久保建英を止められないのはなぜか アトレティコの「鉄壁の守備陣形」にも深刻ダメージ
10月6日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、本拠地レアレ・アレーナにアトレティコ・マドリードを迎えて、1−1と引き分けている。ホームでの勝ち点1は、相手が強豪でも大喜びする結果ではないが、ルカ・スチッチの左足の同点弾は熱狂に値した。それも攻め続けた結果で、試合内容が好転していること自体が、喜ばしいと言えるだろう。
この日も、ラ・レアルを牽引したのは久保建英だった。
「アトレティコの選手たちは、久保に苦しむことになった。ありあまるフェイントの数々でバックラインは混乱に陥り、ゴールへの道筋を作られていた」
スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、そう記事のなかで紹介し、久保にスチッチと同じチーム最高のふたつ星をつけていた。
進撃する久保こそが、ラ・レアルの希望である。
アトレティコ・マドリード戦でレアル・ソシエダの攻撃を牽引した久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
<止められない>
アトレティコ陣営に戦慄が走るようだった。
ディエゴ・シメオネ監督は、昨シーズンまでラ・レアルにレンタル移籍していたハビ・ガランを"久保番"に据えることで、解決策を探ったのか。さらに左センターバックのクレマン・ラングレにフォローさせ、コナー・ギャラガーにカットインするコースを封鎖させ、アントワーヌ・グリーズマン、もしくはフリアン・アルバレスのいずれかがプレスバックする万全の形だった。
久保は、そんな念入りの守備陣形に探りを入れながら、タイミングを待っていた。相手が早い時間帯の先制点で守りを固めてきたのもあっただろう。そこで無理に攻め入っても消耗するだけで、駆け引きが必要だった。
30分すぎ、久保はカットインを試みるが、湧き出た軍勢に包囲されるように撤退する。その後は右サイドから縦に切り込み、1本クロスを上げる。再びカットインするが、やはりそこは対応される。ただ、チーム全体の攻撃のペースが上がり、アトレティコの守備全体にわずかな乱れを生み出していた。ジャブのような探りだった。
39分、久保は右サイドをひとりで持ち込むと、この瞬間、相手はホセ・ヒメネスひとりで対応せざるを得ない。進撃するドリブラーは、覇気を漲らせる。2度の鋭い切り返しで、完全に置き去りにした。最後のクロスは、もうひと山越えていたら絶好機だった。
【完全に止めたディフェンダーはひとりもいない】2分後にも、久保は決定機を作る。今度はガランをかわし、ギャラガーを外し、ニアにシュート。名手ヤン・オブラクにセービングされたが、これも際どい一撃だった。
後半に入ると、久保はたて続けにラングレにファウルを受ける。その突破は、守備システムに深刻なダメージを与えていた。イエローカードが出されないのが不思議なほどだった。
開幕以来、崩しのところで久保を完全に止めたディフェンダーは、ひとりもいない。
昨年10月、ラ・レアル史上最高のサイドバックと言われるロペス・レカルテに「あなただったら、どう久保を止めるか?」と訊ねたことがあった。
「あれだけのタレントを止めるのは、正直、相当に苦労するだろう」
レカルテはそう言って、考え込んでしまった。
「ボールを持たれてしまったら、そこでアドバンテージを取られてしまう。だから、一発目のプレーから勢いづかせてはいけない。かなりハードにコンタクトすべきだが、そこで駆け引きがあって。タケ(久保)も十分に予測し、罠を張っている。イエローをもらった時点で"詰んで"しまうんだ。(かつて対戦した)メッシもそうだったが、タケは左利きで左足がすごいけど、右足でも繊細なキックやコントロールができる。両足で蹴れるし、オプションが多いから、対応は大変だよ」
レカルテはそう言って、肩をすくめた。それは今シーズン、多くの対戦相手たちの感想を代弁しているのだろう。
「ラ・レアルの攻撃陣のなかで、最もインスピレーションを感じさせる選手だった。アトレティコは、ファウルで対応するほかなかった」
スペイン大手スポーツ紙『アス』も、久保の仕掛けがチームに与える効果を称賛していた。終盤の同点弾はスチッチの高い技量によるものだが、その展開を生み出したのは久保とも言える。
アディショナルタイムに入ってのロングカウンターで、久保はカットインからの惜しい左足シュートがあった。決して簡単なシーンではないが、これを決められたら、異次元の選手になるだろう。特筆すべきは、終了直前に再び久保がゴールに迫ったシーンか。右サイドを抜いて、ブライス・メンデスにほぼ完璧なクロスを合わせた。ゴールにならなかったが、その執念こそ、世界トップの選手になる"匂い"かもしれない。
レカルテはこうも言っていた。
「タケがさらに世界的な選手になるには、才能や実力だけでなく、いろんな要素が大事になる。一流選手はそこでの運を持っているし、つかみ取れる」
代表戦ウィークでラ・レアルでの活動は小休止。久保は日本代表としてW杯アジア3次予選を戦う。