やっぱり麻生が鍵を握っていた…勢い強まる高市、一気に劣勢の進次郎「態度未定票はどこに行くのか」総裁選の明暗分かれたワケ

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 9月27日投開票の自民党総裁選まで1週間を切った。主要メディアの調査によれば、依然として石破茂元幹事長が優勢に立つものの、高い知名度を誇る小泉進次郎元環境相は「選択的夫婦別姓」の導入や解雇規制見直しをめぐる発言が不評で失速。一方で保守層のハートをつかむ高市早苗経済安全保障相が猛追している。経済アナリストの佐藤健太氏は「小泉氏は“自滅”での失速が悔やまれるところだろう。決選投票は『石破VS高市』になる可能性が高まっている」と見るーー。

主要メディアの調査で高市氏が追い上げている

「前回もそうだったけど、今回は思っていた以上だ」。自民党閣僚経験者の1人は主要メディアの調査で高市氏が追い上げているデータに接し、驚きを隠せない。高市氏は2021年9月の前回総裁選で、2008年の小池百合子元防衛相(現在は東京都知事)の出馬以来13年ぶりの女性候補者となった。

 当初は“泡沫候補”と見られたが、最大派閥を牽引する安倍晋三元首相の全面支援を受けて激しく追い上げ、国会議員票だけで114票を獲得。党員票を合わせて計188票を獲得し、その底力を党内外に見せつけた。議員票は岸田文雄首相の146票に次ぐ多さだ。 

 だが、2022年7月に安倍氏は選挙演説中に銃撃され死去。安倍氏からも、最大派閥からも支援を失う中で高市氏は今回の総裁選に挑んだ。普通に考えれば国会議員票の多くは望めず、党員票でも各種調査で人気が高い石破氏や小泉氏に勝てる見込みはない“無謀な挑戦”となるはずだ。

読売新聞でも石破VS高市の闘いに

 しかし、9月16日付の読売新聞によれば党員・党友と国会議員の支持動向を調べたところ、高市氏は石破氏と並び123票とトップ。世論調査で支持を集める小泉氏(105票)に18票差をつけた。党員・党友の投票先は石破氏が26%、高市氏は25%、小泉氏は16%で、この結果をもとに試算すると石破氏は97票、高市氏は94票、小泉氏は60票になるという。

 これは衝撃的な結果と言える。なぜならば、先に触れたように高市氏は党員票に弱点があると見られてきたからだ。前回総裁選でも党員票に限れば、知名度が高い河野太郎デジタル相がトップの169票を獲得。岸田氏は2位の110票で、高市氏は74票にとどまっていた。党員票でも高市氏が急伸したとなれば、上位2人による決選投票に残る可能性は高まることを意味する。

後半戦に向けて勢いが強まっている高市

 日経新聞とテレビ東京が9月13~15日実施した調査でも、自民党支持層に限定すれば石破氏(25%)に次いで高市氏(22%)が高い支持を獲得した。しかも8月の調査時から7ポイントも上昇しており、後半戦に向けて勢いが強まっているのは間違いないようだ。

 高市氏が激しく追い上げている背景には何があるのか。全国紙政治部記者は「安倍氏なき今、高市氏は『保守派の代表格』として自民党支持層のハートをつかんでいる。元々、政策通で論戦も強く、演説会や討論会になれば力を発揮すると見られてきた。中国の日本人学校に通う男子児童が刺殺される事件が起きたが、他候補の上川陽子外相や林芳正官房長官ら現職閣僚が中国政府との関係も考慮しながら“遺憾砲”で対応しているのに対し、高市氏は『(中国当局には)説明してもらわなければ日本人学校の安全も守れない!』などと毅然とした姿勢を見せていることも好感されている」と解説する。

