韓国の伝統菓子「薬菓」。これはモナカのようなアレンジがされたもの

写真拡大

昔からある伝統的な食が、現代的に生まれ変わり、一躍トレンドに――こんなムーブメントが世界各国で起こっている。
“元ネタ”が古くても、一周まわって新鮮に感じるようになる。長所は保ちつつ、新しいコンセプトや価値を付けることで、往年のファンはもちろん、Z世代をはじめとした若い消費者にも愛される存在へと変貌するのだ。

この現象は「伝統モダナイズ(伝統のモダン化)」と呼ばれていて、さまざまな業界でみられるものだが、今回はその中でもスイーツでの例をいくつか紹介したい。

◆伝統菓子「薬菓」は、なぜ韓国で流行したのか

2023年、韓国で「薬菓(ヤックヮ)」というスイーツがヒットした。薬菓はもともと、蜂蜜や小麦粉、水、食用油、酒などを混ぜ合わせて花の形にし、油で揚げた韓国の菓子だ。やさしい甘さの中にシナモンの香りがほのかに漂い、原材料から何となくイメージできるように、食感はしっとりとしたドーナツのような感じである。

おやつや祝事の際の供え物として長年親しまれてきた伝統菓子である薬菓だが、昨今では洋風の焼き菓子と組み合わさった、新しいスタイルのスイーツに変身。洋菓子であるクッキーやフィナンシェの上に薬菓が乗ることで「映え系スイーツ」となり、2023年はSNSで一躍注目の的になった。

流行の初期には、小さな薬菓をトッピングしたクッキーやタルトが多かったが、夏頃からは薬菓の形を残さず、その風味を活かしたドーナツやドリンクも登場し、バリエーションは増加の一途をたどっている。

◆大手コンビニからブームに火が付く

この“現代版薬菓トレンド”の背景には、韓国で数年前から続く「ハルメニアルブーム(おばあさんが食べるようなものやファッションをミレニアル世代が好む現象)」の影響がある。おばあさんが好みそうな味として、これまではゴマやヨモギを用いたスイーツが流行してきたが、その流れで薬菓を現代的に生まれ変わらせたものが続々と登場している。

トレンドを加速させたのが、コンビニが発売したオリジナルの薬菓スイーツである。韓国の大手コンビニチェーン「CU」や「GS25」が人気カフェとのコラボなどによって商品化し、3,000ウォン(約330円)以下という手頃な価格設定もあり、学生でも購入しやすいことがヒットの要因となった。

また、原材料におから(豆腐などを作る際に発生する副産物)を使用することで、アップサイクルの観点からも優れた商品が登場。ドイツで開催された食の展示会「ANUGA(アヌーガ)」でも世界中から熱い視線が注がれた。

なお、現代風にアレンジされた薬菓スイーツの流行によって、本来の伝統的な本来の薬菓の人気も再燃していることを付け加えておく。

中国の「タンフル」は日本でも注目される存在に

次に、「タンフル」の事例も紹介したい。もともとタンフルは、旬のフルーツを飴でコーティングした「糖葫蘆(タンフールー)」という中国の伝統的なスイーツである。

これが韓国に持ち込まれた際、飴の部分をさらに薄くしてイチゴやみかん、シャインマスカットなどと一緒に提供するスタイルにアレンジされた。飴のパリパリとした食感と冷たい果物のジューシーさ、鮮やかで愛らしいヴィジュアルが支持され、たちまち注目が集まるように。

ポイントは、飴を薄くすることで聴覚に訴求したという点だ。見た目や味だけでなく、食べる時のパリパリとした咀嚼音まで楽しめると、YouTubeでASMR動画が多数アップされている。これがSNSで話題を呼び、特に小学生から20代の若者に絶大な人気が出た。

韓国で流行ったスイーツは、時間差で東京の新大久保などからブームに火が付く傾向がある。それもあってか、2023年には日本でも注目される存在だったのは記憶に新しいところだ。