アングル:衆院選後の円急騰リスク台頭、自公過半数割れで混乱警戒

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Shinji Kitamura

[東京 22日 ロイター] - 27日の衆院総選挙に向けて、外為市場で緊張感が高まってきた。政治資金問題を抱える自民党の議席減は広く予想されているものの、世論調査で自公の過半数維持が微妙な情勢と伝わったことで、結果次第で政局の不安定化や先行き不透明感が強まり、株安やリスク回避の円高が急速に進むのではないかと警戒する声が出回り始めた。

<ドル3カ月ぶり高値の裏で円高に備え>

ドルはきょう午後の取引で3カ月ぶり高値となる151円台へ一時上昇した。米利下げ観測の後退を受けて米国の10年債利回りが3カ月ぶり水準へ上昇したことなどを支えに、底堅い展開が続いている。

しかし、そうした値動きとは裏腹に、参加者の間で短期的な円高に備える動きが静かに進んでいるという。

前政権の路線が維持されることの多い日本の総選挙が、円相場に直接影響を及ぼしたことはほとんどない。バークレイズ証券によると、2000年以降に実施された8回の総選挙翌日のドル/円の平均変化率はゼロ%だった。今回もこれまでは「総選挙で円が動くことはまずない」(外銀アナリスト)との見方が主流で、多くの参加者の関心は米大統領選に集まっていた。

ところが、ここ数日で報道機関各社が実施した世論調査で、産経新聞が自公の獲得議席が過半数を割り込む可能性がある、共同通信も与党の過半確保は「微妙」と報じるなど、与党の過半数割れ見通しが浮上してきたことで、予想外の市場急変リスクを警戒する声が少しずつ強まってきたのだ。

仮に与党が過半数を割り込むような事態となれば「想定外の結果を受けて市場が一時混乱に陥り、保有リスク量の削減に向けて株を売り、円を買い込む動きが強まるおそれがある」(外銀幹部)との声も上がっている。

通貨オプション市場では、総選挙をまたぐ1週間物のドル/円の予想変動率(インプライド・ボラティリティー)が9%台と、前週の3カ月ぶり低水準の7%から上昇した。プットとコールオプションの価格差を示すリスクリバーサルも円高警戒方向へ拡大しており、円高リスクを意識する参加者が少しずつ増えていることを示唆している。

<過半数割れでも円高は一時的との見方>

もっとも、与党の獲得議席数が実際に過半数を割り込み、混乱の下で株安や円高が進んだとしても、反応は一時的との見方は少なくない。

相次ぐ世論調査の結果を受けて、市場では日本維新の会や国民民主党が連立政権に参画した場合、今後の経済・金融政策にどのような影響があるのか、幅広い議論が交わされている。

両党とも現時点では自公との連立に慎重姿勢を示しているが、維新は消費税率の引き下げや日銀法改正、国民民主も賃上げや減税などを主張しており、もし連立参画となれば、景気刺激的な政策が押し出される機会が増えて「円安圧力がかかりやすくなる」(みずほ証券チーフ為替ストラテジストの⼭本雅⽂氏)見通しにもなり得るためだ。

ふくおかフィナンシャルグループ・チーフストラテジストの佐々木融氏は、与党の議席数が過半数を割り込めば、目先は政治的な混乱を嫌気する形で株安と円高が一時的に進む可能性が高いとみる。

しかし「政局混乱は日銀の金融引き締めを遅らせることになり、政策もポピュリズム色の強いばらまきが加速しかねない。結果的には円安へ振れるのではないか」と分析している。