「100万円」のうな重を手に微笑む新日本科学・永田良一社長

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「100万円」のうな重

 5月13日に東京・上野の老舗うなぎ割烹「伊豆榮」で行われた試食会に登場したのは「100万円」のうな重。実はこのウナギ、将来庶民価格で食べられるウナギに化ける可能性があるという世界初の完全人工養殖ウナギなのだ。

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 通常の養殖ウナギは天然シラスウナギを採捕して育てたもの。近年、不漁が続き、今やうな重は専門店なら並でも3000円以上は払わなければ食べられないほど高騰している。国産となるとそれでもなかなか食べられないくらいだ。

 一方、ウナギの卵を採取・受精させ、シラスウナギを生産し、成魚まで育てるのが完全人工養殖。医薬品開発受託事業を手がける新日本科学がこれを実現した。2014年に研究を開始し、17年にわずか3尾だが、初めてシラスウナギの生産に成功。以降、徐々に数を増やし、23年には1000尾以上のウナギを生産した。これまで投資した金額は約10億円に上る。単純計算して1尾約100万円。

「100万円」のうな重を手に微笑む新日本科学・永田良一社長

国産ウナギが「1000円台」で食べられる可能性も

 お重を手にしてほほ笑むのは同社の永田良一社長(65)。

「1匹のウナギが産む卵は20万〜30万個。そのうちシラスウナギまで成長できるのは普通0.1%以下。しかし、ウチの研究所では約50%になります。ただ水槽の中では育てきれない数になるので、大半を鹿児島湾に放流しました。最近、鹿児島でシラスウナギが豊漁なのはそのせいかも(笑)。数年後には年間10万匹を生産できる見込みで、そうなれば、国産ウナギが1000円台で提供できるようになるかもしれません」

肝心のお味は?

 絶滅の危機ともいわれるウナギの食文化を守る切り札となりそうだが、肝心の味はどうか。この日、調理を担当した伊豆榮の料理長は「天然ものと比べて、皮が硬く、つかんだ瞬間はダメかと思った。串入れが難しかった。ところが素焼きしたら柔らかくなり、蒸したらまったく問題ない。しかも美おいしかった」と絶賛。試食した人たちは皆「ふっくらと柔らかく、脂も乗っていて天然ものと変わらない」と大満足していた。

撮影・本田武士

「週刊新潮」2024年5月23日号 掲載