<電動キックボード違反者講習の実態>「ほとんどがチャラい私服姿の若者、和彫りの刺青男も…」参加者は「名前でなく番号で呼ばれた」「運転免許証の違反者講習よりよどんだ雰囲気でした」

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昨年7月に改正道路交通法が施行され、電動キックボードが歩動・車道の別なく走行できるようになって1年が経過した。街にはシェアサービス型の電動キックボードがあふれるなど、都市生活には欠かせないツールとして定着している。しかしその一方で、利用者本人や歩行者、車のドライバーらがその交通ルールを熟知しているとは言えず、安全性が確立されたとは言い難いのもまた事実だろう。そうした混乱の中、違反を繰り返してしまった利用者と、タクシードライバーたちに現況と課題を語ってもらった。

〈画像〉危ない…昨年末に電動キックボードで女性と二人乗りで爆走していた歌舞伎町の金髪ホスト。そして記事内の寒川氏(仮名)が受けた講習修了証明書

複雑化したルールに対応できない利用者が続出

「もう2度と電動キックボードには乗りたくないです」

そうボヤくのは都内在住でランニングが趣味という広告営業マンの寒川さん(仮名・30代)だ。仕事が多忙な寒川さんは経費節約も考え電動キックボードを愛用していたが、昨年7月の法改正以降に2回違反で摘発され、違反者講習を受けた。

詳しくは図を参照していただきたいが、道交法改正前は原動機付自転車(出力によっては小型自動二輪車)扱いで走行できるのは車道のみ、制限速度は時速30キロに定められ、利用するには運転免許が必要だった。

それが改正後には電動キックボードを含む「特定小型原動機付自転車(電動モビリティ)」は免許不要で運転できるようになり、走行可能レーンも多様化するなど「乗り物」としての分類も変わった、というか複雑になった。

制限速度は時速20キロ以下に定められ、道路の第一車線の左端もしくは自転車道を走行できる。基本的には自転車扱いだが、交差点では必ず二段階右折が必要になる。

そして車両によっては時速6キロ設定(緑色の灯火が点滅)に切り替えられ、この場合は一部の歩道を走行できる。最近見かけるようになった、自転車と歩行者が通行可能なレーンを道路標識で明確に分けている幅の広い歩道のことだ。

要するに、時に歩行者や原付自転車と同じ扱いになるが、厳密には同じではない。また、16歳未満は改正後も運転できない。

複雑化したルールに対応できない利用者が続出し、警視庁は昨年11月に全国に先駆けて電動モビリティの交通違反者を対象にした講習会を開始、件の寒川さんもこの7月に講習を受けることになったのだ。

「1度目の違反は昨年の10月だったかな。山手通り(都内の幹線道路)を走行中、車道は車のスピードも速くて怖くなったので誰もいない歩道を走っちゃいました。そしたらすぐに『ウー』って白バイに停められました。

そのときはまだ、時速6キロモードに切り替えないと歩道を走れないことを知らなかったんです。自転車も走っているのに『えっそうなの?』って感じでした。

2回目の違反は今年の3月です。JR千駄ヶ谷駅付近を走っていたときに、急いでいたのでつい自転車くらいの感覚で赤信号を無視しちゃったんです。これもしっかり白バイに見つかって、反則金を払いました」 

違反者講習の実態

しかし、2回目は反則金だけでは済まなかった。

「3年間で2回違反すると、講習を受けない場合は罰金5万円も支払わないといけないんですよ。それもイヤなので講習会に参加することにしました。ただ、違反から呼び出しまで時間があって、違反者講習会は7月の上旬に警視庁本部でありました。ドラマでしか見たことない場所なので緊張しましたね。

午前8時40分ごろに到着し、受付で6000円を払うと大部屋に通されました。出入り口には警察官がいて、庁舎内を自由に移動できないようになっていて少し監視されている空気を感じました」

大部屋には60人ほどの受講者がいた。

「ほとんどが20代の若者で髪の毛も明るくチャラい私服姿で、スーツの人は1人もいないし、和彫りの刺青男がいたときはビビリました。女性は1人で、胸を大きく開けたノースリーブ姿でスッピンで、ダルそうにしていました。

