今年のNRFビッグショー(全米小売業協会主催)に参加した小売企業は、生成AI(ジェネレーティブAI)をカスタマーサービスやマーチャンダイジング、マーケティングに組み入れ、競争力を高めているという。

ウォルマート(Walmart)など一部の企業は、生成AIによる検索を、誕生日パーティーからスーパーボウル(Super Bowl)まで、あらゆる商品をおすすめするために利用している。カルフール(Carrefour)などほかの企業は、マーケティングキャンペーンのテキストや画像を作り出すために生成AIを使用している。さらに、ターゲット(Target)など多くの企業は、商品の説明を修正して検索パフォーマンスを最適化するために、生成AIを使用している。

この1年で、生成AIは小売企業のあいだで最大のバズワードになった。これは新しい話題ではないが、2022年11月にオープンエーアイ(Open AI)がChat GPTをローンチし、消費者や企業がこのテクノロジーに簡単にアクセスできるようになってから話題が沸騰している。現在は、顧客サービスの問い合わせへのチャットボットによる回答から、従業員向けのトレーニング資料の開発まで、あらゆる目的に生成AIを使用する小売企業が増えてきている。GoogleがNRFで共有した調査によると、小売企業の意思決定責任者の81%は生成AIの採用が「急務」だと感じている。

この新しい技術の普及に遅れまいと、今年のNRFに参加したベンダーの多くは自社のAI機能を盛んに宣伝している。20社以上の出展者が展示名に「AI」を入れており、Googleやヨービック(Yoobic)、セールスフォース(Salesforce)などの企業はショーの時期に合わせて新しいAIツールや研究をリリースした。オンラインに投稿された議事日程によると、初日の1月14日日曜日だけでもAIについてのイベントが12を超えていた。

エグゼクティブらがNRFで強調したように、生成AIは自社の目標や顧客、従業員に合わせてカスタマイズすることが重要だ。「生成AIは多くのユースケースによって次第に有用になるもののひとつだ」と、ロウズ(Lowe’s)でデータ/アナリティクス/計算インテリジェンスおよびマーケティングテクノロジーを担当するシニアバイスプレジデントのチャンドゥ・ナール氏は15日月曜日のセッションで語った。同様に、生成AIについても「テストが高速に行え、失敗も高速に確認できる。そのような考え方を取り入れる必要がある」と、カルフールでフランスのeコマースのエグゼクティブディレクターおよび責任者を務めるジェシン・カッチェラ氏は説明した。

イベントでの説明に従い、一部の小売企業が生成AIを使用してどのように成功を収めたかを以下で解説する。

カスタマーエクスペリエンス



ウォルマートのAIツールの多くは、店舗やオンラインでのカスタマーエクスペリエンスを中心に運用されている。2022年後半に導入した「テキスト・ツー・ショップ(Text to Shop)」は、ユーザーが「2%の低脂肪乳が欲しい」などのテキストメッセージで商品を注文できるものだった。現在はMicrosoftと共同で、より高度なバージョンの検索ツールを開発するため、生成AIへの投資を増やしている。

買い物客は「風船」や「ケーキ」など個別の品物を検索するほかに、「ユニコーンをテーマにしたパーティーの計画を立てたい」などと入力して、そのイベントに合わせてキュレーションされた品物のリストを得ることもできると、ウォルマートのグローバルテクノロジー担当シニアバイスプレジデント兼最高執行責任者を務めるアンシュー・バルドワジュ氏は14日のセッションで述べた。これにより、買い物客は時間を節約できるとともに、楽しい時間をすごすことができると、同氏は話した。ウォルマートは2023年11月にこのツールのベータ版をすでにリリースした。

一方でカナディアンタイヤ(Canadian Tire)はショッピング支援用チャットボットを作成中で、今後数カ月以内にリリースすると、同社でAIおよび新テクノロジー責任者を務めるカリ・コベント氏は14日のセッションで語った。「顧客に対して、これまでと大きく異なる方法で当社と対話し、求めている情報をはるかに速く入手できる機会を与えることに価値がある」と、同氏は説明した。

