があるのが1号館(柘植優介撮影)。

 北関東防衛局は、上述した東部方面総監部の担当区域のうち、神奈川県と静岡県、山梨県以外の1都7県を担当する防衛省の地方部局で、域内の防衛施設の整備や物品調達、各行政機関との調整などを、おもな役割としています。

 関東地方整備局は、関東と山梨県、長野県と静岡県の一部を担当する国土交通省の地方部局で、道路や空港、港湾、ダム、河川などの整備や維持管理を担っています。

 これら機関が入るさいたま新都心合同庁舎は、広域防災拠点として耐震性の確保とともに、ヘリポートや通信ネットワークなどが用意されており、さらに万一の際は災害対策本部を設置できるだけのスペース(本部長室や記者会見室含む)が建物内部に設けられています。

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 このほかにも、埼玉県の重要施設としては、JR東日本の新幹線5路線が全て乗り入れる大宮駅などがあります。

 ただ、埼玉県は内陸県のため海洋に関する重要機関はなく、それらについては神奈川県や千葉県に配置されています。