Xiaomi 14T Pro チタンブラック

Leica協業3年目のXiaomi

2022年にライカとの長期的パートナーシップを締結したXiaomi(シャオミ)は、同年から共同開発によるカメラを搭載したスマートフォンを製品化してきた。今年2月には、両社共同による「Xiaomi×Leica光学研究所」を設立、他社との協業よりも一歩深い関係を築いてきたが、その成果が4カメラを搭載する「Xiaomi 14 Ultra」だった。

すごい……ことはすごいのだが、価格が20万円弱ということで、なかなか手が出せないスーパーハイエンドモデルであった。そんな性能をもうちょっと買いやすい価格で、という声は当然出てくる。

これに応える形で先日発表されたのが「Xiaomi 14T Pro」(以下14T Pro)、「Xiaomi 14T」(以下14T)である。14Tは現在のところキャリア販売のみだが、14T Proはオープン市場向けモデルも11月中に投入される予定だ。価格は256GBモデルが109,800円、512GBモデルが119,800円となっている。

14 Ultraからカメラが1つ減って3つとなったが、それでも多くのハイエンド機と同等だ。13Tでは諸事情で日本のみライカとの共同開発カメラが搭載されなかったが、今回はライカカメラ搭載で10万円ちょいで買えるとあって、注目度は高い。今回はいち早く、14T Proをお借りすることができた。

Lieca Summiluxレンズはどういう絵を出してくるのだろうか。早速テストしてみたい。

特徴的な4眼デザイン

まずスペックから確認しておこう。カラーはチタンブラック、チタンブルー、チタングレーの3タイプで、今回はチタンブラックをお借りしている。

4カメラに見えるが、実は3カメラ

プロセッサは「MediaTek Demensity 9300+」を採用しており、中でも生成AI専用プロセッサとして「MediaTek NPU 790」を搭載しているのが興味深い。またメモリは12GBで、ストレージが上記のように256GBと512GBでモデルが分かれる。

ディスプレイは144Hz駆動の有機ELで、色域はDCI-P3、ピーク輝度は4000nitsとなっている。HDR10+およびDolby Vision対応だ。

肝心のカメラは、メイン、望遠、超広角の3タイプ。スペックをまとめておく。

仕様 メイン 望遠 超広角 焦点距離
(35mm換算) ライカVARIO SUMMILUX
23mm ライカVARIO SUMMILUX
60mm ライカVARIO SUMMILUX
15mm F値 1.6 2.0 2.2 画素数 5,000万画素 5,000万画素 1,200万画素 倍率表記 1倍 2.6倍 0.6倍

物理的には、背面から見て左上がメインカメラ、その下が望遠、右上が超広角カメラだ。右下はLEDライトである。

左上がメインカメラ

カメラアプリでは、0.6倍、1倍、2倍、2.6倍、5倍というステップになっているが、2倍はメインカメラからのデジタルズーム、5倍は望遠カメラからのデジタルズームであるため、画質的には落ちる。

0.6倍

1倍

2倍

2.6倍

5倍

メインカメラのみ光学手ブレ補正を搭載しており、他のカメラは電子式となる。撮像素子は、メインカメラはXioami独自のLight Fusion 900で、1/1.31インチと発表されているが、他のカメラについては非公開となっている。動画撮影機能としては最高8K/30p撮影が可能だが、これはメインカメラに限られる。

バッテリーは5,000mAhで、Xiaomiの特徴である120Wハイパワーチャージにより19分で満充電できる。120Wが出せるUSB-Cの充電器は、汎用製品ではそれほど多くない。合計出力120Wという充電器でも、USB-CからはMax100Wという製品も多い。とはいえ100Wでも十分早いのだが。製品版には120W充電器も付属するそうなので、それだけでもめっちゃお買い得である。

OSは2023年にリリースされた独自の「Xiaomi HyperOS」で、スマホだけでなく同社IoT製品の共通OSとなっている。UIなどはAndroidと似て非なるといった感じだが、ベースはAndroidであり、Google Playストアからのアプリインストールにも対応するので、不便はないはずだ。

多彩過ぎる動画撮影機能

ではまず動画撮影から見ていこう。動画撮影可能なモードとしては「ビデオ」、「映画」、「監督モード」の3つがある。一番汎用性が高いのは「ビデオ」で、「映画」は12対5という変則的なアスペクト比で撮れる。「監督モード」は露出やフォーカスなどをフルマニュアルで撮影でき、さらにiPhoneやiPadで実現したようなマルチカメラ収録にも対応するという。

