10年目の「アボカドフェア」を開催中のフレッシュネスバーガー。写真は自由が丘店(筆者撮影)

フレッシュネスバーガー春恒例のアボカドフェアは、2024年で10年目を迎えたという。

傷みやすく、熟度管理が難しいアボカド

期間限定商品として長く続いているものでは、マクドナルドの「月見バーガー」が挙げられるだろう。1991年に誕生し、今では他のチェーンにも波及して月見戦線が繰り広げられるほど、人気の商品となっている。

目玉焼きは、言葉は悪いが平凡な具材。しかし調理法はシンプルなのに見た目がキャッチーで、さまざまな食材と合わせやすく幅広いアレンジが可能だ。価格の変動が少なく数が限られるということもないので、全国3000店に迫るマクドナルドの店舗網でも安定して供給できる。全国チェーンのためにあるような食材である。


フェア期間中はアボカドがたっぷり2分の1入った、5種類のバーガーが楽しめる。左奥から時計回りに、ソイアボカドバーガー、クラシックアボカドチーズバーガー、クラシックアボカドバーガー、クラシックアボカドクリームチーズバーガー、アボカドシュリンプバーガー(筆者撮影)

対してアボカドは、卵ほどメジャーな食材とは言えない。近年、日本で輸入が爆発的に伸びたが、外国の食材というイメージが強く、メニューの幅もそれほど広くない。また傷みやすい、食べ頃の見極め(熟度管理)が必要など、扱いの難しさも、飲食チェーンでメニューとして広がらない一因だろう。

しかしこのマイナス面こそ、アボカドにおいてフレッシュネスがリードできている理由でもあるのだ。

なお、卵とアボカドの値上がり状況について調べてみた。鶏卵の2023年の平均価格はキロあたり395円で、2020年の230円に比べ大きく値上がりしている。アボカドの2023年の平均価格はキロあたり465円。2020年は450円なので、15円値上がりしている。アボカドが安くなる時期は春ではなく、夏から秋、冬にかけてのようだ(上記データは東京中央卸売市場のホームページより)。

物価の優等生と言われた卵だからこそ、物価高騰の影響が大きかったようだ。マクドナルドの月見バーガーも、2021年に340円、2022年に360円、2023年は420円と値上げ。ちなみにフレッシュネスについては、2021年に650円、2022年に690円、2023年790円(すべてクラシックアボカドバーガー)と、割合大きな値上げ幅になっている。

コンセプトは「大人がくつろげるバーガーカフェ」

フレッシュネスバーガーは1992年、渋谷区富ヶ谷で第1号店をスタート。アメリカのロードサイドのハンバーガーショップをイメージし、「大人がくつろげるバーガーカフェ」をコンセプトに展開してきた。


フレッシュネスバーガーのスタートは1992年、富ヶ谷店から(写真:フレッシュネス)

運営会社のアメリカンクリエーションは1981年に創業しており、2016年に外食事業を分割してフレッシュネスを設立。同時期に「大戸屋」「牛角」なども傘下に収めるコロワイドグループに参入している。

現在、全国に154店を展開しており、うち、59店が直営店だ。


富ヶ谷店内観。アーリーアメリカン調のくつろげる内装を目指している(写真:フレッシュネス)

国産野菜へのこだわり、店内調理など、モスバーガーと共通するところもあり、筆者の私見だが、味においても評価できる。たまに、パクチーの入ったバーガーなど先鋭的な商品も発売しており、マニアな人気のあるチェーンと言えるだろう。

ただし路面店を基本としているところから、駅から少し離れた立地にあることが多く、ブランドの知名度があまり高くないのが残念だ。広告宣伝にあまり力を入れていないところも、少し前のモスバーガーと似ている点だ。

