『エイリアン:ロムルス』©2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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 SFサバイバルスリラーの決定版にして代表格といえる、映画『エイリアン』シリーズ。その歴史のなかで『プロメテウス』(2012年)、『エイリアン:コヴェナント』(2017年)と、近年はとくに物語の起源を描こうとする作品が製作されていたが、このほど公開された『エイリアン:ロムルス』は、シリーズ中でも娯楽色の強い内容で、観客に恐怖を与えるという意味で、原点に立ち返る性質を持った一作となった。

参考:『エイリアン』シリーズの醍醐味は“衝撃”と“慄き” 新作『ロムルス』を機に過去作を振り返る

 世界中で多くの観客を動員し、日本でも週末映画ランキングで洋画No.1スタート切っている『エイリアン:ロムルス』。多くの観客が、このような娯楽スリラー大作としての『エイリアン』を待ち望んでいたということだろう。そんな本作『エイリアン:ロムルス』の、実際の内容は果たしてどうだったのか。ここでは、内容と製作事情の両面から、本作の立ち位置を検証していきたい。

 『エイリアン』シリーズは、リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロン、デヴィッド・フィンチャー、ジャン=ピエール・ジュネと、それぞれに強い個性を持つ実力派監督によって継承されてきた。こうして並べてみると、いずれも映画界に大きな影響を及ぼし、変革を促してきた才能だということが分かる。また、成立はしなかったものの、ニール・ブロムカンプ監督が続編を手がける企画もあった。

 今回のフェデ・アルバレス監督は、『ドント・ブリーズ』シリーズを成功させ、ヒットシリーズの続編を手がけてきた経験がある。これまでの監督たちと比べると、ポップで明快な作風という点ではキャメロン監督に近いともいえるが、作家性の面では、やや小粒に見えてしまうのも確かではある。そういう意味において、現時点でのアルバレス監督にとって、かなりプレッシャーのかかる企画であったはずだ。

 そういう状況下では、どのように立ち回れば、失敗を回避し、観客を魅了することができるだろうか。それはやはり、自身の持ち味を存分に発揮し、すでに観客に受け入れられている表現を利用するということになるだろう。そこで監督は、最も自信のあるだろうオリジナルシリーズ『ドント・ブリーズ』の構図を、『エイリアン』の世界観のなかで再現することにしたのではないか。

 『ドント・ブリーズ』の第1作(2016年)は、自動車産業が廃れてゴーストタウン化していく街に住む若者たちが、目の見えない退役軍人の家に忍び込んで盗みをしようとするが、逆に異常な人物の恐ろしい反撃に遭ってしまうという設定だった。本作『エイリアン:ロムルス』もまた、SF的な意匠が施されているものの、危険な生物の待つ宇宙ステーションに忍び込んでしまうという、同じような状況が描かれるのである。

 本作にはそれだけでなく、これまでの『エイリアン』シリーズの要素も、ふんだんにとり入れられた。ゴシックホラー的な雰囲気や派手なアクション、悪趣味な展開など、複数の監督の持ち味が反映されていたはずの作風が、バランスよく作中にちりばめられたのである。つまり、既存のシリーズの面白い部分、魅力的な部分をパッチワークしたということだ。これによって本作は『エイリアン』シリーズを総まとめするような、盛り沢山なものになったということだ。“一粒で何度も美味しい”のだから、満足度が高いのは当然だ。

 一方で、このような作り方をしたことで、本作自体のカラーはそれほど強くないものとなったのも確かだろう。それは例えば、デヴィッド・フィンチャー監督の3作目が、観客の評価が低かった反面、独自の美意識が突出した内容になったことと対照的だといえよう。そういう視点で見れば、本作は監督の作風で勝負することを避けた一作だとなったのではないか。その代わり、より広い観客に受け入られやすいバランスを獲得し、ヒットに繋がったのだともいえる。これは実質的に「21世紀フォックス」の『X-MEN』映画シリーズの振り返りとなった、『デッドプール&ウルヴァリン』のヒットに近いものがあるのではないか。

 そんなアルバレス監督が思い切ったのは、第4作のクリーチャーの誕生の表現に、人為的な遺伝子の混入によって、さらなる悪趣味な要素を加えているところだ。これもまた、『ドント・ブリーズ』の悪趣味な展開を変奏しながら、『エイリアン』世界と融合させたものだと考えられる。女性の身体を悪趣味な趣向に利用する表現自体の是非はともかくとして、こういった表現を駆使しながら、若者の不安定な時期の問題や、貧困層の搾取の問題に、後半以降もフォーカスしていく内容であったのならば、本作は総まとめとしての価値ではなく、これまでのシリーズと並ぶ一作として記憶されたように思えるのである。

 とはいえ、ここまで観客を楽しませる内容にし得たのは、監督の持ち味の一部だという指摘もできるかもしれない。名作ホラーシリーズ『死霊のはらわた』、『悪魔のいけにえ』を現代の観客にフィットさせる内容に噛み砕き、その特徴をうまく料理してきた手腕もまた、監督の作風であり長所だといえる部分もあるからだ。

 忘れてはならないのは、『エイリアン』を題材としたゲーム作品『ALIEN: ISOLATION』(2014年)からの影響である。じつはアルバレス監督は、もともとはこの作品をプレイすることで、現代に『エイリアン』の恐怖を蘇らせることができるのではないかと考えるようになったのだという。つまり、映画を基にしたゲームがきっかけとなり、その感覚が、また映画へと還流したということだ。

 ゲーム中には、これまでのプレイ情報を記録する「セーブポイント」の目印として「緊急電話」が登場する。「セーブ」が必要ということは、その後にプレイヤーを困らせるような戦闘が待っている可能性が高い。映画にもこの電話が登場することで、嫌な予感を喚起させていると監督は示唆している。登場人物たちがいくつもの山場を超えていくという本作の構成が、何となくゲームをプレイしているような印象があるのは、こういった試みにもあったのではないか。(※)

 こういった新しい感覚があってこそ、本作は新たな世代も含めた現代の観客に『エイリアン』シリーズの魅力を上手くまとめ上げて伝えることに成功したといえるのではないだろうか。そして、本作で一度原点に返って仕切り直しができたからこそ、また多様的な挑戦ができるという効果もあるだろう。その意味でフェデ・アルバレス監督は、過去と現在、未来をつなぐ大きな仕事を成し遂げたといえるのだ。

参照※ https://www.gamesradar.com/entertainment/sci-fi-movies/alien-romulus-alien-isolation-easter-egg-emergency-phone/

(文=小野寺系(k.onodera))