2024年10月19日、第101回箱根駅伝予選会、14位に終わりうなだれる東海大の選手たち 写真/スポニチ/アフロ


(スポーツライター:酒井 政人)

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ロホマンがゴール手前10mで途中棄権

 第101回箱根駅伝予選会で最もショッキングな結末となったのは東海大だろう。6月の全日本大学関東学連推薦校選考会を1位通過して、参加資格上位10人の10000m平均タイムは2位。トップ通過の候補に挙げられていたが、レースは大苦戦した。

 10km通過順位は7位で、15km通過順位は9位に転落。それでも17.4km通過順位は8位に浮上して、11位の神奈川大に2分47秒のアドバンテージがあった。順当なら通過は確実といえる状況だった。

 しかし、チーム10番目を走っていたロホマン・シュモン(3年)に異変が起こる。ラスト数十mを這うように進むと、ゴールの10m手前で動けなくなったのだ。最後は審判長が「途中棄権」のジャッジを下し、ロホマンは車イスでコース外へ運ばれた。

 次の選手もなかなか姿を現さず、東海大は11時間03分39秒の総合14位。悲劇的なアクシデントで12年連続出場を逃した。

トップ通過候補は危機的状況だった

 東海大・両角速駅伝監督はロマホンに付き添っていたため、当日の取材はかなわなかったが、レースの3日後、筆者の電話取材に応じてくれた。そしてチームにあった“危機的状況”が明らかになった。

 まずはロホマンについて。西出仁明ヘッドコーチによると、調子は良く、スタート前の状態も普通だったという。両角監督も「調子は悪くなかったです」という状態だった。

「ロホマン本人は残り1kmくらいまでは元気に走っていたようです。よく覚えていないようですが、残り800〜600mでちょっとおかしいなと感じたみたいです。それでもラスト1kmでペースを上げる余力はあったらしいんですよ。ギアを上げた後に異変があったんじゃないかと思います」

 両角監督がロホマンの走りを最後に見たのは16km地点くらいで、異常は感じられなかったという。その後は昭和記念公園内の「みんなの原っぱ」に移動して、巨大モニターでレースの生中継を視聴した。

「東海大の選手が何人ゴールしたのか確認していたんですけど、そこにロホマンがあのような状態で入ってきて、『頑張れ』としか思えませんでした。一生懸命もがいていたんですけど、這ってでもゴールできる距離ではないなと感じていました。審判員が寄っていったときは、途中棄権は仕方ないなと思いました……」

 ロホマンは病院に搬送され、「重度の熱中症」という診断だった。東海大の落選はロマホンの熱ケイレンが大きかったのは間違いないが、チーム状況も良くなかったという。

「直前に捻挫や貧血があり、その前に故障もあって、全日本大学駅伝選考会を走った8人のうち5人を欠いたんです。出走した3人も調子が良くありませんでした。反対に全日本選考会メンバー以外は調子がいい感じがあったので、暑さのなかでも力以上のものを出そうとした部分がロホマンだけじゃなくて、いろんな選手にあったような気がします」

 東海大は6月の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会をトップで通過した。そのメンバーでは、兵藤ジュダ(3年)、竹割真(3年)、永本脩(2年)が登録外となり、五十嵐喬信(4年)と鈴木天智(3年)も出走メンバーから外れた。さらに梶谷優斗(4年)、花岡寿哉(3年)、檜垣蒼(1年)の調子も良くなかったという。

 それでも花岡が23位(1時間04分27秒)、檜垣が29位(1時間04分35秒)と奮起した。一方、集団走のグループがうまく機能しなかった。暑さを考慮して、キロ3分03秒で行く予定を3分05秒に落とすも、早々と集団から離れていく選手がいたのだ。

 ロホマンは前回の箱根駅伝(10区で区間20位)でシード権を逃がした責任を強く感じていた部分もあったようだ。5kmを15分18秒、10kmを30分36秒と前半は設定を少し上回るペースで通過した。後半はペースダウンするも20kmは1時間02分31秒で通過。順調なら1時間06分前後でフィニッシュできたはずだが、最後に急失速した。

 今回の通過ラインは11時間01分25秒(平均1時間06分08秒5)。予選会がハーフマラソンで行われるようになった第95回大会以降で最低水準になった。前年の10位は10時間37分58秒(1時間03分47秒8)で、従来の過去最低は第96回大会の10時間56分46秒(1時間05分40秒6)なので、今回がいかに“過酷な条件”になったのか理解できるだろう。

給水が足りなかったのも原因か

 東海大は2週間前から天気予報をチェックして、暑さ対策もしっかり練ってきたという。

「もちろん暑さ対策はいろいろやってきましたよ。水分は数日前から積極的に補給していましたし、選手にはキャップを着用させて、スタート直前まで氷を当てていました。それに体の内部を効率よく冷やす細かい氷の粒子が含まれたスポーツドリンクも摂取しました。できることはやったんですけど、給水が欲しくてもテーブルに水がなかったという選手が結構いたんです」

 給水地点は8km、13.5km、17kmに設けられていたが、13.5km地点は大混雑になったようだ。10kmは30分台で170人以上が通過しており、混雑時の給水所は1分間で約150人もの選手が通過したと考えられる。今回はほぼ全員が給水に手を出すような状況だったため、給水の補充が間に合わなかった部分があったようだ。

「しばらく医療テントにいたんですけど、うちの10番目となった越も熱中症でやって来ましたし、次々と選手が運ばれてきたんです。選手たちはチームのために命を削ってまで頑張ってくれました。暑さへの対策は難しいと思うんですけど、『欲しい給水が取れなかった』ということになってしまうと、今後は考えていかないといけません」

 東海大の10番目となった越陽汰(4年)のタイムは1時間12分29秒。設定タイム(1時間04分45秒前後)より大きく遅れた。5kmを15分11秒で通過した後はペースダウンして、10〜20kmは36分41秒を要している。越の実力を考えると、異変があったのは明らかだ。

「タラ・レバはないんですけど、主力を5人欠いた状況で、あのままいけば8番通過が見えていました」と両角監督は選手たちの頑張りに感謝した。

 11月3日には全日本大学駅伝が控えているが、「箱根予選会のリベンジや、シード権獲得(8位以内)は考えすぎてもいけない状況なのかなと思っています。今回は主力を欠いたなかで『頑張るぞ』という気持ちが、このような結果になってしまった部分もあるので、まずはゴールまでしっかりタスキをつなぎたいと思っています」と指揮官は冷静だった。

 来年正月の晴れ舞台に立つことはできないが、花岡寿哉、兵藤ジュダら3年生以下に好選手が揃っている。来季に向けては、「具体的な目標はまだ考えていませんが、ずっと(学生駅伝の)順位を下げてきていますので、矢印が上を向くようにしたいと思います」と第95回大会で母校を箱根駅伝の初優勝に導いた名将は再浮上を誓っていた。

筆者:酒井 政人