これから日本の地方で何が起こるのか…「人手不足」の先端を走る地方都市が直面する「現実」

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この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?

なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……

注目の新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

人手不足の先端を走る酒田市

人口減少の最先端を行く日本。その中でもいち早く人口減少が進んでいるのは地方部である。人口減少が労働市場にどのような影響を及ぼし、経済の構造をどのように変えるのか。これを考えるにあたっては、都市圏の経済の状況を分析するよりも、むしろ地方経済で起きている事象を丁寧に把握することが重要である。

まずはプロローグとして、山形県酒田市を舞台に、人口減少と高齢化が著しい地方都市の中小企業で何が起きているのかを紹介していきたい。

酒田市は山形県の北西に位置する庄内北部の都市であり、日本海に面した美しい海岸線と豊かな自然に囲まれた地域である。庄内平野の中央を流れる最上川の河口に開かれた港町である酒田は、酒田港を拠点に古くから日本海の海上交易と最上川の舟運の要として発展してきた。人口は2023年時点で約9万5000人。山形県内では山形市(約24万人)、鶴岡市(約12万人)に次ぐ人口第3位の市町村で県内の主要都市の一つとして位置付けられている。

しかし、酒田市の人口は長期的な減少傾向にある。市が公表している「酒田市人口ビジョン」によると、酒田市の人口は1980年に12万5622人まで増加したものの、その後は減少の一途をたどり、2040年には7万4617人となることが予想されている。2015年の10万6244人と比較すると約30%の減少となる。

人口減少が全国平均よりも早く進むと同時に、高齢化のステージも全国の先を行く。

2023年時点の酒田市の年齢構成をみると、ピークに当たる年齢層は74歳で1944人となる(図表0-1)。酒田市の人口分布を日本全国と比較すると、形状は概ね類似しているものの、高齢層の比率が高い一方で、若年層の比率が低くなっている。特に団塊世代の人口集中の影響が全国平均より色濃く出ている。後述するように高齢者の中でも比較的年老いた人の経済への関わり方は、比較的若い高齢者とは大きく異なる。今後、団塊世代が後期高齢者になったとき、地方においてその影響を大きく受けることが予想される。

より若い年齢層に目を移そう。

ピークとなる70代半ばの年齢から若い方向にさかのぼっていくと人口はほぼ単調に減少していく。

こうしたなかで、10代半ばから30代半ばの人口はほぼ一定の水準で維持されているというのも一つの特徴として見受けられる。18歳は、高卒人材が労働力として労働市場に参入する年齢層にあたり、多くの企業がその動態に注目している。酒田市の18歳人口は2023年時点において758人。団塊ジュニアの子ども世代が10代半ばから20代の年齢に当たっていることもあり、若い年齢層の人口の山は15歳の815人にあり、近年は若年人口の減少はやや踊り場となっている。

酒田市は多くの地方都市の例にもれず、大学進学時や就職時における若者の首都圏などへの転出に頭を悩ませている。人口統計からも19歳人口(718人)は18歳人口(758人)よりも少ない。また、23歳人口(610人)も22歳人口(728人)よりも少なくなっている。その結果として、全国平均と比べて20代から30代半ばまでの年齢層がへこんでいる様子が見て取れる。

さらに年齢を若くしていくと人口はまた減少していく。15歳から0歳まで人口はほぼ単調に減少し、0歳児の人口は404人まで減る。高卒や新卒のマーケット規模はその地域の労働市場の将来を占ううえで非常に重要である。いまは酒田市に800人弱いる高卒人材を大学や企業が獲得すべく競争を繰り広げているが、20年後にはその母集団は400人を割る水準にまで減っていくのである。

多くの人が意外と知らない、ここへきて日本経済に起きていた「大変化」の正体