スポニチ

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 誰よりも覚悟を持って戦っている男がいる。三重のガッツマーカー・坂口晃輔(36=三重・95期)。身長1メートル56で“忍者”と称されるほど小柄。ただ、ラインのためなら、どんな大きい相手でもドンッとぶつかり、絶対に素通りさせない。そんな忍者は今、「バンクの上なら気持ち良く散ってもいい」と、まさに命を削って戦っている。何があったのか。

 「ヘルメットが奇麗にパカっと割れていました」。6月20日、練習中の落車で後頭部から落ちて意識を失った。頸椎(けいつい)損傷。目を覚ますと、ろれつが回らず、体がしびれ、握力もなくなった。

 「医者からは“1年くらいは走らないでしょ。セカンドインパクトがあると寝たきりになりますよ”と言われました。家族からも走らないでほしいと言われた」

 それでも事故からわずか2カ月で忍者はバンクに帰ってきた。復帰3場所目の10月川崎G3では白星も獲得。「まだ、しびれはありますよ。電気風呂に入っている感じ。ただ、走りたいし、ラインに迷惑を掛けられない。バンクは戦う場所だと思っているので」。レース後は手を握って開いてを繰り返し、きつそうだったが、レースになればいつも通り。まさに身を削りながら己の走りを貫いている。

 長年、層が薄いとされている中部地区。若手の機動型が迷いなく仕掛けるには、誰よりも仕事をする坂口の存在が不可欠だ。「また上で戦いたい。あとはラインとして自分の仕事をしたいんです」と迷いはない。命取りとなる落車への恐怖を乗り越えて。伊賀の忍者はラインのために走り続ける。(渡辺 雄人)