コンテンツ生成



コンテンツ作成プロセスを高速化するために生成AIを使用している小売企業もいる。フランスの食料品店のカルフールは、生成AIを使用してマーケティングスタジオ用のテキストや視覚的なアセットを作成していると、カッチェラ氏は述べた。かつてはキャンペーンの変更に何週間も必要だったが、現在はほんの数日で行えるという。

エヌビディア(Nvidia)はゲッティイメージズ(Getty Images)との新しいパートナーシップにより、小売企業が広告キャンペーンに使用できる「すぐライセンスを取得可能な視覚的アセット」を制作すると語った。顧客は写真にどのような背景が欲しいかを指定してから、前景にする人物や物体の写真をアップロードする。「これによって、小売企業のクリエイティブ、マーケティング、メディアの各チームがはるかに効率化し、クリエイティブなアイデアも増える」と、同社で小売用AI担当のバイスプレジデントを務めるアジタ・マーティン氏は14日に語った。

米モダンリテールのデータによると、コンテンツの生成は、小売企業がAIテクノロジーを使用する方法として、1位ではないものの高い位置を占めている。回答者の半数あまり(51%)はチャットボットやアシスタントとしてAIを使用していると回答し、2位にコピーの生成(43%)が僅差で続いた。画像生成は18%だった。

従業員のリソース



最後に、小売企業は従業員をより生産的にするために生成AIを使用していると述べている。たとえばカナディアンタイヤは、Chat GPTの独自バージョンを作成し、Chat CTCと呼んでいる(「CTC」は「カナディアンタイヤコーポレーション(Canadian Tire Corporation)」の略)。数千人の従業員がさまざまな方法でこのツールを使用しているが、「すべてが自社のビジネス戦略に立ち返る」と、コベント氏は述べている。

たとえば、オンラインのレビューを調べているチームは質問や苦情に回答するため、「当然、人間による適切な監督のもとで」Chat CTCを使用していると、コベント氏は述べている。また、テックサービス・マネージャーはAIの機能を使い、過去の類似した状況を引き出すことで、インシデントのトラブルシューティングと対応をより速く行えるようになる。最後に、データガバナンスグループはプログラムを使って、データをドメインやサブドメインに分類し、データの説明を書いていると、コベント氏は話した。

これに対してターゲットは長年にわたって顧客にチャットボットを提供してきたと、データサイエンス担当バイスプレジデントを務めるメリッサ・ルーダック氏は14日のパネルディスカッションで語った。現在は、「社内ツールに使用しているチャットボットの多くの改良に取り組んでいる」と、同氏は述べた。

ウォルマートは、小売店員向けに「サムに聞いてみよう(Ask Sam)」という音声アシスタントを開発した。このツールにより、従業員は価格を調べたり、店舗のマップを参照したり、売上情報を見るなどの機能を使用できる。また、従業員は、ある商品の特定のサイズの在庫が別の店舗にあるかを調べ、その品物を取り置くこともできる。

ほかにもウォルマートは、従業員向けの「マイアシスタント(My Assistant)」という新しい生成AIツールを2023年8月に運用開始した。このツールの機能によってドキュメントの要約を行ったり時間を節約することができ、従業員が「新しいアイデアを生み出し、戦略を作り上げ、関係を築くといった、人間らしいタスクに集中できるようになる」と、ウォルマートはプレスリリースで述べている。同社は2024年、このツールをカナダやメキシコ、グアテマラなど新たに11カ国に拡大する。今年は「マイアシスタント」のユーザー数が50%増加すると、同社は予測している。

生成AIを試すのに不安を抱える人がいるかもしれないと、カルフールのカッチェラ氏は認めている。「わからないことがあっても心配する必要はない。まずははじめてみよう」と、同氏はNRFの参加者に助言した。

[原文:Generative AI dominates the NRF conversation]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)