しかしそうした状況も、2023年を機に変わってきているようだ。

アボカドバーガーで女性ファンを獲得

まずはアボカドフェアについて見ていこう。

2品の期間限定商品(販売期間:3月6日〜4月16日)のほか、リニューアルしたものも含め、定番3品、計5品がそろう。

・「アボカドシュリンプバーガー〜ジェノベーゼソース〜」(期間限定/790円)
・「クラシックアボカドクリームチーズバーガー〜わさび香るサクサク醤油〜」(期間限定/890円)
・「ソイアボカドバーガー」(690円)
・「クラシックアボカドバーガー」(790円)
・「クラシックアボカドチーズバーガー」(890円)

そもそもフレッシュネスでアボカドを扱い始めたのが2011年3月。アボカドをぜいたくに2分の1個使った、クラシックアボカドバーガーとして定番メニュー化した。


クラシックアボカドクリームチーズバーガー(890円)。アボカド同様クリーミーな口当たりのクリームチーズが、醤油ベースのがっつり味をマイルドに。またわさびと大葉が後口をさっぱりとさせてくれる。醤油ソースはフレーク状。サクサク食感とあいまって味わいに立体感をもたらしており、飽きがこない(筆者撮影)

狙いは、フレッシュネスのメインターゲットである20代後半〜40代女性に人気のある食材を導入し、ファンを獲得すること。また、なかなか他社では扱えない食材によって価値を訴求する意図もある。アボカドという食材のイメージも、「健康」「新鮮」といった、フレッシュネスが消費者に伝えたい価値とマッチしていた。

その狙いはあたり、アボカドバーガーは女性の支持を得た。そこで新作の期間限定バーガーを加えたアボカドフェアを始めたのが2015年。2018年には定番メニューにクラシックアボカドチーズバーガーを、2023年にはソイアボカドバーガーを加えている。


左:リニューアルしたソイアボカドバーガー(690円)。大豆パティとは言っても、肉とそう変わらない味わい。サウザンアイランドソースがアボカド、パティ、野菜、バンズをまとめてバランスのよい味に。ソースにはピクルスが加えられており、カリカリした食感が新鮮味を与えている/右:アボカドシュリンプバーガー(790円)。えびやアボカドと相性のよいジェノベーゼソースはしっかり味。魚介と肉、2種類のたんぱく質に、野菜もたっぷりとれる、ヘルシーなバーガー(筆者撮影)

フレッシュネスによると、フェア期間中は、期間限定商品はもちろんのこと、定番商品の出数も高まる。期間中の客の5人に1人がフェアの商品を食べている計算になるそうだ。

ちなみに、常に生のアボカドを使っているのは、チェーンとしては国内外に40店舗を展開するクア・アイナぐらいだ。質のよい食材の数を確保するのが難しいことや、先に述べたように、取り扱いにも技術を要するため、店舗数の多いチェーンには向かない。例えばモスバーガーでも2022年に「とびきりアボカドコロッケ」を発売しているが、こちらはアボカドをコロッケにしたものだった。

ただ、かなり以前に生アボカドのメニューを販売したことはあったよう。2008年に数量限定で発売した「匠味アボカド山葵」や、2016年、2017年にはアボカドチリバーガー、アボカドサラダバーガーが発売されている。

いずれにせよ、どれも期間限定商品としての位置付けだ。

アボカド生産者とのコラボ

アボカドへの注力は、今回で3回目となる「メキシコ産アボカド生産者・輸出梱包業者協会(APEAM)」とのコラボレーションにも表れている。

日本はかつて国際市場において2番目に大きな市場であり、コロナ禍で影響を受け輸出が減っているとは言え、大きな期待が寄せられているようだ。

同協会からのコメントも得ることができた。

「フレッシュネスとのコラボを通じ、日本での消費をパンデミック以前の水準まで戻し、継続的かつ一貫した成長を遂げることが私たちの願い」(APEAM・国際市場におけるマーケティング責任者のミゲル・バルセナス氏)

なお生産に大量の水を必要とするため、近年、環境への影響を懸念する声も高まっている。この問題についてもAPEAMに聞いたところ「アボカド生産地であるミチョアカン州、ハリスコ州は雨季が長く、自然な生育を支える気候に恵まれている」と回答。また同協会として「アボカド生産の長期的な健全性と持続可能性確保を最優先事項とし、環境への影響を最小限に抑えながら、最高品質の農産物を世界中の消費者に届けられるよう努めている」とのことだった。

