ソラコムは17日、カンファレンスイベント「SORACOM Discovery」を開催し、IoTデバイスやコネクテッドカー向けの衛星通信対応通信サービスや、生成AIを活用したソリューションなど合計4つの取り組みを発表した。

衛星通信対応のIoT向けSIM「planNT1」

 同社は17日、IoTプラットフォーム向けのデータ通信サービス「SORACOM Air」で、Skyloの衛星通信サービスが利用できる通信プラン「planNT1」を、北米と欧州、オセアニア地域で提供を開始した。日本を含めたそのほかの地域には順次拡大する。

 同社では、これまでも国境をまたいで異なるキャリアでも1つのSIMで通信できるサービスを提供していたが、「planNT1」では、マルチキャリアと非地上系通信ネットワーク(NTN)も1つのSIMで利用できる。

 CEO of Japanの齋藤洋徳氏は、「通信できる国の数は着実に増えてきている」とする一方、海の上を航行する船や荒野、砂漠など人が住んでいない場所を走るトラックを追跡するなど、セルラー回線のエリア外におけるIoTを求める声があったとし、今回の取り組みで「あらゆる場所を繋ぐことができる」と自信を見せる。

CEO of Japanの齋藤洋徳氏

 「planNT1」の利用には、セルラー通信で用いられている3GPPリリース17準拠のモジュールであれば利用できる。すでに同社のカード型SIMやeSIMを利用していれば、無線通信で契約情報を追加できる「サブスクリプションコンテナ」機能により、SIMを利用したまま「planNT1」の契約情報を追加できる。

「planNT1」対応SIMカードと対応モジュール例

 なお、提供エリアについて、Skyloは既存の衛星を活用したネットワークを構築しており、物理的には届くエリアはある一方、法令やライセンスで対応していないエリアがあるため、現時点での提供エリアでの提供に留まっている。今後はSkyloに限らず、さまざまなNTNサービスの提供を目指すとしている。

よりシンプルな閉域接続VPG「Type-F2」

 「Type-F2」は、デバイスとクラウド/ユーザーのシステムの間を閉域網で安全に接続するVPG(Virtual Private Gateway)の新サービス。同社のネットワーク上にユーザー専用のネットワークゲートウェイを設置でき、AWSへの接続や、インターネットを介したVPN接続、専用線接続により、特定のネットワークとの閉域網接続を提供する。

 CEnO(Chief Engineering Officer)の片山暁雄氏によると、これまでのVPGサービスでは、AWSやユーザーのネットワークに専用の機器を設置したり、複雑な設定が必要だったりしたが、「Type-F2」では、機器の設置は不要で、特別な設定なく閉域網接続での常時双方向IP通信が利用できるという。

CEnOの片山暁雄氏

生成AIを使ってIoTアプリケーションをローコードで作成できる「SORACOM Flux」

 17日から提供を開始した「SORACOM Flux」は、生成AIを活用し、IoTアプリケーションをローコードで作成できるソリューション。複雑なプログラミング知識がなくても、同社のネットワークやIoTデバイスを活用したIoTアプリケーションが作成できる。

 SORACOMのアカウントを持つユーザーは、Freeプランを無料で利用できる。アプリ数やイベント数に制限のないProプランとEnterpriseプランは今秋提供される。

 対応する生成AIサービスは、OpenAI GPT-4o、Azure OpenAI、Amazon BedRock、Google Geminiなど。プラットフォームでは、これらのAIサービスの呼び出しや、カメラによる簡易物体検知、Slackやメール、LINEによる通知などのアクションを組み合わせることで、オリジナルのIoTサービスを作成できる。

 たとえば、工場内に設置したカメラで「ヘルメットをかぶっていない作業者が従事しているのをカメラで確認したら、パトランプを点灯させる/Slackで通知を送る」や「作業者の転倒を確認したら、電話で状況を知らせる」といったIoTアプリケーションを、生成AIへのプロンプト入力を中心にして開発できる。

「ヘルメットをかぶっていない作業者が従事しているのをカメラで確認したら、パトランプを点灯させる/Slackで通知を送る」の開発フロー

 Freeプランでは、合計3つのアプリまで作成でき、1日あたりのイベント数は300まで動かせる。また、利用できるモデルが限られているほか、200リクエストまでのものを作成できる。

 CTOの安川健太氏は、同社では生成AIの活用を進めている一方、デバイスの出入力やデータを繋いでアプリケーションを作るということに共通の課題があったと指摘。この課題を解消すべく、今回のプラットフォーム「SORACOM Flux」の提供に至ったという。

CTOの安川健太氏

生成AIで利用状況を分析したサポート「SORACOM Query Intelligence」

 「SORACOM Query Intelligence」は、SORACOMプラットフォームのサービス利用状況のデータについて、ユーザーが自然言語で質問すると、テキストや図表で回答を得られるサービス。

 たとえば、大量のデバイスを管理しているユーザーが「接続/切断の頻度が高いSIMを一覧表示」させたり「特定のキャリアに接続した履歴を地図上に表示」させたりすることで、トラブルの原因の特定やキャリアの組み合わせが必要なエリアの特定などを進めることができる。

「SORACOM Query Intelligence」の利用イメージ

 同社では、2023年7月からIoTデータの分析を支援する分析基盤「SORACOM Query」を提供しており、SIMの通信セッション履歴やデータ通信量、課金情報などSORACOMプラットフォームのデータをデータベースに読み込み、高度な管理や解析ができる。今回の「SORACOM Query Intelligence」は、これに最新の生成AI技術が統合されたかたち。

 17日の提供開始時点では、先端技術検証での利用を想定した「Technology Preview版」での提供となる。

国内外さまざまな企業で利用されているSORACOMプラットフォーム

代表取締役社長 CEOの玉川憲氏

 同社代表取締役社長 CEOの玉川憲氏は、「世界中のヒトとモノをつなげ、共鳴する社会へ」というビジョンを紹介し、IoTサービスを作る上での必要な技術をプラットフォームとして使いやすく提供しているとコメント。世界182カ国で、セルラー通信では417のキャリアをサポートしているという。

 また、3万のユーザー、600万回線の利用があり、日本国内での利用のほか、日本企業が海外で利用するケース、米国や欧州企業が現地で利用するケースなど、幅広い業界さまざまな企業に利用されているとアピールする。

 国内/海外問わずまとめて回線を調達できる点や、1つのSIMでマルチキャリア利用できる点などが評価されているといい、トラックのトラッキングや多くの蓄電池やEV自動車をまとめて1つの仮想発電所とするソリューション、欧州における給湯/空調管理ソリューションなどさまざまなサービスで取り入れられていると事例を紹介。なかには、米国のスクールバスにカメラを設置し、「乗降中のスクールバスを追い越してはいけない」などの法律違反を確認するソリューションにも活用されているという。

 今回の「SORACOM Discovery」では、IoTとAIがテーマに含まれている。玉川氏は「ここ1年でテクノロジーは、生成AIで大きく進化してきている。SORACOMプラットフォームでいろいろなものが簡単につながるようになって、データが集まるようになってきたが、生成AIによりリアルタイムのデータをリアルタイムで意思決定できるようになる」とし、生成AIへの期待感をコメントした。