世界一高い山と言えば、中国とネパールの国境にまたがる標高8849mの「エベレスト」だ、というのは多くの人が知ってると思うよ。では、なぜエベレストはそんなにも高い山になったんだろう?

その理由のほとんどはプレートテクトニクス、つまりインド亜大陸がユーラシア大陸を押し続けていることで説明できており、実際エベレストは現在でも高さが上がっているんだよね。ところが、GPSで測定された隆起速度は1年あたり約2mmであり、プレートテクトニクスが主な理由とは言え、隆起速度の全てを説明できない、という問題があったよ。

中国地質大学のXu Han氏などの研究チームは、エベレストの近くを流れるアルン川の流れが最近変化したことが、最終的にはエベレストの高さを押し上げたのではないか? という面白い説を提唱したよ。簡単に言えば、上から押すことで沈んでいた氷が、押すのをやめると浮かび上がるように、エベレスト周辺の地殻が浮かび上がった、ということみたいだよ。今回の研究からは、エベレストの高さは8万9000年間で15mから50mも余計に隆起したらしい、ということが示唆されるんだよね!

このリード文だけではちょっとピンと来ないという人も多いと思うので、本文で背景を詳しく解説するね!

エベレストの隆起速度には謎がある

【▲図1: 標高5200mのロンブク渓谷から見たエベレストの北壁 (Public Domain) 】

中国とネパールの国境にまたがるヒマラヤ山脈は、世界の屋根と言うあだ名があるくらい、多数の高い山があることで知られているよね。中でも最も高いのは「エベレスト」 (チベット名「チョモランマ」、ネパール名「サガルマータ」) であり、標高8849mと、ヒマラヤのみならず「世界で最も高い山」として知られてるよね。

ではなぜ、エベレストを含めたヒマラヤ山脈はそんなにも高いのか? 本やインターネットでその理由を調べれば、出てくる情報の大部分はプレートテクトニクスに言及していると思うんだよね。今から約5500万年前、北上したインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突したよ。衝突後もインド亜大陸の北上は減速はすれど止まらなかったため、衝突場所は現在でも盛り上がり続けているのが、現在のヒマラヤ山脈なんだよね。

エベレストは現在でも少しずつ標高が高くなっており、GPSによる精密な測定では、現在でも約2mm/年の速度で隆起し続けているのが観測されているよ。しかし、この隆起速度が明らかになった結果、逆に謎が生まれたよ。プレートテクトニクスによって説明できる隆起速度はその半分、約1mm/年だったんだよね。では残りの隆起速度は何から来ているんだろう? という点に謎があったよ。

これに加えて別の謎もあったよ。世界最高峰のエベレストは、世界2位のK2との標高差が238mもあるよ。同じヒマラヤ山脈にある2位以下の山であるK2、カンチェンジュンガ、ローツェ、マカルーの標高差がお互いに120m以下なことを考えると、文字通り飛び抜けて高いんだよね。周りと比べても飛び抜けているのは、エベレストが世界最高峰であることに部分的に関与しているとも考えられるけど、この点についても詳しい理由は謎となっていたよ。

エベレストは浮かび上がって標高が高くなった?

ところで地形が隆起するメカニズムは、何もプレートテクトニクスだけが全てじゃないよ。特に「アイソスタシー・リバウンド」は、影響の大きさから考慮しなきゃならない事項なんだよね。地球の構造を大雑把に言えば、水の上に浮く氷のように、密度の低い地殻は、密度の高いマントルから浮力を受けて浮いている状態なんだよね。

通常、地殻の重さはそう簡単には変化しないので、地殻の沈み込みはマントルからの浮力と釣り合う高さで固定されるはずだよね? しかし、氷を上から押せば水に沈むように、地殻も上から押せばその分だけ余計に沈み込むから、上から押す力を無くすと釣り合いを保つために地殻は浮かび上がるよ。これがアイソスタシー・リバウンドと呼ばれる現象なんだよね。

