痴漢被害の恐怖などについて語る女性=横浜市

 新社会人や電車通学に不慣れな学生が増える4月、神奈川県警では満員電車やホームでの痴漢被害への警戒を強化している。過去に電車内で痴漢被害に遭ったという女性は、周囲の助けが得られなかったとして「被害者が声を上げやすい世の中にしてほしい」と訴える。一方で、その後の警察とのやりとりでも事情聴取などに時間を取られ、精神的にも体力的にも疲弊したと振り返り、「次に痴漢被害に遭ったとしても、同じように被害を警察に申告できるかどうか分からない」と複雑な心境を明かした。

 横浜市在住の会社員の女性(33)は、午前0時を過ぎた週末の相鉄線車内で痴漢被害に遭った。ボックス席に座っていたところ、隣の男性に太ももを繰り返しさすられた。注意してもやめなかったため、手をつかんで車内から降ろした。

 「痴漢です、助けてください」。そう声を上げたが手助けしてくれる人はおらず、女性は「夜遅かったので駅員もいなくて人も少なくて。男性が暴れたらどうしようとか考えて、とにかく怖かった」と振り返る。

 その後、駆け付けた警察官とのやりとりも女性には大きな負担となった。当日に駅の事務室で約2時間話した後、移動先の署でも被害状況を約2時間かけて説明。さらに一週間後も調書を作成するために再び署に出向くことになり、「別の担当者にまた一から説明しなければならないことが精神的にも体力的にもきつかった。こういう話は聞いていたが、実際に体験してみて本当につらかった」と話す。

 痴漢抑止活動センターの松永弥生代表理事(58)は、女性が周囲の助けを得られなかったことに「とてもよくあること」とした上で、目撃者がいないと加害者が否認した場合などに事件が複雑化してしまうと指摘。「人ごとと思わず被害者に寄り添う社会にならなければいけない」と訴える。さらに、警察とのやりとりについては「事情聴取に時間がかかってしまうのは仕方ない面もあるが、被害者の気持ちを考えると『仕方ない』で片付けられることではない」と強調する。

 警察側も、被害者の負担が軽減されるよう可能な限り女性警察官が対応に当たるなど配慮を心がけているが、事情聴取の手間については理由を丁寧に説明して被害者の理解を求めていくしかないのが現状という。

 痴漢などの予防や取り締まりに取り組んでいる県警鉄道警察隊は、一般的な痴漢被害者の事情聴取について「一概には言えないが、通報を聞いて現場に駆け付ける警察官と、実際に捜査にあたる警察官は異なることが多い。専門の捜査員がより詳細に話を聞くために(結果として)被害者から何度も話を聞くことになってしまう」と話す。

 痴漢被害の抑止に向け、同隊では1月からホームページに「痴漢です、助けてください」「痴漢されていませんか? 通報しましょうか」と書かれた2種類のヘルプカードを掲載している。カードを使うことで被害者が助けを求めやすく、周囲は手助けしやすくなるのが狙いといい、同隊では「社会全体で痴漢は許さないという機運を高めたい」と活用を呼びかけている。