アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚踏み込まず

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Annie Banerji

[ニューデリー 16日 トムソン・ロイター財団] - 6月4日に開票が行われるインド下院総選挙で、2大政党はLGBTQ+(性的少数者)の人々の生活改善を公約に掲げている。しかし、活動家らは、同性婚という肝心の問題を避けた単なるリップサービスだとして失望している。

インドではLGBTQ+の権利が前進してはいるが、同性愛は依然としてタブーであり、多くの人々は差別を恐れて自らのアイデンティティーを隠して暮らす。最高裁は昨年、同性婚合法化の訴えを退け、平等の実現は大きく後退した。

政権の3期目入りを勝ち取る見通しのモディ首相の与党、インド人民党(BJP)は、同性婚に反対。その一方、マニフェストでは心と体の性が異なるトランスジェンダーの人々用のシェルター(避難施設)増設、国民IDカードの発行、公的医療保険へのアクセスなどを約束している。

野党の国民会議派は政策プランで、同性間のパートナーシップ制度「シビルユニオン」を認める法律を導入し、性的指向を巡る差別を禁止するための憲法改正を求めていくと宣言している。だが、同性婚は支持していない。

LGBTQ+の権利活動家らは、両党の公約は期待外れだと切り捨てる。BJPはゲイ、レズビアン、バイセクシュアルの人々を完全に無視し、国民会議派は「幅広い協議」を行った末、同性同士のシビルユニオンを認めるというあいまいな提案しかしていないという。

活動家の一人であるヌール・エナヤット氏は、トムソン・ロイター財団に「全てリップサービスに過ぎない。われわれは大規模な有権者層なのに、両党が出せるのはせいぜいこの程度か」と心境を明かした。

<差別と虐待>

インドのLGBTQ+人口の規模に関する公式データはないが、政府は同性愛者の数を250万人と推定している。権利活動家らは、本当の数字はもっと大きいと言う。

最高裁が、同性間の性行為を禁止する植民地時代の法律を違憲と判断してから6年。テレビでの描写からLGBTQ+の人々の政界進出、包摂的(インクルーシブ)な企業政策に至るまで、インドのLGBTQ+環境は大きな進歩を遂げた。

しかし、多くの人々はいまだに「カミングアウト」を恐れている。差別や虐待が横行し、仕事、医療、教育、住宅へのアクセスが妨げられるからだ。

活動家によると、トランスジェンダーの人々に対する差別はさらに深刻で、家族から敬遠され、警察の嫌がらせや恐喝に遭っている。

2014年の画期的な判決により、トランスジェンダーは「第三の性」として法的に認められ、就職や入学の資格を得られるようになったが、クォータ制(人数割り当て制)は確立されていない。

活動家は、根強い排除と貧困を考えれば、特に物乞いや性的な職業で生き延びることの多いトランスジェンダーの人々を保護し、包摂する政策の導入が火急を要すると訴える。

トランスジェンダー活動家のグレース・バヌさんは、同性愛やバイセクシャルの人々は教育雇用、家族との関係で優遇されていることが多いが「トランスのわれわれにも別途権利が必要だ。そうでなければ社会正義と平等には手が届かない」と語った。

世論調査では、モディ首相率いるBJPが選挙で圧勝する見通しだ。ゲイ活動家のアンキット・ブプタニさんは、LGBTQ+コミュニティーはBJPの心をつかむことに集中しなければならないと指摘。「BJPと対立するのではなく、もっと協力することが必要だ」との考えを示した。