チック症

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監修医師:
大坂 貴史(医師)

京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

チック症の概要

チック症は、反復的で不随意な運動や発声を特徴とする神経発達障害であり、主に小児期に発症します。チック症は単純な運動チックや音声チックから始まり、複雑な動作や発声に進展することがあります。チックは通常、短時間に繰り返され、患者は一時的に抑制することができるものの、その衝動を抑え続けることは困難です。チック症は、運動チックまたは音声チックのどちらか、またはその両方が持続する場合に診断されます。
一過性のチックは 1 年未満で治まりますが、小児期に発症したチックの多くは、数年後もチックが続くか再発します。持続的な運動チックと音声チックはトゥレット症候群の特徴です。トゥレット症候群は、重症化しやすく、日常生活に支障をきたすことが多いです(参考文献 1)。

チック症の原因

チックにはさまざまな種類と原因があります。まず、病的なチックは、いくつかの主要なカテゴリーに分類されます(参考文献 2)。
散発的なチックは、以下のように分類されます。

一過性の運動チックまたは音声チック: 通常、1年未満の期間にわたり、短期間で消失するものです。

慢性の運動チックまたは音声チック: 1年以上持続するチックで、長期間にわたり症状が現れます。

成人発症のチック: これは再発性であり、成人期に初めて発症することがあります。

トゥレット症候群もチックの一種で、運動チックと音声チックが同時に1年以上続くのが特徴です。
二次性チックは、他の疾患や状態によって引き起こされるもので、トゥレット症候群の症状を示す場合があります。これには、以下の要因が含まれます。

遺伝性疾患: ハンチントン病、神経有棘赤血球症、脳の鉄蓄積による神経変性、結節性硬化症、ウィルソン病など。

感染症: 脳炎や小舞踏病などが原因となることがあります。

薬物: 覚醒剤、レボドパ、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、抗精神病薬(遅発性チックを引き起こすことがあります)などが関与する場合があります。

毒素: 一酸化炭素中毒などが原因となることがあります。

発達障害: 静的脳症、知的障害、染色体異常などに関連することがあります。

その他の原因: 頭部外傷、脳卒中、神経皮膚症候群、統合失調症、神経変性疾患など。

これらのチック症状は、原因や発症のタイミングによってさまざまな経過をたどるため、正確な診断と適切な治療が重要です。

チック症の前兆や初期症状について

チックの分類:(参考文献 3)

運動チック: 単純なものはまばたきや肩をすくめる動作、複雑なものは奇妙な歩き方や蹴る動作などがあります。運動チックには、体の姿勢を保つジストニア性チックや、動かなくなる強直性チックも含まれます。強い首チックは外傷と関連することはまれですが、治療が必要な場合もあります。

音声チック: 単純なものはうなり声や咳払い、複雑なものは卑猥な言葉や言葉の繰り返しがあります。卑猥な言葉は症例の20%未満で見られ、短縮されることが多いです。

チックの特徴:

チックは、発作前に抑えがたい衝動があり、発作後に軽減される感覚があります。チックは誘発因子や抑制可能性、重症度の変動などに影響され、新しいチックが現れることもあります。誘発因子には、ストレスや不安、疲労などが含まれます。

チック症の検査・診断

チック症の診断は、主に患者の症状と病歴に基づいて行われます。特別な検査は必要ないことが多いですが、他の疾患との鑑別のために神経学的な評価が行われることがあります。

問診と視診

医師は、チックの種類、頻度、発症時期、増悪因子などを詳細に尋ねます。また、家族歴や過去の病歴についても確認します。視診では、患者の動作や発声の特徴を観察し、運動チックや音声チックの有無を確認します。また、使用している薬剤など二次性チックの原因となる疾患を調べます。

神経学的評価

神経学的評価では、二次性のチック症を評価するために、患者の神経機能を評価します。必要に応じて、脳の画像検査(MRIやCT)や血液検査が行われることもあります。

チック症の治療

チック症の治療は、症状の重さや日常生活への影響に応じて選択されます。一過性チックは、健康な小児の最大10%に発生し、数週間または数ヶ月で自然に治まることがあります。単純な運動チックを呈する小児のほとんどは治療を必要としません。しかし、症状が日常生活に大きな影響を与える場合には、以下の治療法が考慮されます(参考文献 3)。また、二次性チック症の場合、それぞれの原因に合わせた治療が行われる他、原因薬剤の中止などが必要なケースもあります(参考文献 1)。

教育と理解

まず大切なのは、本人や家族、学校の先生たちがトゥレット症候群について正しく理解することです。トゥレット症候群がどんなものかを知ることで、周囲の人がサポートしやすくなります。

行動療法

「習慣逆転訓練」という方法があり、チックを抑えるための特別なトレーニングを行います。この療法は、チックを少しでも抑える助けになります。

薬物療法

チックの症状が強い場合には、薬を使って症状を軽くすることがあります。薬には、脳の働きを調整するものや、神経の興奮を抑えるものがあります。ただし、薬には副作用もあるため、医師と相談しながら進めることが大切です。

ボツリヌス毒素注射

特定の部位でチックが強い場合、その部分の筋肉に注射をしてチックを抑える方法もあります。

チック症になりやすい人・予防の方法

チック症になりやすい人

トゥレット症候群の原因は不明ですが、家族にトゥレット症候群やチック症の既往がある場合、発症しやすい傾向にあります。また、二次性チック症の原因となる疾病の場合にも起こりうります。注目すべきことに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に機能性チックの増加が見られ、主に思春期の女性に影響を及ぼし、複雑で振幅の大きい運動チックと幅広い発声に関連しています(参考文献 1)。

予防の方法

チック症の予防法はありません。しかし、早期発見と治療によりトゥレット症候群が悪化するのを防ぐことができます。
チック症は、一部の患者にとっては自然に軽減することがありますが、他の患者では成人期に至っても持続することがあります。適切な診断と治療を行うことで、患者の生活の質を向上させることが可能です。チック症状が日常生活に大きな影響を与える場合は、早期に専門医の診察を受け、適切な治療を開始することが推奨されます。


参考文献

1.Up To Date 小児の多動性運動障害

2.Up To Date チックの分類

3.Up To Date トゥレット症候群:病因、臨床的特徴、診断