地面師なりすまし役の男が《告白》「単なる報酬目当てだった」...1回あたり《数十万円》で犯罪に加担する男の《内心》

写真拡大 (全4枚)

今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第23回

『地面師たちの「実行犯」なりすまし役の正体が判明!?...ニセ地主の背後に忍ぶ《ヤクザ》の陰』より続く

なりすまし役のスカウト

浜田山の駐車場詐欺でなりすまし犯として渡邊を逮捕した際、警視庁が把握していた当人の住居は、埼玉県北部の住宅街にあるアパートの一室になっていた。東京の都心に出るには、電車で一時間ほどかかる住宅地だ。念のため、そこを訪ねてみた。

簡易鉄骨モルタルづくり3階建てのそのアパートはかなり古く、築20年以上が経っているようにみえる。警視庁は部屋番号まで発表していないので、すぐにどの部屋なのかわからないが、ほとんどの部屋には表札がない。仕方なく、30軒近くあるアパート全室のほとんどを尋ねて回った。

「渡邊さんのお宅はどこでしょうか」

インターフォン越しにそう尋ねていくと、不審そうに問い返す住人も少なくなかった。

「おたくどなた?最近、そうやって聞いて回る人がけっこういるのよね。いったい何があったの?」

訪ねてくるのはマスコミ風ではないらしいので、ひょっとしたら警察だったのかもしれない。そんな雑談をアパートの住人とかわしながら、なかには親切な人もいた。こう答えてくれた。

「ああ、その人(渡邊のこと)ね。たぶん0×号室ですよ。でも住んでいないんじゃないかしら」

その0×号室のインターフォンを押したが、むろん誰も出ない。それどころか、生活感がなく、住んでいた気配もない。ひょっとしたら単に住民票を置いていただけかもしれない。地面師グループたちは足がつかないよう、なりすまし役に住民票だけを移させることぐらいは朝飯前なのだろう。なりすましの絶対条件として、身元が容易にわからない人物であること、犯罪歴のないことなどが必須だという。

「単なる報酬目当てだった」

浜田山の駐車場詐欺事件でなりすまし役として登場した渡邊は、過去に地面師との直接的なつながりもない。

「単なる報酬目当てだった」

渡邊は公判でもなりすまし役になった理由として、そう本音を吐露している。億単位を騙し取る地面師詐欺で重要な役回りを果たすなりすまし役としての報酬は、上限200万〜300万円だとされ、ふつうは数十万円らしい。ちょっとした小遣い稼ぎの感覚で犯行に手を貸すケースも少なくないという。

つまりなりすまし役の大半は、過去に事件で登場したような前科持ちの詐欺師や事件師ではなく、ほとんどが素人だ。そうでなければ足がつきやすいからだが、その分、内田たちにとっては不安も残る。したがって地面師グループがなりすましを採用する際には、必ず面接をする。そのポイントはどこか。

「一つは、しゃべりがうまいこと。それと記憶力がいいことでしょうか。そこを見極め、使いものになるかどうか、判断し、雇うのです」

先の地面師は、いっこうに悪びれる様子もなく、そう話した。面接では、取引に備えた予行演習などもするという。

「実際に事務所で取引を想定して目の前に座らせ、マイクたちが『これから本人確認をさせていただきます』と取引相手側の司法書士役をしながら、あるいは実際にお抱えの司法書士にテストをやらせる。『身分を証明できるものを提示してください』と質問し、あらかじめ用意して渡しておいた偽造の免許証なり、パスポートなり、高齢者手帳なりを出す。『何年何月生まれですか』『本籍はどこですか』『ご兄弟は』『生まれ年の干支は』などと矢継ぎ早に尋ね、淀みなく答えさせるんです」

主犯格直々の面接

なりすまし役は犯行の成否を左右するだけに、その選抜には神経を遣う。そのため面接は、たいてい主犯格がおこなう。事実、浜田山の事件だと、内田や八重森がみずからなりすまし役の渡邊を面接している。渡邊は、検事の取り調べに対し、こう供述した。

「内田の面接を受けたあと、(手配師の)高橋から地主役の面接に合格したと告げられました。その後、神田の喫茶店で別の人物と会うよう指示されました。そこでは運転免許証用の写真を持参するよう言われました」

渡邊は、内田に続けてもう一人のリーダーである八重森から面接を受けた。そのときの模様は以下のように供述している。

「喫茶店で八重森に会った際、運転免許証の顔写真を見せると、写真の背の景色などに問題があるといわれ、写真の撮り直しを指示されました。教わった写真店で撮り直した写真を渡し、それから真の土地所有者であるAのところに下見に行った。その帰りに、八重森から一万円をもらいました」

この一万円はなりすまし報酬としてはあまりに少なすぎるので、交通費のようなものだろう。地面師事件は、なりすまし役さえ捕まらなければ、立件されづらい。仮に逮捕しても口を割らなければ、捜査は難航する。口が堅いこともなりすまし役の前提条件だが、なぜか渡邊は捜査当局の取り調べに対し、あっさりと白状している。内田マイクたちにとって、なりすまし役の性格に思わぬ落とし穴があった。

『「マニキュアで指紋を消せ」用意周到すぎる犯行でも、《逮捕》...地面師グループの主犯たちが気づかなかった《なりすまし役》の致命的すぎる性格』へ続く

「マニキュアで指紋を消せ」用意周到すぎる犯行でも、《逮捕》...地面師グループの主犯たちが気づかなかった《なりすまし役》の致命的すぎる性格