2019年のOECD調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、調査対象の国の中で最下位。また、総務省「社会生活基本調査」(2016年)によれば、日本人女性の睡眠時間は10年間にわたって男性よりも短く、世界最短と言えます。女性、とくに母親の「睡眠不足」に警鐘を鳴らすのは、『「発達障害」と間違われる子どもたち』などのベストセラーで知られる、小児科医・「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子先生です。

ここでは成田先生の新刊『誤解だらけの子育て』(扶桑社刊)から、「親の睡眠不足」がもたらす子育てへの悪影響について、抜粋して紹介します。

親ほどしっかり眠らないといけない

わが子のために尽くしたいと考えるのは、親の性(さが)なのでしょうか。朝は早起きして食事づくりや掃除・洗濯に勤しみ、夜、子どもが寝静まったあとも残りの家事や仕事をこなす。

このように、身を削ってがんばっている方が多くいらっしゃいます。しかし、私は声を大にして言いたいのです。親御さんこそしっかり寝てください、と。

●無理がたたり、若くして亡くなった母

私の母も、自分を犠牲にして働きづめ、とにかく寝ない人でした。父が開業した医院を手伝い、家事を終えて私を寝かせたあとも、レセプト(診療報酬明細書)の処理などで月に何日かは徹夜するような生活。

もともとの気質もあったと思いますが、母はいつもイライラし、忘れ物ばかりで小学校にもあまりなじめなかった私に、きつく当たりました。それでも大好きな母に認められたい一心で勉強をがんばって成績を上げても、ついぞ褒められることはありませんでした。

もともと私は幼少期から自律神経の働きが悪く、温泉に行くと失神する、車酔いは桁違いに重い、という子どもでした。それが中学生頃になると、おそらく親子関係のストレスも相まってさらに悪化。毎朝駅までの道では吐き気を催してうずくまり、部活後の帰宅の電車では失神しそうになり何度も途中下車しながら、ようやく家にたどり着くありさまでした。

いわゆる「起立性低血圧」の症状ですね(ちなみに私は今も自律神経の働きは悪いですが、これらの症状はほぼなくなっています。生活改善で本当に心身の状態は変わります)。

一方、母は長年の無理がたたり、私が高校1年生のとき大病に倒れました。そこからは家事や母の看護をしながらの学生生活が続きました。今で言うヤングケアラーです。そのときに感じたことは、今私が親御さんにかける言葉のもとになっています。

「どんな親でも、元気で生きていてくれることがいちばん子どもにとってありがたい。笑顔でいてくれるなら、さらに幸せになる」

母が、私に早寝早起きの習慣をつけさせてくれたことには唯一感謝しています。ですが、母自身がもっと自分を大切にして、しっかり寝てくれていたら…と今も思えてなりません。

私のところに来られる親御さんにも、「子ども第一」になりすぎるあまり、50歳前後から急に体調を崩す方が多く見られます。異変に気づくのが遅れ、なかには若くして亡くなってしまうケースも経験しました。

●親が眠れば、子どもも変わる

2019年のOECD調査では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分。調査対象の30か国平均である8時間23分より1時間も短い、最下位という結果でした。また、総務省「社会生活基本調査」(2016年)によれば、日本人女性の睡眠時間は10年間にわたって男性よりも短く、世界最短と言えます。

お子さんが問題を抱えていると悩み、相談に来られる方に「親御さん、ちゃんと寝てる?」と聞くと、たいてい「毎日やることがたくさんあって、夜中の1時くらいになってしまう」という答えが返ってきます。

しかし、子どもや家庭のためにと、あれこれ手を尽くすばかりに寝不足になると、親御さんの脳に悪影響が及びます。ささいなことが気になり、子どもに過干渉になったり、自分を必要以上に責めたりします。不安が強くなり、そのせいでまた寝不足になる─という負の循環に陥ります。

その矛先は、子どもに向くことになります。「親の私がこれだけがんばっているんだから」と子どもに過度な期待を寄せ、思い通りにならなければ厳しく当たる親御さんが多くいらっしゃるのです。そんな自己犠牲など、子どもにとっては百害あって一利なし。今すぐやめてほしいと思います。

最近、私のところを訪れたお母さんが、「先生のアドバイスに従って寝るようにしたら、急に物事が明るく見えるようになってきた」と話してくれました。親がしっかり睡眠時間を確保し、自己肯定感が上がってポジティブになれば、子どもの認知も前向きに変わります。それによって家庭の雰囲気がよくなり、ますます子どもの脳育てによい環境をつくることができるのです。