アイソスタシー・リバウンドは、典型的にはヨーロッパのスカンジナビア半島に見られるよ。ここは氷河期の頃、厚さ4kmもの大きな氷床が地殻を押していたんだけど、それが融けてなくなったことで押さえつける力が無くなり、約1mm/年という速度で隆起しているんだよね。

そこでHan氏らの研究チームは、エベレストの隆起にはアイソスタシー・リバウンドが関与しているんじゃないか? と考えたんだよね。ただしエベレスト周辺の場合、隆起した理由は氷床ではなく、近くを流れる「アルン川」による浸食が原因だとHan氏らは考えているよ。水の流れで地面が少しずつ削られるため、川の周辺は局所的に標高が下がるものの、その周辺部の地殻の重さは少しずつ減っていく、というのは分かるよね。

これに加えてHan氏らは、アルン川の流れる向きの変化も影響していると考えているよ。アルン川は現在、コシ川と呼ばれる大きな川に注いでいる支流となっているけど、どうもこうなったのは今から数万年前と、地質学的に言えば最近になって起きたらしいんだよね。この「河川争奪」と呼ばれる現象で流れる向きが大きく変化すると、今まで川が流れていなかった場所や、あまり水量が多くなかった川での浸食が激しくなるので、河川争奪の前よりも大量の土砂が下流に流れていくことになるよ。エベレストを含むアルン川周辺は、浸食活動で地殻が軽くなった結果、アイソスタシー・リバウンドが発生して浮き上がったのではないか? と考えたわけ。

【▲図2: 今回の研究で組まれた数値モデルによる隆起速度の推定。アルン川は画像上側にある川であり、今回この付近がアイソスタシー・リバウンドで隆起していることが推定されたんだよね。 (Image Credit: Xu Han, et al.) 】

Han氏らはこの推定を実証するために、数値モデルを構築し、エベレスト周辺のアイソスタシーを推定したよ。その結果、今から約8万9000年前にアルン川の流れる向きが変化したことによって浸食が激しくなり、地殻が軽くなった結果、アルン川周辺の地殻がマントルに対して浮かび上がった、ということが示されたんだよね。

モデルによれば、エベレストはアイソスタシー・リバウンドだけで約0.53mm/年の速度で隆起し、8万9000年間に最低15m、最大で50mほど隆起したのではないか、と示唆しているんだよね。これはプレートテクトニクスで説明できない隆起速度の一部と、エベレストが飛びぬけて高い理由になっていると考えることができるよ。

エベレスト以外の山も浮き上がっている?

Han氏らによる今回の研究は、あくまで数値モデルによる計算だから、実際のエベレストの隆起の原因がアイソスタシー・リバウンドで説明できるかどうかについて、さらに研究が必要とされる点には注意が必要だよ。

とはいえ、他にもっともらしい説明がないというのも事実なんだよね。さらに、この研究は案外早めに正しいか間違っているかの判断ができるかもしれないよ。アイソスタシー・リバウンドで周辺の地殻が持ち上げられるならば、エベレスト以外の山も隆起しているはずだからね。特に世界4位のローツェと世界5位のマカルーは共にエベレストの近くにあり、マカルーはアルン川に最も近い位置にあるんだよね。

もしアイソスタシー・リバウンドでエベレストの隆起が説明できるなら、アルン川に最も近いマカルーはエベレストよりもさらに速い速度で隆起していることになるはずだよ。この数値面が明らかになれば、今回の研究の妥当性も分かってくると思うんだよ!

<参考文献>
Xu Han, et al. “Recent uplift of Chomolungma enhanced by river drainage piracy”. Nature Geoscience, 2024; 17, 1031-1037. DOI: 10.1038/s41561-024-01535-w
Mike Lucibella. (Sep 30, 2024) “A river is pushing up Mount Everest’s peak”. University College London.

(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)