7回無死一、三塁、右翼へ先制適時打を放った坂本勇人をねぎらう阿部慎之助監督(カメラ・豊田 秀一)

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◆JERA セ・リーグ 阪神0―1巨人(23日・甲子園)

 身も心も極限状態だった。重圧のかかる首位決戦で勝利した阿部監督は、甲子園ベンチ裏の会見スペースに「ギックリ、腰が…」と顔をしかめて登場した。信じて代打起用した坂本が決勝打。「いや、もう、今日はもう全員で行こうと思っていたので」。声が震えていた。様々な感情が交錯したのだろう。普段は冷静に話す指揮官の極めて珍しい様子だった。

 テレビインタビューを終え、番記者の質問に入る前には「フーッ、フーッ」と2度、大きく息を吐いて心を落ち着かせた。この一戦がどれほど重要で、消耗の激しい激闘だったかを物語っていた。再び「ギックリ…」と腰を押さえ、ベルトを外して取材対応を再開。序盤はピンチの連続、6回まで0―0の展開に「いやあ、冷静な顔しつつ心臓出てくるんじゃないかなと思った」と本音を明かした。

 動いたのは7回。無死一、三塁で左腕・高橋の前に2三振の5番・大城卓に代打・坂本を告げた。「大城が全然、見えてなさそうだったので、ちょっと早めにと思って代えた」。前日22日、3打席続けて得点圏で凡退し、途中交代を命じた坂本を勝負所で指名。「困った時のベテラン」と信頼する経験値にかけた。期待に応える右前適時打に「いやあ、そりゃあね。昨日、悔しい思いをしてるので」と胸中を思いやり拍手した。

 前夜の2連戦初戦は0―1で敗れ、この日は勝てばマジックが2つ減って4、負ければゲーム差なしの運命の一戦。ミーティングでは選手に熱く呼びかけた。

 「こんなにもつれる時って俺も経験したことないから、みんな素晴らしい経験できていると思う。ひとつ勝つ難しさもそうだし、とにかく状況判断だったり、そこは怠らないで思い切ってやってくれと言った」

 グリフィンは中4日も考慮して5回で交代。試合前から救援陣に回またぎの可能性を伝え、執念の継投で逃げ切った。対阪神で0―1敗戦の次戦に1―0勝利で「1―0返し」は球団初。昨年は日本一の阪神に6勝18敗1分けと大惨敗し、開幕前から「五分でいければ」と掲げていたが、12勝12敗1分けで対戦を終え有言実行を果たした。

 3位以上、CS出場が確定も「そこを目標にやっていない」と2年連続4位からの頂点だけを見据える。「油断はせず、もう一回、引き締めてやりたい。マジックは出ているけど、そんなの関係なく、目先の1試合、勝つために全力で頑張りたい」。残り6試合。歓喜の瞬間まで手綱は緩めない。(片岡 優帆)