どこにも売っていなかった…爆発的人気商品「ヤクルト1000」、その「凄まじい売上本数」

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2024年9月17日、「2024年ネタマッチ合同ヒット商品発表会」が開催されました。ここでは食品や日用品メーカーなど11社が一堂に会し、大ヒット商品やロングセラー商品の裏側を発表しています。その中から注目の企業や商品を取り上げて、開発秘話やヒットの理由を紹介していきます。まずは大ヒットをした「ヤクルト1000」をピックアップしていきます。

2021年に大ヒットをした「ヤクルト1000」。その前から「ヤクルト400」は存在

「ヤクルト1000」が売っていない…‥。その現象は記憶に新しいと思います。「ヤクルト1000」は本当に爆発的なヒットをした商品と言えますが、「ヤクルト1000」とはヤクルト史上最高密度という1本(100ml)あたり1000億個の乳酸菌シロタ株を含み、腸内環境の改善だけではなく、一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレス緩和、睡眠の質(眠りの深さ、すっきりとした目覚め)を高める機能がある機能性表示食品です。

2019年に地域限定販売をした後、2021年4月に全国発売、その後2021年10月には直販のみで扱う「Y1000」が発売されています。「ヤクルト1000」「Y1000」は機能的には同じですが、パッケージに違いがあります。「ヤクルト1000」はスーパーやコンビニなどでの販売になるので、目立つように背が高くなっています。

「ヤクルトといえばヤクルト1000」というイメージが強いかもしれませんが、実は1999年1月に「ヤクルト400」が、2008年9月に「ヤクルト400LT」が発売になっています。当時ヤクルトの乳製品の販売は堅調だったのですが、一方では課題も。

新しい製品を作る必要に迫られる

ヤクルトの乳製品に対ししては、昔飲んだ懐かしい飲み物、子ども向けの甘い飲み物という印象が強い人も多いかもしれません。まさにこの問題が「ヤクルト400」にはありました。購入の目的が子どもに飲ませるためなど、ビジネスパーソンの購入を推し進めることができない状態が続き、「ヤクルト400」は商品としての成熟期を迎えていたのです。

そこで考えたのが、「ヤクルト400」の中に含まれる「乳酸菌 シロタ株」の数を増やし、濃度を高めること。それによってビジネスパーソンにも届くような、新しい機能を加えようとしたのです。

新商品を開発しようという掛け声はあっても、実際にはそう簡単にできることではありません。「乳酸菌 シロタ株」を1000億個入れた場合、製造直後は生きた状態が続いても、賞味期限までそれを維持するのが困難です。また菌数を多くすると、作られる乳酸の量が増えるので、どうしても酸味が出てしまいます。そうすると、ヤクルト本来の風味への影響が大きくなってしまうのです。

そのためヤクルトでは、使用原料、製造条件、製造工程の見直し、そして技術革新によって新規培養方法を生み出すことに成功しました。これによってヤクルト本来の美味しい味を維持しながら、1本あたり1000億個という高菌数・高密度のドリンクの開発に成功したというわけです。

ターゲットと機能の検討

今でこそ「ヤクルト1000」はストレスの緩和と睡眠の質の向上という2つの機能を大きく打ち出していますが、開発した当初はどの機能を強く出すのかは検討材料になっていたそう。さらにターゲットを絞り込むため若手中心のワーキンググループを発足して、研究を進めていきました。

機能に関しては、まずはストレスに着目しました。脳と腸はお互いに密接に関係していて、影響を与える脳腸関係があることがわかっています。ストレスがかかると腸の働きが悪くなって、例えば腹痛や下痢、便秘などを引き起こすことも知られていることでしょう。そこでヤクルトでは、基礎研究によって「乳酸菌 シロタ株」が神経系の活動に影響することを突き止めました。でも、神経系に作用するには、菌数が多く、密度が高いことが条件であることもわかったのです。

また厚生労働省の「平成27年度国民健康・栄養調査」では、睡眠への不満についてもわかっています。20〜50代のビジネスパーソンに、睡眠全体の質に満足できない人が多いと判明しました。その結果、「ヤクルト1000」のメインターゲットはビジネスパーソン、機能性は「ストレスと睡眠へのアプローチ」に定まりました。

医学部生を対象として飲用試験へ

求める機能性が定まったとしても、実際にその効能があるのかどうかが問題です。それを調べるため、ヤクルトは学術試験を控えた医学部生を対象とした飲用試験を実施しました。なぜ医学部生なのか? というと、学術試験を控えている医学部生が非常にストレスを抱えていることがわかったからです。学術試験に合格しないと医師免許は取得できませんから、プレッシャーも大きいのでしょう。

飲用試験では「乳酸菌 シロタ株」を1000億個含む飲料の継続飲用が行われました。結果「一時的な精神的ストレスがかかる状況におけるストレスの体感、ストレスホルモンの上昇を軽減すること」「睡眠の質・体感を維持・向上すること」が証明されたのです。

パッケージで訴えること・4つのステップによる販売

商品の機能性は素晴らしいのですが、消費者に伝えるにはパッケージが重要になってきます。小さなスペースで何を訴えるのかを考えた時、「ストレスをやわらげること」「睡眠の質を上げる」ことは欠かせません。もちろんヤクルトが誇る「乳酸菌 シロタ株」がヤクルト史上最高密度で含まれていることを示すことで、腸内環境の改善も訴えることが可能となるでしょう。

「ヤクルト1000」は2019年に発売されていますが、「ヤクルト400」の発売から始まり、高菌数・高密度の検討から起算すると、約20年の時間がかかったことになります。

ただ商品が発売されても「ヤクルト1000」の良さをうまく伝えないと購入には至りません。ヤクルトは新たな価値の提供をしつつ新しい市場を作る必要がありました。そこでステップ1として地域限定で販売をしています。ターゲット層が多い関東1都6県での販売をスタート。ネットやテレビ、広告なとの空中戦、バナー広告などのデジタル戦、ヤクルトレディによる活動などの地上戦を実施。ターゲット層との接点を増やしたところで、販売エリアの拡大をしました。これがステップ2です。ステップ3はマーケットに適した商品の導入です。「ヤクルト1000」は宅配用の商品だったので、スーパーやコンビニなどの店頭販売用として背の高い容器の「Y1000」を導入しました。これによって宅配と店頭の両方で買えるようになり、ステップ4である1000シリーズのブランド構築が進んでいったのです。

「ヤクルト1000」のブランドの知名度が上がり、他の商品にも波及していくことになります。これがヤクルトブランド全体としての戦略です。

1000シリーズ、一体何本売れた?

「ヤクルト1000」「Y1000」は、2022年の新語・流行語大賞のトップ10入りをしたり、2022年ヒット商品番付で西の大関になったりと、目覚ましいヒットを遂げました。一時は品切れになって買えない状況が続いていましたが、今は供給も安定しています。

気になるのは、これまで何本売れたの?

ということ。2019年10月〜2024年6月までの「ヤクルト1000」「Y1000」の販売本数は、なんと30億本。特にここ数年での売り上げが貢献しているのでしょうが、多くの人が知るドリンクになったといえそうです。

ヤクルトの1000シリーズの大ヒットの裏には、このような企業努力や戦略がありました。今も売れ続ける1000シリーズですが、次のヒットにも期待したいところです。

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