主要な被写体を自動的に判断する映画モード

色域としては、SDR、HDRのほか、シネマ風の撮影ができるMaster Cinemaが選択できる。ただし撮影モードと色域の組み合わせで使用できる解像度やフレームレートが決まってくるので、非常にややこしい。一応表組でまとめると以下のようになる。

動画撮影モード 色域 解像度 フレームレート ビデオ SDR 720 30p 1080 30/60p 4K 24/30/60p 8K 24/30p HDR 720 30p 1080 30p 4K 24/30p Master Cinema 720 30p 1080 30p 4K 24/30p 映画 SDR 1920×800 24p Master Cinema 1920×800 24p 監督モード SDR 720 30p 1080 30p

ソフトな色調を謳うMaster Cinemaモード

これらの組み合わせに加えて、さらにフィルターが動画で10種類、静止画で14種類、ProLUTと呼ばれるLUTが7種類使えるので、その組み合わせは膨大なものとなる。途中で色域を変えたりすると解像度やフレームレートがいつの間にか違ってたりするので、どう撮りたいのかを先に設計しておかないと、編集が大変な事になる。

10bitのHDR撮影はビデオモードでしかできないので、まずはこれから試してみた。全て手持ち撮影だが、メインカメラは光学手ブレ補正が効くので、そこそこ安定した絵が撮れる。サンプルは10bit HDRをSDRにグレーディングしている。

Xiaomi 14T Pro。「ビデオ」モードのみHDR撮影に対応

手ブレ補正の考え方は、若干変則的だ。もともとメインカメラは光学補正が効いており、これはOFFにはできない。したがって何もしなくても常時手ブレ補正が効いている状態になっている。設定として存在するのは、「スーパー手ブレ補正」と、「スーパー手ブレ補正Pro」だ。

「スーパー手ブレ補正」は、メインカメラの光学補正に電子補正を組み合わせたもので、かなり強力だが、画角は一段狭くなる。「スーパー手ブレ補正Pro」は、画角が広い超広角カメラに対して電子補正を加えるもので、強力なのに画角が広くなるというモードである。実際に歩きと走りでテストしてみたが、どれも同じぐらい強力なので、違いがあまり出なかった。

Xiaomi 14T Pro。手ブレ補正の比較

逆に言えば、手ブレ補正を選択することで使用されるカメラが自動で切り替わるので、自由に画角が選べないということになる。望遠カメラには手ブレ補正は使えないので、望遠をメインで撮影する場合は三脚などに固定する必要がある。

映画モードは、1,920×800という変則的な解像度で、使えるのはメインカメラのみだ。このモードでしか使えない機能に、被写界深度設定がある。F1.0からF16までバリアブルで背景ボケが調整できる。またボケの形も、「標準」のほか、アナモフィックレンズで撮影したような「ワイド」も使える。

標準 F1.0で撮影

標準 F16で撮影

ワイド F1.0で撮影

あくまでも被写界深度をシミュレーションしているだけなので、F1.0ならもうちょいボケるだろうとか、F16ならもっとシャープだろうとか色々ツッコミどころはあると思うが、リアルタイムで可変できて、動画で撮影できることを考えたら、なかなか面白い機能だ。

フィルターは、動画でも静止画でも使えるのがポイントだ。静止画のほうが種類が多いので、サンプルは静止画のポートレートモードでフィルターを使ったもので見ていただく。

ノーマル(フィルターなし)

Leica VIV

Leica NAT

Leica BW NAT

Leica BW HC

Leica Sepia

Leica Blue

グリー

V-250

H-400

スターライト

オリジナル

元気

ブラックゴールド

クラシック

一方ProLUTは、動画モードでしか使えない。BT.709色域でカラーグレーディングしたような効果を出すというもので、昨今デジタル一眼の一部ハイエンドモデルで搭載している機能だ。デジタル一眼では自分でLUTを追加できるが、14T Proの場合は最初からプリセットされている。

ノーマル

スカーレット

朱色

ティールミスト

インク

グリー

緑茶

ヘーゼルナッツ

侮れないインカメラと夜間撮影

昨今は動画の自撮りをする人も増えているが、インカメラのビデオ性能もかなり多機能だ。焦点距離25mmのF2.0、3,200万画素センサーで、動画に関してはHDR+撮影も可能。エフェクトなしでの撮影であれば、最高4K/30pで撮影できる。

