立浪監督からマンツーマンで指導を受ける 根尾昴

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 中日の立浪和義監督は9月18日、対阪神戦の試合後に「3年目で自分自身、結果を出さないといけない年だった。けじめをつけます」と退任を表明。翌19日にはコーチ、選手、スタッフにも退任の報告を行った。立浪監督は2021年11月に就任要請を受諾。だが22年と23年のシーズンは最下位に沈み、今季も9月24日現在、5位と低迷している。

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 一部のスポーツ紙は新監督の予想を行っているが、早くもXでは《中日新監督は根尾を1軍戦力に育て上げて欲しい》、《中日の新監督は根尾をどうするだろう》、《来年新監督になったら根尾くんを野手でもう一度使って欲しい》──といったように、根尾昂の今後にも関心が集まっている。

立浪監督からマンツーマンで指導を受ける 根尾昴

 根尾は2018年10月のドラフト会議で日本ハム、巨人、ヤクルト、そして中日から1位指名され、抽選の結果、中日が交渉権を獲得した。11月4日に仮契約を結び、会見で根尾は「ポジションはショート一本でいかせて下さいとお伝えしました」とアピールした。

 だが19年のシーズンはケガで泣かされ、秋季キャンプでは外野の守備練習を命じられた。そして22年3月には外野手への登録変更が発表されたものの、立浪監督はなぜか4月にショートへの再コンバートを指示した。

 ところが、二転三転はさらに続く。5月にウェスタン・リーグでは投手として出場すると、一軍に上がって6番手投手として初登板。その後、根尾と立浪監督が話し合った結果、「今季は打者と投手の二刀流、来季は投手に専念」することが決まった。23年には9月18日と30日に先発登板し、なかなかの好投を見せたが、どちらの試合でも初勝利を飾ることはできなかった。結果、0勝0敗、防御率0・71というシーズンに終わった。

立浪監督の責任

 今季は現時点で3試合に登板し、0勝1敗で防御率は9・39。特に先発登板した8月4日の対広島戦では3回6失点の完敗となった。一部の野球解説者は「投手・根尾の未来を考えると、現状のままでは厳しいと言わざるを得ない」と将来を危ぶんだ。

 その一方で、9月16日にはウェスタン・リーグの対広島戦に先発登板。7回108球を投げて、4安打10奪三振1失点の好投を見せて注目を集めた。

 根尾がプロ野球選手として伸び悩んでいるのはショート、外野手、投手とポジションを“たらい回し”にされたことが原因だと考えている野球ファンは多い。そして、その責任の一端は立浪監督にあるという指摘も根強い。

 立浪監督と言えば、通算2480本安打で名球会に入会。ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞5回、歴代最高記録である通算487本の二塁打など、数々の記録を打ち立ててきた「ミスター・ドラゴンズ」である。

 これほどの名選手が監督に就任したのだから、誰もが期待して当然だろう。立浪監督は中日を低迷させると予想できた関係者やファンは皆無だったはずだ。改めて立浪監督の功罪と根尾の未来について、野球解説者の広澤克実氏に取材を依頼した。

名選手のおごり

「まずは立浪監督の功績から振り返りましょう。立浪監督が就任すると、バンテリンドームはドラゴンズファンで埋め尽くされました。もちろん監督だけの力で観客動員を伸ばせるはずもなく、営業担当など様々な部署の尽力があったからだとは思います。しかし4回もリーグ優勝を果たしながら、観客減少が問題視された落合博満さんの例もあります。観客数のデータが示している事実は無視できません。観客を増やしたという立浪監督の功績はしっかり評価されるべきだと思います」(広澤氏)

 中京財界は立浪監督を応援し、チケットを大量購入していたという報道もあった。野球専門のネットメディア「Full-Count」は次のように伝えている(註1:2)。

《本拠地の観客動員は増加傾向で、試合の冠スポンサーも近年にない盛況ぶりだった。「立浪監督のおかげ」と口にする球団スタッフは1人や2人ではない》

 一方で、チーム成績が低迷を重ねたのは前に見た通りだ。広澤氏は「立浪監督には“名選手”としてのおごりがあったのではないでしょうか」と指摘する。

「『名選手、名監督ならず』という言葉があります。名選手は自分が上手になる方法は熟知しています。そのため監督になっても、自分と同じように選手を上達させられると考えがちです。しかし、そこに落とし穴があります。自分が上達する方法と、他人を上達させる方法は全く違うからです。立浪監督は『自分なら選手を上手にさせられる』という過信があったと思います」

スタッフを大切にする理由

 広澤氏は野村克也氏、長嶋茂雄氏、星野仙一氏という“名将”の下でプレーした経験を持つ。そして“名将”の共通点として、「選手だけでなく、コーチやスタッフも育てる」ことを挙げる。

「阪神の岡田彰布監督も素晴らしい名将です。しかし阪神が強い理由の一つとして、スカウト陣を筆頭に編成部門が素晴らしい働きを示していることが挙げられます。これは野村さんや星野さんが種をまき、丁寧に育て、その成果が今に受け継がれているのです。一方の立浪監督は『自分は名選手だから何でもできる』という考えが抜けず、過度のトップダウン型のリーダーだったのではないでしょうか。ピッチングコーチとバッティングコーチを筆頭に、チームを支えるスタッフへの配慮に欠けたことが、成績低迷を招いた原因の一つだと思います」

 一方で、監督の交代が選手の転機になることも多い。Xで根尾に関する投稿が増えている理由だろう。広澤氏も似た経験を持っている。1986年10月、ヤクルトは2年連続の最下位となり、監督だった土橋正幸氏は辞任。関根潤三氏が監督に就任した。

「新監督は就任すると、必ず選手の前で『自分はこういう野球をやりたい』と説明します。前の監督を嫌っていた選手は新監督を無条件で歓迎しますし、レギュラー不動の選手は何も動揺しません。一方、熾烈なレギュラー争いを繰り広げている若手は新監督の野球観に合致しそうだと喜び、合わなさそうだと落胆します。私の場合、関根監督が『池山隆寛と広澤克実は鍛える』とチームメイトの前で名指しされ、後で呼ばれて『シーズンでは1日も休むな。全試合に出ろ』と指示されました。期待されていると嬉しく思った反面、これは厳しそうだと頭を抱えたのも事実です」(同・広澤氏)

話し合いの必要

 根尾の場合も同じだ。新監督の掲げる野球観に根尾がうまくフィットするかどうかが焦点になる。

「率直に言って、根尾くんは中日の首脳陣に振り回された面があると思っています。そのため監督交代は、心機一転するいいチャンスです。もし新監督が根尾くんの将来を真面目に考えているのであれば、1対1でじっくりと話し合いを持つ機会を作るのではないでしょうか。根尾くんには優等生すぎるところがあり、チームの求めに応じて様々なポジションを対応しようと努力を重ねてきました。しかしプロ野球選手にとって最も大切なことは『こういう選手になりたい』という強い思いです。根尾くんがどんな選手になりたいのかじっくり耳を傾け、一緒にゼロから考えていけるような監督であれば、根尾くんにとっては理想的だと思います」(同・広澤氏)

註1:〈立浪監督退任〉中日は観客動員好調も「立浪効果」ではない? 細川、涌井、外部補強成功も「勝てる監督」を望む声(AERAdot:9月19日)

註2:“SNSの標的”渦巻いた物議、限界超えた退任要求…立浪監督が果たせなかった「2つの約束」(Full-Count:同)

デイリー新潮編集部