予期せぬことの予兆を捉え、現場から情報を引き出すための有効な「言い方」とは(metamorworks/PIXTA)

リーダーとして、また上司として、部下から出される「予期せぬ兆候」があるというサインを感じたことがあるだろうか。

そんなとき、部下から適切な情報を引き出し、正しい判断をするには、どのような声かけが必要になるだろうか。デビッド・マルケ氏の著書『最後は言い方』より、そのヒントを紹介しよう。

チームでの活動中に、予期せぬことが目に入った人には、中断を呼びかける責任が生じる。だが、実際にその声をあげるのは難しい。

中断の声をあげるのはなぜ難しいのか


中断の声をあげにくい理由はいくつかあるが、そのうちの一つに、作業に没頭してしまうと、他のことが目に入らなくなるということがある。

生産モードにどっぷり入り込み、時間を忘れて何かに夢中になったという経験は、誰にでもあるだろう。

そうした精神状態のことを、心理学者のミハイ・チクセントミハイは「フロー」と名づけた。仕事に完全に没頭している感覚を指すと思えばいい。そうなったらどんなに素晴らしいことか!

ただしそれは、その仕事がそのときにやるべき仕事であればの話である。没頭する対象が間違っていれば、そうと気づかせる合図が必要だ。

人は作業にのめり込むと、フォーカスの対象が絞り込まれて視野が狭くなる。この集中力がタスクの達成を助けてくれるのは事実だが、自己管理の機能が制限される。

時間の感覚を失うのもその一例で、食事を忘れることだってある。手をとめて別の選択肢を検討したほうが賢明なときであっても、頑なに続けようとする。

そんなとき、中断を呼びかける人が別にいると知っていれば、安心してより深く赤ワークに入り込むことが可能になる。

目の前の作業に完全に没頭でき、より効果の高い成果、創造性に富む成果、生産性の高い成果がもたらされるだろう。それに、仕事の充実度も高まる。

現場からの中断の兆候の例とは

事前に取り決めた、明快な中断の言葉が使われていないとしても、実は中断を求められているという状況がある。

いくつか例をあげよう。

建設現場で基礎工事を担当する労働者が、「本当にコンクリートを打ち始めていいんですか?」と尋ねてきた。現場監督はどのように中断を呼びかければいいか?

ソフトウェア開発チームのプログラマーのひとりが、「この機能をつけるとテストの工程が相当複雑になります」と言ってきた。チームのリーダーはどのように中断を呼びかければいいか?

新技術を使った電気車両を製造するチームの若きエンジニアが、監督者の耳に届く大きさの声で、「この新しいバッテリーはどうなんだろう。実績値は期待したより低い」と言った。監督者はどのように中断を呼びかければいいか?

燃えさかるビルにホースを持って入った消防チームのひとりが、「この火災は何かおかしい。何が変かはわからないが」と叫んだ。チームリーダーはどのように中断を呼びかければいいか?

担当患者の様子を見てきた看護師が、看護師長に「あの患者さんの診断が正しいか気になるんです」と言った。看護師長はどのように中断を呼びかければいいか?

殺菌剤を製造する施設で、新たに1万ガロン(約3万8000リットル)ぶんの生産が開始されたとき、若手の製造ライン担当者が監督者に向かって「ここに並ぶバルブはいつもと違うものに見えるのですが」と言った。監督者はどのように中断を呼びかければいいか?

いずれのケースも、中断を呼びかけてみなの手をとめさせ、行動の赤ワークから脱するための言葉が必要とされている。その言葉が出れば、思考の青ワークに移行できる。

では、現場からの呼びかけに対応する答え方の例を紹介しよう。

◆「早すぎると感じているようだな。君の考えを聞かせてくれ

◆「みんなを集めて決定事項をもう一度見直そう

◆「サプライヤーを見直す必要があるかもしれないな。実績値を示す数字はどれだ?

◆「ここで待機して様子を見よう。みんなはどう思う?

◆「よくわからないって顔だね。何が気になったか教えてくれる?

◆「何が引っかかるか教えてくれないか

中断のタイミングを事前に決めるのも有効

ここで、中断の必要性に気づいて呼びかける責任が、チームのメンバーからリーダーに移っていることに気づかれただろうか。


では、リーダーが中断の必要性に気づかなかったときはどうなるだろうか? 

大丈夫。策はもうひとつある。

人は赤ワークに夢中になる傾向があるので、次の中断のタイミングを事前に決めておくことが予防策となる。

たとえば、「45分のタイマーをセットして休憩を忘れないようにする」という単純なことでもいいし、もっと正式に、プロジェクトを中断する日を2週間おきに設定してもいい。

戦略の再検討を年に一度行う、という具合に、頻度を抑えて中断の機会を組み込むのもひとつの手だ。

(L デビッド マルケ : 米海軍攻撃型原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長)