優勢から一気に劣勢に回った進次郎

 一方、優勢から一気に劣勢に回ったと見られているのが小泉氏だ。日本テレビが9月13~15日に実施した世論調査によれば、自民党支持層で小泉氏はトップの24%を獲得した。2位は石破氏(23%)、3位は高市氏(18%)だ。だが、日テレが党員・党友を対象にした別の調査(9月12日)では1位が石破氏の25%となり、2位は高市氏(22%)。小泉氏は3位の19%にとどまる。

 依然として上位3人には残っているものの、決選投票に臨むことができるのは2人だけだ。民放テレビ局の自民党担当記者は「昔からの自民党員は『高齢』『男性』『保守』が多く、小泉氏は“岩盤支持層”に何らメッセージを届けられていない。さらに『選択的夫婦別姓の導入』や『解雇規制見直し』をめぐる発言のトーンダウンは不評で、討論会に出れば出るほど支持が離れていっているように感じる。このままでは3着で終わる可能性があるでしょう」と見る。

 今回の総裁選は、国会議員票が368票、党員・党友票が368票の計736票で競う。1回目の投票で過半数を獲得する候補がいなければ、上位2人による決選投票が行われる仕組みだ。各種調査の傾向を見る限り、小泉氏には厳しい状況になってきたように思える。だが、決してチャンスが残されていないわけではないと言える。

トップを走る石破氏や高市氏との差が20票程度にすぎない

 その理由は、読売新聞の調査を見る限り、トップを走る石破氏や高市氏との差が20票程度にすぎない点だ。メディアによる取材にまだ「態度未定」としている議員も少なからず存在する。国会議員票だけに限定すれば、小泉氏は現時点で最も多く獲得すると見られており、こうした態度未定の「ステルス票」も加えることに成功すれば、20票くらいは挽回できる可能性があるだろう。

 加えて、高市氏が党員向けに大量に郵送した政策リーフレットの問題も小泉氏には追い風になるとの見方がある。自民党の選挙管理委員会は9月11日に口頭注意しているが、他陣営は「高市氏の党員票が上がるのはリーフレットを郵送したからだ」などと反発。そのゴタゴタから高市氏は議員票の上積みが難しくなっているとの見方も出ている。

 前回総裁選は議員票が2位だった高市氏は今回、党員・党友票でトップ争いを繰り広げるものの、今度は議員票が伸び悩むとみられている。現時点で1回目の投票では、5度目のチャレンジで安定した選挙戦を展開する石破氏が1位になる可能性は高い。決選投票に進む2位は、高市氏がこれまでの勢いを最後まで維持できるか否かによるだろう。

 石破氏と高市氏による決選投票となれば、一体どうなるのか。ある全国紙政治部記者は「高市氏は保守系議員に人気があるが、あまり広がりがない」と決選投票で伸び悩む可能性を指摘する。その上で「石破氏も議員の中で好かれているわけではない。2人の中から『どちらかを選べ』と言われたら、次の総選挙で勝てそうな新総裁を選ぶことになるのではないか」と見る。

 気になるのは、自民党唯一の派閥となった「麻生派」の動向だろう。同派に所属する河野太郎デジタル相が出馬しているが、かつての人気は衰え、議員票の広がりも見えない。河野陣営の票に加え、同派重鎮の甘利明元幹事長は小林鷹之前経済安保相の支援に回り、上川外相らを応援する議員もいる。麻生氏の「石破嫌い」は有名だが、決して高市氏と近いとは言えない議員が多いのも事実だ。

石破氏は「5度目の正直」で栄冠をつかむことができるのか

 それぞれの陣営から石破氏、高市氏にどれくらいの票が流れるかがカギとなる。派閥が解消されたとはいえ、動きが見えない旧安倍派や旧茂木派の参院議員にも注目すべきだろう。

 はたして、石破氏は「5度目の正直」で栄冠をつかむことができるのか。高市氏は女性初の宰相に就けるのか。それとも、失速した小泉氏が挽回して最年少首相になるのか。あまりにキャラクターが濃すぎる3人の次期首相候補には、余裕なき戦いを強いられている危機感がにじむ。