【谷頭 和希】オープンから半年、観光客から見放され…麻布台ヒルズの「インバウンド戦略」が失敗していた
2023年11月にオープンし、順次テナントを公開してきた麻布台ヒルズ。六本木ヒルズで知られる森ビルが35年の歳月をかけて完成させた「森ビルの集大成」でもある。今年の3月には大規模なフードマーケット「麻布台ヒルズ マーケット」もオープンし、その姿がほとんど見えてきたといってよい。
オープンから半年以上経過し、あらかたテナントも出揃ってきた今、麻布台ヒルズはどのような姿を見せているのか。簡単にまとめると、筆者は麻布台ヒルズの展望は必ずしも明るいものだとはいえないと感じている。
ここでは、実際に同地を訪れてわかった、「3つの懸念点」について説明したい。
その3つとは、
（1） 当初見込んだほどのインバウンド観光客が見られないこと
（2） 「コンパクトシティ」としての使い心地の悪さ
（3） にぎわいを作る空間設計の欠如
である。
インバウンド満載！かと思いきや…？
麻布台ヒルズは、明確にインバウンド需要を想定して作られた施設だ。中に入るテナントを見れば、一目瞭然。例えば、訪日ラボによる「インバウンド人気観光地」で1位を獲得した「チームラボ」の展示スペースもある。
また、集英社の人気コンテンツの展示を集めた「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」も併設していて、海外で人気の日本のコンテンツが楽しめる。
また、テナントとして入る飲食店も、「鮨 さいとう」をはじめ、国内外で大きな話題を呼ぶものばかり。ミシュランを獲得した店舗もいくつか入っていて、訪日外国人向けのラグジュアリーなレストランが軒を連ねる。
ホテルも豪華で、「Janu TOKYO（ジャヌ東京）」が入っている。「ジャヌ」はラグジュアリーホテル「アマン」の姉妹ブランドで、この店舗が世界初となる。いくつかの価格サイトで見てみると、最低1泊1室16万円から。最低がこれだから上はキリがなさそうだ。
また、姉妹ブランドである「アマン」もちゃんとある。しかし、こちらはホテルではなく、レジデンス、つまり「住居」だ。これは、アマンのブランド史上初めての試みだ。こちらは最低価格が20億円という恐ろしい値段で、最高価格だと300億円ぐらいするといわれている。
居住者は3500人を想定、戸数は約1400。観光客ではないにせよ、明らかに海外をはじめとする富裕層を見込んでいるといえる。
本当にそのテナントでいいんですか？
というわけで、さぞや麻布台ヒルズの中にはインバウンド観光客をはじめとする外国人が多かろうと思って中を訪れてみると……。
意外と、いないのだ。私が訪れたのは日曜日の午後であるが、大まかな人数比でいえば、8割が日本人といったところ。外国人観光客はあまり見ない。念の為、平日も訪れてみた。日本人が少ない分、休日よりは外国人が目立つが、それでも他の観光地と比べれば、多い印象はあまり受けない。
もちろん、まったくいないわけではない。チームラボの展示スペースにはしっかりいるし、「SHUEISHA MANGA-ART HERITAGE」ではワンピースの展示を見る外国籍の人も多い。しかし、六本木や銀座では、時間帯によって、ほとんど外国人しか見れないことを踏まえれば、相対的にインバウンド観光客の数は少ないといえそうだ。
FRIDAYの取材に対して住宅ジャーナリストの榊淳司氏は「あそこは交通の便が悪すぎるうえに、中の作りが複雑で迷いやすい。したがって、外国人観光客は、アクセスの良い銀座や六本木に集まるんです」と述べる。
こうした事情もあって、外国人観光客が来づらいのかもしれない。ちなみに私の友人で麻布台ヒルズに入居する会社で働いている人は、「みんなチームラボに吸い込まれていく」といっていた。チームラボぐらいしか、コンテンツとして吸引力があるものがないのかもしれない。
こうなってくると、実際にそこを訪れる人々と、テナントとの乖離が気になってくる。一般的な日本人がそこを訪れたとして、十分に店を楽しめるか疑問が生じるのだ。
Fridayの記事では、今年5月に現地を訪れたとき、「『ブルガリ』や『セリーヌ』といった高級ブランドが並ぶショッピングフロアに人影はまばらでガラガラ」で、「行列ができるほど混雑していたのが、『スターバックス』や『麻布台ヒルズギャラリーカフェ』が入る地下１階フロア」だったとレポートされている。
そして、お店はいろいろあるが、特に入りたいと思うお店がなく、なんとなくスタバに入ってしまった、という人の声を紹介する。
こうなると、せっかくやってきた日本人もリピーターにはなりづらいだろう。テナント構成をどのようにしていくのか、来場者の属性と合わせて考え直す必要が出てくるのだ。
後編『観光地として失敗している「麻布台ヒルズ」…住む場所としても残念な場所になっている理由』では、住居としての麻布台ヒルズを見ていく。観光客としてだけでなく、住民の視点に立ってみても弱みが見えてくる。