このように、アボカドという武器を持っているフレッシュネスではあるが、ブランドについてあまり知られていないのが残念なところだった。

しかしその状況にも、変化が訪れているようだ。

きっかけは、2023年の夏、人気バラエティ番組で取り上げられたことだ。放映後1〜2週間は客が通常の1.3倍になったという。中には「フレッシュネスを知らなかった」という客もいた。

結果、2023年の売上高は前年比150%になった。

なお、売上増には、逆説的ではあるが物価の上昇も関係しているかもしれない。

大人のチェーンであるフレッシュネスはもともと客単価が1000円(物価上昇前は900円)と少し高め。しかしこのところ、各バーガーチェーンも価格が上がってきており、フレッシュネスとあまり変わらなくなっている。価格を理由に利用しなかった客層も利用しやすくなったのではないだろうか。

自由に使える調味料をリニューアル

また、2022年の30周年を機に、ブランディングを見直していることも、「これまでと違うフレッシュネス」の理由となっている。


リニューアルしたワールドスパイス。クラシックアボカドクリームチーズバーガーには液体ゆずこしょうの「ゆずすこ」が、アボカドシュリンプバーガーにはイタリアンウェイガーリックがおすすめだそう(筆者撮影)

例えば、「ワールドスパイス」の進化だ。ワールドスパイスとは、店舗にケチャップやマスタード、塩胡椒、ビネガーといった調味料が備えられ、自由に使えるという、いかにもアメリカンなサービス。以前からあったものの、「ワールド」というには種類に偏りがあり、また扱っていない店舗もあるなど、サービスとして徹底されていなかった。

しかし2023年1月から、ブランドの魅力としてしっかり伝えていくために、「ワールド」の名称にふさわしくリニューアルが行われた。現在、国籍も豊かな9種類のスパイスが、どの店舗にも常備されている。

流行りの「味変」が可能なため、SNSの話題にもなりやすく、「次はあのスパイスを使ってみたい」などのリピート動機にもなる。この強みを、なぜ今まで生かさなかったのかと不思議に思える。

ランチ以外の需要を獲得

コンセプトである「バーガーカフェチェーン」の訴求も強化し始めた。コーヒーのリニューアルを行い、ドリンクの種類を拡大。154店舗中、104店舗と現在は限られているが、今後全店で展開する予定だそうだ。チュロスなど、スイーツの提供も開始した。

カフェメニューはアイドルタイム対策ともなる。16時以降、ビールに合わせた限定メニューを提供する「ヨルカフェ」と合わせて、ランチ以外の需要を獲得していく狙いだ。実際、バーガー以外の売り上げも伸びてきているという。


店内で漬け込んだレモネードも、フレッシュネスの目玉商品。写真は4月16日まで発売中のクラフトいちごレモネードソーダ(490円)。はちみつ、いちごソースに漬け込んだいちごは甘すぎず、酸っぱすぎない絶妙な味。ホットもおすすめ(筆者撮影)

SNSを中心に、宣伝も以前より強化している。フォロワー数は、ツイッター(現X)を始めた2014年から緩やかに増加してきたものの、2020年から大きく伸びて、現在は23万となっている。期間限定商品の発売やフェアと結びつけた、商品が半額になる抽選キャンペーンが功を奏しているそうだ。

店舗戦略にも力を入れる。過去増減はあったものの、ほぼ一定してきたというが、2024年は新網島店(横浜市)、郡山南店(郡山市)の2店をオープン。全国展開に向け、出店を強化していくそうだ。

以上のように、アボカドメニューをはじめ、差別化ポイントを多く有しているにもかかわらず、消費者にうまく伝わっていなかったフレッシュネスバーガー。訴求力を強め、万人にとって魅力的なブランドに成長していけるのか。しばらくはお手並み拝見だ。

(圓岡 志麻 : フリーライター)