足もとの木が、めちゃくちゃ小さく見える…なんと、哺乳類最大レベルのデカさをほこった「3600年前のサイ」衝撃の姿

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新生代は、今から約6600万年前に始まって、現在まで続く、顕生代の区分です。古生代や中生代と比べると、圧倒的に短い期間ですが、地層に残るさまざまな「情報」は、新しい時代ほど詳しく、多く、残っています。つまり、「密度の濃い情報」という視点でいえば、新生代はとても「豊富な時代」です。

マンモスやサーベルタイガーなど、多くの哺乳類が登場した時代ですが、もちろん、この時代に登場した動物群のすべてが、子孫を残せたわけではありません。ある期間だけ栄え、そしてグループ丸ごと姿を消したものもいます。

そこで、好評のシリーズ『生命の大進化40億年史』の「新生代編」より、この時代の特徴的な生物種をご紹介していきましょう。今回は、現在の動物園でも人気の生物「ゾウ」と「サイ」の、三千数百年前の仲間を見てみます。

*本記事は、ブルーバックス『カラー図説 生命の大進化40億年史 新生代編 哺乳類の時代ーー多様化、氷河の時代、そして人類の誕生』より、内容を再構成・再編集してお届けします。

長い鼻の始まり?

ウマの祖先であるメソヒップスが北アメリカの森林で暮らし始めたころ、アフリカでは新たな長鼻類が出現していた。その長鼻類の名前を「モエリテリウム(Moeritherium)」という。

暁新世の長鼻類として紹介したフォスファテリウム(こちらの記事を参照)が謎の多い存在であることに対し、モエリテリウムは全身復元骨格が組み立てられるほどにはわかっている。

その姿は、一言で言えば、「胴長短足」。全長は2メートル近くあるにもかかわらず、肩の高さは60センチメートルほどしかない。現生ゾウ類のように長い牙はないけれども、やや長い切歯を備えていた(ゾウ類の「牙」は犬歯ではなく切歯である)。

2008年、オックスフォード大学(イギリス)のアレクサンダー・G・S・C・リウたちは、モエリテリウムの歯の化学分析を行い、水中で水生植物を食べていた可能性を指摘した。この分析結果に基づくのならば、モエリテリウムは水棲か半水棲だったことになる。最初期の長鼻類であるフォスファテリウムの生態が謎に包まれている以上、長鼻類の歴史は、水の中から始まった可能性もあるのだ。

そして、モエリテリウムを追いかけるように登場するのが、「フィオミア(Phiomia)」が登場する。

体も大型になりはじめる

アフリカに登場した「フィオミア(Phiomia)」の肩高は1〜1.5メートル。このあたりから、長鼻類は大型哺乳類となっていく。

フィオミアは、面構えが独特だ。前後に長い頭部の先端付近では、上顎の切歯は弧を描きながら下を向くように伸び、その断面は円形に近くなっていた。下顎の切歯は平たく前に向かって伸び、シャベルのような形状である。

そして、鼻孔が大きく後退し、吻部の先端から離れていた。これでは、口先にある物体のにおいを嗅ぐことが難しい。そのため、フィオミアの後退した鼻孔から口先まで鼻が伸びていたと復元されることが多い。ただし、この復元を支える証拠はとくに発見されているわけではない。

……証拠が発見されているわけではないけれども、ともかくも、フィオミアは「長い鼻」を備えていた可能性がある。大型化の始まったこのあたりから「長鼻類」が「長鼻類」らしい進化の道を歩み始めたといえるかもしれない。

絶滅した「恐角類」…サイそっくりだけど、独立グループ

「テリウム(therium)」の名をもつものたちを紹介していこう。ラテン語で「獣」を意味するこの単語は、まさに哺乳類の名前としてふさわしい。

始新世最初期のアジアに出現した“テリウム”に、「ウインタテリウム(Uintatherium)」がいた。サイのようなサイズでサイのようなからだのつくりをしているけれども、サイ類ではなく、サイ類が属している奇蹄類(きているい)でもなく、「恐角類(きょうかくるい)」と呼ばれる絶滅グループに分類される。

その特徴は、ずばり”面構え”。眼窩の前の左右、眼窩の上にイボ状の突起があり、上顎の犬歯は長く発達し、口外へ出る。口の中を見ると上顎には切歯がない。そのため、2010年に国立科学博物館の冨田幸光が著した『新版 絶滅哺乳類図鑑』では、「長い舌を使ってエサの植物を集めていた可能性」に言及している。

史上最大級の陸上哺乳類…こちらは、ツノはないけれどサイの仲間

始新世の「テリウム」の代表格といえば、「パラケラテリウム(Paraceratherium)」を忘れてはいけない。長い首と長い脚をもつ哺乳類で、からだの割には小さい頭をしている。

最大の特徴はその大きさだ。頭胴長は7.5メートル、肩高は4.5メートルと推定されている。史上最大級の陸上哺乳類の一つに挙げられるサイ類である。ただし、「サイ類」とはいっても、ツノはなかったとみられている。

なお、かつて「バルキテリウム(Baluchitherium)」や「インドリコテリウム(Indricotherium)」の名前でも知られたが、近年では、パラケラテリウム、バルキテリウム、インドリコテリウムは同一であるとの見方が主流となり、最初に命名された「パラケラテリウム」に統一される傾向にある(先取権の原則)。

上野の国立科学博物館に展示されている全身復元骨格の名称も、当初はインドリコテリウムだったものの、現在ではパラケラテリウムに変更されている。

パラケラテリウムの名前(属名)をもつ種は複数報告されており、近年でも2021年に中国科学院のタオ・デンたちによって1種追加されている。タオたちの論文によると、「最初のパラケラテリウム」の出現は始新世の終盤のモンゴルであり、その後、この仲間は中央アジアから西アジアにかけて分布域を広げていったという。

アジアの広大な内陸域を駆け回る巨大なサイ類。「迫力の世界」がそこにあったことだろう。

さて、中世代の海洋世界に存在した大型の海棲爬虫類(かいせい・はちゅうるい)は、新生代に生き残ることができずに消えていった。

こうした、大型の海棲爬虫類が消えた、いわば「海洋世界隙間」に、新たな生物が進出していく。

先の記事でご紹介したように、まず、暁新世に鳥類の一員であるペンギン類が、そして、始新世には、哺乳類も本格的に進出を開始する。続いては、クジラの仲間のはじまりを見てみよう。海洋に進出していく生物の、陸上にいたころの姿に、きっと驚くことだろう。

カラー図説 生命の大進化40億年史 シリーズ

全3巻で40億年の生命史が全部読める、好評シリーズの新生代編。哺乳類の多様化と進化を中心に、さまざまな種を取り上げながら、豊富な化石写真と復元画とともに解説していきます。

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