「60代管理職」はほぼいない…日本企業「中高年社員のモチベーション低下」という大問題

写真拡大 (全3枚)

年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%――。

10万部突破のベストセラー『ほんとうの定年後』では、多数の統計データや事例から知られざる「定年後の実態」を明らかにしている。

60代管理職はほとんど存在しない

高齢期において、会社で働き続ける人の処遇はどうなるか。昨今、管理職になりたくないという人も増えてきているが、実際問題として自分自身にどのような役職を会社が用意してくれるかは、多くの人にとって大きな関心ごとになる。重要な役職を任せてくれるような企業であれば、人はその期待に報いるために熱意をもって仕事をする。一方で、いまの会社で相応の役職が期待できないようであれば、ほかに活躍の場を求めようとするのが自然である。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から、10人以上の企業について、部長相当職、課長相当職、係長相当職に就く人の年齢構成を取ったものが図表1-14である。なお、同調査では、役職のデータは雇用期間の定めがないものに限定して集計されている。このため、たとえば非常勤の担当部長といったような人たちは集計に含まれていないことには留意が必要である。

データをみると、大方の予想通り、大半の従業員が定年前後を境にして組織内における枢要な職位から降りることがわかる。

部長職については、30代後半から少しずつ在籍者が増え始め、若い人では40代前半から後半にかけてその職に就く。そして、部長職の構成比率は、50代前半で26.6%、50代後半で26.9%と50代でピークを打った後は急速に減少し、60代前半には8.8%、60代後半には2.7%までその数を減らす。特に、大企業においては、部長職にまで上り詰めることができる人はごく一部である。そのごく一部の人も年齢を重ねるなかでいずれその役職を降りることを余儀なくされる。

課長職ではさらに状況は厳しい。課長職の年齢構成をみると、60代前半でその職に就く人の比率は2.9%、60代後半は0.5%となる。50代後半以降、多くの人は役職定年や定年を経験して役職をはく奪される。60歳を過ぎて、部下を多数有する常勤の役職者で居続けることは、多くの日本企業では不可能になっている。

現場で活躍し続けることが求められる時代に

それにしても、なぜ日本企業はその人の持つ能力の如何にかかわらず、ここまで厳格に年齢によって一律に役職を引き下げるのか。企業人事の視点に目を移せば、そこにはいくつかの事情が存在する。

日本企業が厳格な年齢管理を手放さないその理屈を追っていったとき、まず直面するのは、日本社会が少子高齢化に直面するなか、企業においても社内の年齢構成のバランスが崩れているという事実である。

総務省「労働力調査」から日本全体の雇用者の年齢分布をみると、ここ数十年で社内の年齢ピラミッドが大きく崩れている様子がうかがえる(図表1-15)。これは日本全体の雇用者数の総数であり、なかには創業が新しく若い人が多い企業なども存在するが、20代や30代の社員が減少して中高年が増えているという現象は、平均的な日本企業の多くが直面している課題となっている。

管理職とは、複数人の部下を管理するために就く仕事であるから、当然に少数精鋭でなければならない。しかし、多くの企業で中高年が急速に増えていくなかで、現場で顧客の最前線に立って成果を生み出すプレイヤーが不足し、管理だけを行う人材へのニーズが低下している。そのギャップが多くの企業で顕在化しているのである。

年齢構成のひずみの拡大に応じて、企業としても役職適齢期を迎えている中堅層を十分に処遇しきれなくなっている。これまで企業のために尽くしてくれた従業員に対して職位で報いることができないということになれば、中堅層のモチベーション維持に困難が生じる。

定年前の中高年のモチベーションの低下が問題視されて久しい。しかしその一方で、近年では一社員として現場で利益を上げ続けられる社員であれば年齢にかかわらず確保したいというニーズも、企業内において急速に高まっている。

将来的に団塊ジュニア世代が定年を迎え、その多くが非戦力化してしまうようであれば事業の現場は成り立たなくなってしまう。企業としては、比較的年齢が若い社員の層が薄くなってきているなかで、非管理職として現場で活躍し続ける社員を増やしていかなければならなくなっているのである。

人員管理の根詰まりという問題

こうした現状を見てわかるのは、職業人生の最後の瞬間まで高い役職を維持し続けるのは困難であり、生涯現役時代においては、キャリアのどこかの段階でポストオフに直面することを、誰しもがキャリアの大前提として考えなければならないということである。役職に就きながらただ漫然と現場で利益を生み出す社員を傍観していれば許されるような働き方は、もはや通用しなくなるということだ。

早期に昇進をして重要な仕事を任されたいと思う若手にとっても、人員管理の根詰まりは強い閉塞感につながっている。若手の離職を防ぐ観点からも一プレイヤーとして中高年齢者に活躍してもらう重要性はますます高まっている。

日本企業で起きている多くの問題は、企業内の高齢化に端を発している。日本型雇用が現代社会の環境変化に対応できていないのである。年功序列や終身雇用といった日本型雇用は、企業内の人口ピラミッドが維持できている間はうまく機能していた。しかし、企業の年齢構成が過度に高齢化してしまったなかで、昇進、昇格で動機づけすることができない社員をどう活用するか。この問題に多くの企業は頭を悩ませている。

つづく「多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体」では、失われた30年を経て日本経済はどう激変したのか、人手不足が何をもたらしているのか、深く掘り下げる。

多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体