玩具カテゴリーに参入したことで、デジタルなコレクターズアイテムとフィジカル(物理的)なコレクターズアイテムとの境界線があいまいになっているNFTブランドが増えている。

もともと2021年に設立されたNFTラインであるパジーペンギンズ(Pudgy Penguins)は2月、大手小売業者ウォルマート(Walmart)とのパートナーシップを拡大し、3100カ所の実店舗で製品を購入できるようにした。3DアニメーションのNFTコレクションであるクレイノザウルス(Claynosaurz)は、今年はじめに恐竜のぬいぐるみシリーズを発売する予定で、昨年11月にはすでに限定版を発売した。デジタルアートのコレクタブルブランドであるワールドオブウィメン(World of Women、WoW)はテーブルゲームメーカーのWSゲームカンパニー(WS Game Company)と提携し、同10月にモノポリーのスペシャルエディションを発売した。

NFT市場にとっては激動の1年だった。NFT情報サイトのダップレーダー(DappRadar)のデータによると、NFTの売上は2023年の1月から7月までで49%減少したことが示唆されている。レイオフも業界を苦しめており、NFTスポーツゲームのスタートアップであるソラーレ(Sorare)は2月、スタッフの13%を解雇し、NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)は昨年11月、従業員を50%削減した。現在、多くのNFTブランドは、デジタル空間の外でキャラクターの人気を高め、新たな収益源を獲得できる玩具カテゴリーに挑戦している。

NFTの売上が減少



2021年のNFTブームの絶頂期には、こうしたNFT企業の多くがエンターテイメント業界に参入するという大きな野心を抱いていた。しかし、NFTの売上が減少したのと時を同じくして、こうした取り組みの一部は行き詰まったり、立ち消えになったりした。俳優のセス・グリーンは、ボアードエイプ・ヨットクラブ(Bored Ape Yacht Club)のNFTをフィーチャーした番組を予告したことで悪い意味で有名になったが、結局、自身のボアードエイプを盗まれてしまった。グリーンはのちにNFTを取り返したが、番組の「ホワイトホースタバーン(Whit Horse Tavern)」はまだリリースされていない。女優のミラ・クニスが支援するストーナーキャッツ(Stoner Cats)は、アニメシリーズに資金を供給するコレクターズアイテムだ。同名のシリーズは、2021年に第1シーズンが開始され、ストーナーキャッツのNFT所有者だけが視聴できる。ストーナーキャッツは、未登録証券を販売したとしてSEC(米国証券取引委員会)から告訴され、昨年末にオープンシーやブラー(Blur)などのNFTマーケットプレイスから追放された。

NFTはまだ発展途上の分野ではあるが、NFTを支援する企業の多くは、より多くの人にこのテクノロジーを紹介する方法を模索している。デジタルコンサルティング会社CI&Tの小売戦略ディレクターであるメリッサ・ミンコウ氏は、玩具を提供することは、人々がNFT領域にあるキャラクターにアクセスするためのハードルが低い方法になり得ると話す。

「回復力の観点から見て仮想通貨経済がかなり疑わしくなってきたなかで、かなりの数のNFTブランドが、必要なものだと予期していた変化のひとつだ」とミンコウ氏はいう。「メタバースのなかでしかアクセスできないようにするよりも、大型小売店や玩具店で購入できる物理的な製品を用意するほうが、はるかに合理的だ」。

玩具がNFTに好影響を及ぼす可能性



NFTにインスピレーションを得た玩具は大ヒットする可能性がある。パジーペンギンズは昨年5月に「パジートイズ(Pudgy Toys)」を発売し、9月にはウォルマートの2000店舗で販売を開始した。これまでのところ、1年も経たずに75万個以上を販売し、小売売上高は1000万ドル(約14億7900万円)に達した。パジートイズはウォルマート以外に、パジーペンギンズのウェブサイト、大手製造小売チェーンのホットトピック(Hot Topic)、大手通販のAmazon、コンピュータゲーム販売店のゲームストップ(GameStop)でも販売されている。

「通常はその逆で、物理的なアイテムを作成してからデジタル世界に持ち込むものだ」とパジーペンギンズCEOのルカ・ネッツ氏は言う。「これは、仮想通貨ネイティブが物理的な製品を楽しむ素晴らしい方法だと思う」。

パジートイズは現在、60種類の製品を提供している。玩具会社ゲルブラスターズ(Gel Blasters)のCMOを務めたこともあるネッツ氏は、玩具業界での経験が事業拡大の大きなきっかけのひとつになったと話した。同社はパジーペンギンのフィギュアを約20ドル(約2950円)、ぬいぐるみを約25ドル(約3700円)で販売している。

現時点では、パジーペンギンズの玩具ビジネスは、NFTの収益と比べるとまだ見劣りがする。同社は、これまでのデジタルNFTの売上高は6億ドル(約886億9100万円)であると話す。しかしネッツ氏は、玩具ビジネスはNFTの側により多くの利益をもたらす重要な取り組みになる可能性があると語った。

「これによってパジーペンギンズのIPが広まると思う」と同氏は言う。「IPを目にする人が増えるほどIPを愛する人が増え、最終的に、NFTを求める人が増えるだろうと確信している」。

競争が激しい玩具市場でアピールできるか



パジーペンギンズと同様、ワールドオブウィメンも独自のモノポリーを発表することでブランド認知を広める機会を得た。WoWのCOOであるシャノン・スノー氏は、NFT情報メディアのNFTナウ(NFT Now)とのインタビューで、ボードゲームはNFTブランドの背後にある世界観やストーリーについて知ってもらうひとつの方法だと語った。

スノー氏は10月に公開されたインタビューで、「我々がやっているすべてのことは、ブランドを拡大し、コミュニティを拡大するためだと考えている」と語っている。「ワールドオブウィメンを新しいオーディエンスに紹介する新しいユニークな方法を見つけ続けたいと望んでいる」。

一方でクレイノザウルスは、オンラインプラットフォームに対してアクセスのしやすさや魅力を感じていない可能性のある、より若いオーディエンスとのギャップを埋めようとしている。同社は、すべてのぬいぐるみのコレクターズアイテムに「デジタルツイン」を作成するつもりだとNFTナウに語った。

CI&Tのミンコウ氏は、玩具への進出は、NFT企業がまだ若い人々にアピールする効果的な方法となり得ると言う。同氏は、玩具カテゴリーはホリデーシーズンに特に好調だと付け加えた。しかし、競争が激しい市場でもあると話した。

「玩具カテゴリーはかなり飽和した市場だ。高い市場シェアを持つ強大なブランドがいくつか存在することは間違いない」とミンコウ氏は語った。「NFTの世界で期待どおりのフォロワーや顧客ベースを醸成できていないなら、大きな賭けになるだろう」。

[原文:NFT brands are stepping into the toy category]

Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Pudgy Penguins