カザフスタンでも原発GO! これは核戦争の前段階なのか

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カザフスタンで原発GO!

10月6日、カザフスタンは原子力発電所の建設の是非を問う国民投票を実施した。7日に中央国民投票委員会が発表したところでは、国民投票に参加できる国民(1200万2847人)の63.66%に当たる782万204人が参加。賛成票を投じた国民の数は556万1937人、71.12%であった(下の写真)。

ただし、大都市アルマトゥイの投票率は、25.2%にすぎなかった(表の下から3段目)。一部の情報によると、投票に先立ち30人近い活動家が拘束され、原発建設計画に対する抗議活動が禁止された。だからこそ、都市部において、そもそも投票に出向こうとしない人が多かったのかもしれない。

10月6日には、投票の水増しや、報告された投票率と目撃証言の食い違いが一部で報告された。また7日には、投票独立監視員が圧力を受けたり、少なくとも3人が投票所から追い出されたりした例が報告された。こうしたことから、カザフ政府はあくまで形式的に国民投票を実施し、国民の過半数の賛成を名目として原発建設に乗り出そうとしているようにみえる。

原発は核兵器製造への第一歩

2010年に上梓した拙著『核なき世界論』のなかで、「現在、稼働中の原子力発電所はすべて核分裂エネルギーを制御することで発電を行っている」と書いた。この記述はいまでも通用する。

そのうえで、拙著では、「これは、核分裂反応による原子爆弾を製造する過程の副産物として誕生した」と記した。かつて「原爆」と呼ばれた核分裂型核兵器には、ウラン濃縮によるものとプルトニウムから製造されるものがある。アメリカがウラン濃縮型(リトルボーイ)とプルトニウム型(ファットマン)を、広島と長崎にそれぞれ投下した理由は、この2種類の実効性を実証したかったからであろう。

そう考えると、原子力の「平和利用」として位置づけられている原発は、本当は核兵器製造に深く関係していることになる。はっきりいえば、原発建設は核兵器製造への第一歩なのだ。なぜなら、原発用ウラン燃料をより濃縮すれば、核兵器をつくることができる(ウラン235の含有率が20%以上のものを高濃縮ウランと呼び、核兵器には一般に90%以上に高めたものを使用する)。

他方で、「たとえば、年間20トンの低濃縮ウランを消費する出力100万キロワットの加圧水型原子炉なら、照射後に200キロのプルトニウムが発生する」(拙著『核なき世界論』57頁)。ただ、このプルトニウムは軍事利用しにくい同位体を多く含んでいるため、直接、核兵器製造に使用される心配はない。高純度プルトニウムを抽出するには、使用済み燃料を再処理する必要があるわけだが、いずれにしても、プルトニウム型核兵器製造への道を歩み出したとも言える。つまり、原発が世界中に広がると、それを契機に、核兵器製造の芽があちこちにばら撒(ま)かれることになるのだ。

原発ラッシュの世界

原子力を推進する国際組織で、44カ国の組織が加盟する「世界原子力協会」(WNA)によると、現在、32カ国と台湾で約440基の原子炉が稼動しており、その合計容量は約390GWeである(10月9日閲覧)。昨年には、これらの原子炉が世界の電力の約9%にあたる2602TWhを供給した。さらに、「世界中で約60基の原子炉が建設中である」とされ、「さらに110基が計画されている」と紹介されている。

具体的には、バングラデシュ(ルプール原発、2基で構成、ロスアトムが建設中)、エジプト(エル・ダバア原発、4基で構成、ロスアトムが建設中)、トルコ(アックユ原発、4基で構成、同じくロスアトムが建設中)が、最初の原発を建設中である。なお、ロスアトムはロシアの原子力機関である。

核実験場としてのカザフスタン

カザフスタンの場合、ソ連時代の1973年から1999年まで、西部のシェフチェンコ市(1991年以降は、マンギスタウ州の中心地であるカスピ海沿岸の都市アクタウ)で、マンギスタウ原発を基礎としてシェフチェンコ原発が稼働していた。 高速中性子炉BN-350を備えた発電所で、使用済み核燃料を原発の燃料にすることができた。

この発電所では放射線事故は起きていないが、BN-350原子炉は兵器級プルトニウム239を生成する可能性があったとされている。 1990年代に多くの反核イニシアチブを打ち出していたカザフでは、これが決定的な要因となり、BN-350は1999年に廃止された。

この背後には、ソ連時代にカザフの地が核実験場として利用されてきた歴史への反発があった。有名な「セミパラチンスク核実験場では、最初の爆発が1949年に行われ、それから1989年まで、少なくとも468回の核実験(地上及び地下)が行われた。独立したカザフの初代大統領ヌルスルタン・ナザルバエフは、1991年8月29日に政令でこの核実験場を閉鎖した。2009年、国連はカザフの要請により、8月29日を「核実験に反対する国際デー」と宣言したという因縁もある。

ウラン大国カザフスタン

それでも、カザフには、原発利用を推進したい動機がある。それは、同国が世界最大のウラン生産国であることだ。ウラン鉱石からウランを生産し、低濃縮ウランとして、原発に利用できれば、一貫した原子力産業となり、温室効果ガス削減にもつながるというわけだ。

カザフの昨年時点のウラン鉱石埋蔵量は世界全体の12%で、ウラン生成量は約2万1100トンだった。2022年の各国比較によれば、カザフのウラン生成量は2万1227トンで、世界全体の供給量の43%に相当した。2位はカナダ(7351トン)、3位はナミビア(5613トン)だった。ついで、オーストラリア(4553トン)、ウズベキスタン(3300トン)、ロシア(2508トン)の順だった。

どこから核発電所を輸入するのか

注目されるのは、カザフがどこに原発建設を委ねるかだ。いまのところ、中国核工業集団公司(CNNC)、ロスアトム、韓国の韓国水力原子力発電(KHNP)、フランスのフランス電力公社(EDF)――が候補となっている。カザフ当局は、国際原子力機関(IAEA)と世界原子力発電事業者協会(WANO)が建設を監督することで、高い安全基準を維持し、腐敗リスクを最小限に抑えることができると考えている。

この原発は2035年までに建設される計画で、そのコストは100億〜120億ドルと見積もられている。巨額であるため、どの国の原発を建設するかによって、その国への依存度が長期にわたって高まることになる。だからこそ、ユーラシア大陸のほぼ中央部に位置するカザフという国の今後を占ううえでも、どの国から原発を輸入するかが注目を浴びているわけである。

実は、ロシアも中国も、国家政策として原発を積極的に輸出することで、自国の輸出国への影響力を高めようとしている。しかも、その原発輸出が核兵器開発につながるかもしれないのだ。その意味で、原発の世界的広がりは地政学上の重要テーマとなっている。

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