講習は午前9時スタートで、受講者全員に通し番号が割り振られ、教官には名前ではなく番号で呼ばれました。交番に遺失物を届けたときに対応してくれた警察官とは違う、少し厳しい雰囲気だったので、改めて『バカなことしたな』と強く思いました」

講習の内容は、ヘルメット装着の重要性を説くビデオに続いて選択式の小テストがあり、答え合わせの解説の際も受講者は番号で呼ばれたという。

「何人かは『もっと大きな声でお願いします』と注意されていましたね。途中10分程度の休憩があったのですが、その間は誰も話をせずシーンとしていました。運転免許証の違反者講習より暗い、よどんだ雰囲気でした。

でも刺青のにいちゃんも含めて全員がちゃんと聞いていましたよ。教官から『終了予定は正午だが、皆が真面目にできたら早めに終わる』とか『居眠りをしていたら居残りさせる』と事前に言われていたのが効いたんじゃないですか。

終了後は10人ずつ警察官に連れられて庁外に出ましたが、本当に『やっと終わった』って感じでした。席が隣だった柄シャツの若者が『すいません、タバコ吸えるとこありますか?』と出口の警察官に聞いて『ありません』と素っ気なくされてて笑いました」

ルールは理解したものの、違反者講習の辛さが身に染みた寒川さんが電動キックボードに乗ることは、しばらくなさそうだ。

タクシー運転手たちの嘆き 

利用者が複雑な交通ルールに戸惑う一方で、乗客の安全に最大限配慮しなければならないタクシー運転手にとってもキックボードは新たな悩みのタネだ。乗降客数世界一のターミナル新宿駅のロータリーで客待ちしていたタクシードライバーのみなさんに、思いの丈を聞いてみた。

「昨年くらいから電動キックボードに乗っている人がどんどん増えてきているように感じます。正直、邪魔だなぁとか危ないなぁと思うことはしょっちゅうありますよ。

今後、電動キックボードがもっと普及していったらタクシーの売り上げ低下にも繋がりそうだし、タクシー運転手の立場からするとデメリットしかないですね」(50代男性)

「利用者は学生さんや20代前半くらいの若い人に多いです。あと、通勤時に使っているサラリーマンもよく見ますね。

安全に乗ってくれる分にはいいけど、急に飛び出してきてくる人やイヤフォンをつけながら走っていて車に全然気づかない人も多いから、交通ルールは守ってほしいです」(40代男性)

「午前2時頃になると終電を逃した酔っ払いがよく乗っていますね。特に新宿はそういう人が多いです。酔っ払って2人乗りをしている人もよくいます。

飲み会帰りっぽい大学生風がよくそういう馬鹿なことをしてるよ。この前なんか、酔っ払ってフラフラ運転している人にぶつかられそうになって、ヒヤッとしたよ!」(60代男性)

「最近は電動キックボードの利用者のマナーの悪さについて、タクシードライバー仲間でよく話題になります。逆走している人や道路標識を無視する人、車道の内側を堂々と走る人…。挙げ出したらきりがないくらいです。今後はより一層、取り締まりを強化してほしいです」(50代男性)

「狭い道で急に近づいて来られて、電動キックボードのハンドルを車体にぶつけられたことがあります。幸い、車に傷がつかなくてよかったです。住宅街や飲屋街の狭い道でもおかまいなくすごいスピードで爆速している人もよくいますね」(40代男性)

「このあいだ信号待ちしていたら、車の脇を縫うように通ってきてそのままぶつけられたよ。怒ろうとしても信号無視されてどこかに逃げられたし、ナンバー見ようにもナンバープレートが小さいから数字もよくわからなかった。本当に勘弁してほしい」(60代男性)

2人乗りや飲酒運転、安全を確保できない状態での走行はもちろん御法度だ。電動キックボードは乗り方によっては凶器にもなり得る。利便性の享受はルールを守ってこそという当たり前の常識を、いま一度思い起こすべきだろう。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班