動画撮影モード 色域 解像度 フレームレート インカメラ SDR/HDR+ 720 30p 1080 30/60p 4K 30p

エフェクトとしては、フィルター10種とPro LUTが使えるのは同じだ。さらにフロントカメラでは「映画」モードでしか使えなかった、被写界深度エフェクトも使える。自宅で背景をぼかしてしゃべりを撮影したい人には、便利だろう。ただし、これらのエフェクトを使用する際は、720もしくは1080/30p固定となる。

マイク性能に関しては、風切り低減機能のようなものは見当たらなかった。感度も良く綺麗に集音できるが、風には弱い。室内撮影ではOKだが、屋外では別途レコーダなりで集音したほうがいいだろう。

Xiaomi 14T Pro。手ブレ補正の比較。風切り音低減機能はないが、集音性能は悪くない

インカメラで感心したのは、プロンプター機能が使える事だ。プロンプターとは、長文の原稿をカメラ目線で読むための装置で、カメラのレンズ前にハーフミラーを設置し、そこに原稿を反射させるという仕組みだ。ニューススタジオなどでは必須だったが、昨今ではiPadなどを利用した安価な商品も出てきている。

この機能が、画面にテキストをオーバーレイするという方法で提供されている。長文も自動的にスクロールさせられるので、顔出しでのしゃべりを収録したい人には、たまらなく便利なはずだ。上記の被写界深度エフェクトやフィルター、さらに小顔モードなどを備えたビューティ機能も併用できるので、自撮りするなら普通のデジタル一眼より綺麗に撮れる。

プロンプターを表示させたところ

フロントカメラで夜間撮影もテストしてみた。一番感度が高いのはメインカメラで、動画ではこれだけがかなり明るく撮れる。撮影当日は雨模様で月明かりもあてにできない暗がりだが、SNも悪くない。

Xiaomi 14T Pro。夜間撮影のサンプル

静止画には専用の夜景モードがある。1秒ほど我慢すれば、8枚のRAWデータを重ねて高速に処理するため、かなり明るく撮影できる。すでに他のメーカーでも同様の機能を搭載しているが、固定時間が短いのがポイントだ。これも一番効果が高いのはメインカメラで、他のカメラは暗めに写る。

メインカメラの夜景モード

超広角カメラの夜景モード

メインカメラの夜景モード

超広角カメラの夜景モード

静止画の加工に関しては、僚誌でもレビューが出ると思われるので、簡単に取り上げておく。Xiaomi HyperOSでは、独自の画像ブラウザである「ギャラリー」アプリが提供されているが、その中でAIを使った様々な映像加工に対応する。

例えば「空」は背景の空を加工できるに留まらず、空の雰囲気に合わせて全体を加工する機能だ。ホワイトバランスやコントラストも含め、合成感のない仕上がりが期待できる。

様々なタイプの空が選べる

オリジナル写真

加工後の写真

消しゴムマジック的な機能も実装されているが、まだ出来はそれほど良くないようだ。もちろんGoogleが提供する「Googleフォト」も普通に使えてしまうので、そちらで本家の「消しゴムマジック」を使う事ができる。画像加工に2種類のAIが使えるというのは、強みになるだろう。

総論

今回は動画を中心にカメラ機能をチェックしたが、静止画も同じぐらい多機能ゆえに、なかなか全体を把握するのが大変なスマートフォンである。レンズ性能はLeicaなので、描画は頼りになるが、夜間撮影の逆光ではフレアが気になる部分もあった。写真では気にならないだろうが、動画の場合はカメラの動きにつれてフレアも動いてしまうので、目に付きやすいところだ。

センサー性能からすれば、やはりメインカメラの性能が飛び抜けている。光学手ブレ補正もあり、動画でも使いやすく、暗部にも強い。撮影時に多彩な効果も備えており、ハイエンド一眼カメラに匹敵する機能を詰め込んだ。加えて被写界深度エフェクトも使えるので、単焦点レンズ的に使えるのが面白い。

一方で超広角および望遠カメラとの性能差が、かなり開いてしまった印象だ。それだけメインカメラの性能が突き抜けているということなのだが、他のカメラに切り替えるとセンサーの違いもあって、若干色味が合わないことがある。意外とそういうとこにはAI使わないんだ、と思った次第である。

インカメラの性能も高く、プロンプター機能を搭載するなど、「しゃべる自撮りブーム」をよく捉えている。インフルエンサーにも評価が高いだろう。

10万円チョイでここまで高機能なスマートフォンはなかなかない。これこそがXiaomiの本領発揮といったところだろう。