もっとも、カードショップで生まれた友情は、その場だけの表面的な交流でとどまるケースが多い。したがって、センシティブな部分に言及することは不可能。どれだけ臭かったとしても、せっかくできた友達に対して注意する勇気もなければ、深い関係構築もできないままなのです」

 他にも、“コレクター”ならではの信念も来店動機になっているようだ。

「現在はネットで手軽にカードを買えますが、モニター越しだと退色やキズの有無などは正確にはわかりません。僕もそうですが『どれだけ臭くてもカードショップに行って、自分の目で状態を見極めたい』人が少なくないのでしょう」

◆ニオイに耐えかねてわざと負けたことがある

 ニオイ問題が溜まりに溜まっていたのだろう。石川さんの口から、カードショップ内でのスメハラ被害エピソードが止まらない。

「店内の対戦スペースで友達が来るのを待っていると、『ポケットモンスター』のゲーム内でいきなりトレーナーに対戦を申し込まれるかのごとく、『対戦しませんか?』と不意に話しかけられたんです。その唐突さにまず驚いたのですが、話しかけてきた人へ顔を向けると異様なニオイが鼻を刺し、一層ビビりました。

 突然の展開に機転も回らず、断る勇気もなくて、渋々対戦を了承しました。とはいえ、『この異臭に耐えながら長時間勝負するのはしんどい』と思い、複数あるデッキの中でも弱いデッキを選んで早々に負けることに。『対戦ありがとうございました』と言って、そそくさとその場を去りました」

 別に弱いデッキを選ばずとも適当にプレイしてわざと負ける」選択肢もあったように思うが、「それは相手に失礼ですので」とゲーマーの矜持をのぞかせた。

◆「カードゲーマーは臭い」と思われるのは悲しい

 はたして、カードショップのスメハラ問題の解決策はあるのだろうか。

 石川さんは「犯罪行為ではないですし、劇的な改善は難しいと思います」と前置きしつつ、「カードパラダイス池袋本店さんみたいに、カードショップ全体で啓蒙のポスターを張るといった、草の根運動を続けるしかないでしょう」と話す。

「その上で、実際に臭い人には店員さんから直接注意してもらえるようになればいいですね。僕も何度か店員さんにニオイを指摘される人を見かけたことがありますが、本当にショックそうな表情を浮かべ、とぼとぼと帰っていく人ばかりでしたから。ただ、比較的大人しい反応の人が多いものの、逆上してトラブルに発展したり、のちのちSNSで事実無根の誹謗中傷を投稿されたりするリスクも少なくないのでしょう。

 それでも、カードゲームを愛する者としては、『カードゲーマーは臭い』的なニュースが報じられ、その度に『カードゲーマー“全員が”臭い』というイメージが広まったり、面白おかしく馬鹿にされたりする現状は悲しい。だからこそ、カードショップ側には毅然とした対応を望んでいます。なにより、カードゲーマーの一人ひとりが自分のニオイ対策を、真剣に取り組んでいかなければいけません」

 食文化の違いや健康面によっても個人差が生じる“体臭”へ口出しすることは、それ自体が別のハラスメントである。しかし、怠慢によって発生する悪臭は“スメハラ”と糾弾されてもやむを得ない問題だ。

 どんどん蒸し暑くなっていく季節。カードショップのみならず、通勤電車の中でも生乾き臭をまとった人が増えてきた。誰もが自分ごととして、適切なデオドラントケアや洗濯についての知識をアップデートし、実践していく必要がある。

<取材・文/望月悠木>

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki