「ある種の乳酸菌」は高血圧を改善できる…?!「あまりにも意外なマウス研究」から見えてきた「治療の可能性」

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「お腹の調子が悪くて気分が落ち込む」という経験がある人は多いのではないだろうか。これは「脳腸相関」と呼ばれるメカニズムによるものだ。腸と脳は情報のやりとりをしてお互いの機能を調整するしくみがあり、いま世界中の研究者が注目する研究対象となっている。

腸内環境が乱れると不眠、うつ、発達障害、認知症、糖尿病、肥満、高血圧、免疫疾患や感染症の重症化……と、全身のあらゆる不調に関わることがわかってきているという。いったいなぜか? 脳腸相関の最新研究を解説した『「腸と脳」の科学』から、その一部を紹介していこう。

*本記事は、『「腸と脳」の科学』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。

高血圧と腸内マイクロバイオータ

日本では成人の3人に1人、高齢者では3人に2人が高血圧です。心臓病や脳卒中などの疾患につながる高血圧の予防には、減塩と体重管理が有効だとされていますが、2019年の国民健康・栄養調査報告によると、日本人の男性は、1日に10・9g、女性は9・3gの食塩を摂取しているそうです。世界保健機関(WHO)は、成人の1日の食塩摂取目標を5gとしているので、減塩をしたほうがよい人はかなり多いのではないでしょうか。

じつは近年の研究から、この高血圧の発症にも、腸内マイクロバイオータが関与している可能性が示されました。

栄養バランスの取れた餌に食塩を添加したものをマウスに与え、腸内マイクロバイオータの組成を解析したところ、マウスに特有のある乳酸菌の数が大きく減少することがわかりました。この乳酸菌はどのような役割を担っているのでしょうか?

乳酸菌の摂取により高血圧が抑制できる?

これまでの研究から、塩分の摂りすぎは炎症反応を亢進させるのではないかと考えられています。そこで、体内で炎症が起こっているモデルとして多発性硬化症モデルマウスにこの乳酸菌を投与したところ、炎症反応を引き起こすサイトカイン(インターロイキン−17など)を産生する免疫細胞(17型ヘルパーT細胞)の数が減少して、炎症反応が抑制されたのです。

さらに驚くことに、食塩を添加した餌を与えているマウスにこの乳酸菌を投与すると、血圧が低下したのです。同様の効果は、乳酸菌の一種であるロイテリ菌の投与でも見られました。つまり、少なくともマウスでは、塩分の高い食事を摂ることで起こる高血圧や炎症反応は、乳酸菌を補えば改善できる可能性があるといえます。

被験者の数は少ないですが、ヒトに食塩を余分に摂取させる実験を行ったところ、マウスと同様に腸内マイクロバイオータに含まれる乳酸菌の数が減少し、免疫細胞(17型ヘルパーT細胞)が増加していたのです(※参考文献9-24)。

なぜ乳酸菌を投与すると、免疫細胞が減少し、高血圧が抑制されるのか、その詳細はまだ完全には明らかになっていません。また、ヒトにおいても乳酸菌やあるいは乳酸菌が代謝して作り出すさまざまな物質によって、高血圧や炎症反応が抑制されるのかどうかは不明です。将来的には、乳酸菌や乳酸菌が代謝して産生する物質を含む食品を摂取することで、高血圧や炎症反応を抑制できるようになることが期待されます。

※参考文献

9-24 Wilck N et al., Nature 551, 585-589, 2017.

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