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税務調査を受けた際、調査官に書類への「一筆」を求められる場合があります。緊張する税務調査で急に一筆を求められたら、書かなければならないのか、断ってもいいのか判断に迷うケースもあるはずです。では、一筆に同意した場合と拒否した場合では、調査にどのような違いがあるのでしょうか。今回は、税理士法人松本が、税務調査で一筆が求められるシーンと一筆の「意味」について解説します。

税務調査で求められる「一筆」とは?

まず、税務調査の際に必ず一筆を求められるわけではありません。むしろ、一筆を求められるシーンは決して多いわけではないのです。

一筆とは質問応答記録書への「署名」のこと

税務調査で調査官から一筆書いてほしいと言われた場合は、質問応答記録書に署名をしてほしいという意味合いになります。質問応答記録書とは、税務調査時に調査官が納税者に質問をした内容とその回答を記載した文書です。

質問応答記録書は、調査官が作成した納税者とのやり取りの記録でもあり、署名があれば、納税者が書面の内容に同意したということの証明となり、証拠としての価値が高まります。そのため、調査官は税務調査終了後のトラブルに発展しないよう、納税者の同意を示す一筆を求めるのです。

調査官が一筆を求める理由

税務調査時に質問応答記録書への署名を求められるケースは多くはありません。なぜなら、税務調査時に一筆を求められるケースは、悪質な脱税が強く疑われる場合に限られるからです。

つまり、税務調査時に、仮装隠蔽などの悪質な行為が認められた場合は、確実に重加算税を賦課するため、納税者に質問応答記録書への一筆を求めるというわけなのです。

重いペナルティである「重加算税」

税務調査で、申告漏れや申告ミスを指摘された場合、正しく申告をしなかったことに対するペナルティである加算税の納付が求められます。

加算税は、申告漏れや申告ミスの内容によっていくつかの種類に分けられていますが、このうち最も重い加算税が重加算税です。重加算税の税率は、納税額が少なかった際に課せられる過少申告加算税に代わる場合は35%、申告そのものをしていなかった場合に課せられる無申告加算税に代わる場合は40%にもなります。

税務調査時の「一筆」は、拒否してもいい?

税務調査の際、調査官に一筆書くことを依頼された場合、一筆を拒否した場合と応じた場合でその後の流れがどのように変わるのかを理解しておかなければ、返答に困るはずです。

では、税務調査の際に署名を拒否した場合と応じた場合で、調査にどのような影響を与えるのでしょうか。

一筆は拒否できる

まず、税務調査時に、質問応答記録書への署名を求められた場合、納税者は署名を断ることができます。質問応答記録書への一筆には法的な強制力はなく、調査官に求められても拒否して問題ありません

一筆に応じるメリット

質問応答記録書に署名の記載を依頼される場合、調査官は重加算税の賦課を考えていると想定されます。そのため、その場で一筆書いた場合、納税者が不正な申告を行ったことや仮装隠蔽行為を行ったことを認めることを意味します。

重加算税は、税務署長が判断し、賦課するものです。納税者が仮装隠蔽を認める証拠となる一筆があれば、税務署長も重加算税の賦課決定をしやすくなるでしょう。さらに、納税者が税務調査の判断に不服を抱き、訴訟を起こした場合でも、一筆があれば裁判で仮装隠蔽行為はなかったと判断される可能性は低くなります。

したがって、納税者が敗訴濃厚な状態のまま裁判に訴える可能性は低くなり、重加算税の賦課を決定しやすくなるのです。また、一筆に応じたことで重加算税の賦課を決定しやすくなれば、調査は早めに終了するでしょう。

一筆を拒否すると税務調査が長引く

税務調査時に一筆を拒否した場合、調査官は、他の証拠を収集するためにより調査範囲を広げ、詳細な調査を続けるでしょう。そのため、一筆を拒否すると税務調査が長引く可能性が高くなります。

しかしながら、一筆を拒否することで税務調査の結果が大きく変わることはありません。仮装隠蔽行為を行っていたようであれば重加算税は付加され、仮装隠蔽行為がなければ重加算税が付加されることもありません。したがって、質問応答記録書への一筆の記載を拒否したほうが必ずしもいい結果を招くわけではないのです。

ただし、署名をする際には、質問応答記録書の内容をしっかり読み、内容に誤りがないかどうかを確認しなければなりません。質問応答記録書の内容に事実と異なる部分があるのであれば、調査官に訂正を依頼するようにしましょう。

「一筆」を求められる状況を回避する3つのコツ

一筆に応じても、拒否しても、税務調査の結果が変わることはなく、一筆を求められる状況は重加算税の賦課対象となるような悪質な不正行為が疑われているという状況です。

重加算税が賦課されれば、多額の追徴課税が課される恐れもあります。大切なのは一筆を拒否することではなく、税務調査で一筆を求められる状況を招かないことです。

1.正しく申告する

正しく確定申告を行っていれば、税務調査時に不正が疑われ、一筆を求められることもありません。一筆を求められるのは、仮装隠蔽行為など、悪質な税金逃れの行為が疑われる場合のみです。日頃から売上や支出を正しく管理し、ミスなく申告を行い、適正な額の納税をするように心がけましょう。

2.事前に税理士に相談する

正しく申告を行ってこなかった場合、重加算税が課される恐れがあります。税務調査の通知を受け、一筆を求められる状況が予想されるときには、税理士に相談することをおすすめします。

事前通知を受けたあとでも、自主的に修正申告を行い、不足分の納税を行えば、加算税を軽減できる可能性もあります。スピーディーかつ正しい修正申告書を作るためには、専門家の力が必要になるでしょう。

また、税理士に相談すれば、税務調査当日の立ち会いを依頼できる場合もあります。税理士が同席すれば、調査当日の精神的な不安も軽減できるはずです。さらに、税務調査では解釈の違いによって、問題があるかどうかの判断が変わるグレーゾーンが存在します。

税理士に対応を依頼すれば、調査官とのやり取りの中で、正しく納税者の主張を伝え、不要な指摘を避けることも可能です。

3.書面添付制度を利用する

税務調査の目的は、正しく納税を行っている法人や個人を調べるのではなく、正しく税金を納めていない法人・個人の納税を是正することです。

税理士が確定申告の書類を作成する場合、申告書は正しく作成されていると考えられます。特に、書面添付制度に則り、税理士が申告内容の根拠や計算過程などを詳細に記した書面を添付した場合、税務調査の対象となる可能性が低くなります。

税務調査そのものを回避したい場合には、税理士と相談したうえで書面添付制度の活用を検討してみるといいでしょう。

「一筆」を受け入れても拒否しても、税務調査の結果が変わることはない

税務調査で質問応答記録書に一筆書いてほしいと依頼される状況では、調査の結果、悪質な不正行為が行われているとみなされており、調査官が重加算税の賦課を検討している可能性が高くなります。

質問応答記録書への一筆を求められても、必ず署名しなければならないわけではありません。一筆の拒否は可能です。しかしながら、一筆を受け入れるか拒否するかによって、税務調査の結果が変わることはないといえます。

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

税理士法人松本

税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。