家好き芸人・アンガールズ田中さんが、すごいリノベをした建物を探訪。向かった先は、東京神田にある1964年築の、印刷会社の社屋をリノベしたユニークな複合ビルです。地下にあるフィンランド式サウナに入り、マイナス25℃のアイスサウナも体験。ととのったあとは、1階のこれまたユニークな写真館で記念撮影も!

地下1階のサウナラボでフィンランド式サウナを体験

まずは、地下1階にあるサウナラボへ。担当した建築家のひとりである須藤剛さんとスタッフの岡歩美さんが案内してくれました。こちらは、フィンランドで生活の一部として親しまれてきた、サウナのさまざまな楽しみ方を体験できる場所だそう。

須藤:ここは地下1階、地上6階建ての印刷会社でしたが、地下から3階までを街に必要な機能を備えたビルにリノベーションすることになり、建築家の藤本信行さん(バカンス代表)にお声がけいただき共同でデザイン監修のもと、2019年から改修計画をスタートしました。

田中:それで、サウナなんですか? サウナブームが始まるちょっと前ですよね?

須藤:フィンランドでは、サウナは日本の銭湯のように疲れを癒やす場であると同時に、地域のコミュニケーションの場です。銭湯と同じくすたれつつありましたが、近年その魅力が見直されてきたそう。そこで、神田でもサウナのもとに人が集まって、ビルと街が一緒になにかおもしろいことをやっていければいいなと。

岡:サウナラボはフィンランド式サウナを採用しているので、日本のサウナより温度が低め。地下ですが自然とふれ合えるように意識しています。リモートワークできる場所もあるんですよ。

田中:畳の部屋など、いろんなタイプのサウナがあるのもおもしろかったです。

 

こちらは禅の要素を取り入れた、幻想的な空間「IKE SAUNA」。池の周りを取り囲むように黒い畳が敷かれ、座蒲(座禅専用の座布団)を使って座禅が組めます。 

 

水風呂代わりのアイスサウナで凍える田中さん。「室温はマイナス25℃。フィンランドのラップランド地方の冬の外気温を再現しています」と岡さん。

 

ほかにベーシックなフィンランド式サウナの「FOREST SAUNA」など、数種類のサウナが用意されています。「日本のサウナは90〜100℃くらいのものが多いですが、フィンランド式は75〜80℃と低めなので、ゆっくり楽しめます」と岡さん。

1階はカフェやショップが。サウナを中心に街とつながる

須藤:1階の「神田ポート」にはカフェやショップ、ギャラリーがあり、だれもが利用できる、街に開かれたスペースです。もとの建物は耐震性能がたりていなかったので、改修時に耐震補強も行いました。こちらはそのショップ。サウナ関連商品のほか、2、3階に入っている「ほぼ日」の商品も販売しています。

 

田中:地下への階段が吹き抜けになっているのには驚きました。1階の床を切っちゃったってことですよね?

須藤:1階は搬入のためにクルマが入れるようになっていたので、荷重に耐えるために大きな梁がたくさん使われていました。それをあえて見せています。

田中:違う用途に使われていたことがわかるし、意匠にもなっていますね。

須藤:地下は壁を茶色っぽくしています。サウナの起源は地面に穴を掘ったものだったともいわれているため、穴倉をイメージしました。

 

田中:1階には移動式のサウナが展示されていたり、サウナ関連のグッズも!

岡:奥にあるカフェ「KITCHEN SAUNA」では、サウナブレンドやSHAKEサンド、ロウリュアイスなど、サウナやフィンランドにちなんだメニューを楽しめます。

 

カフェのメニューは地下の共用スペースでも食べられます。田中さんは、ほぼ日のカレースパイスを使った「カレーの恩返しカレー」を注文。

サウナに来て昔ながらの写真館で記念撮影?

1階には、写真家の池田晶紀さんが代表を務める、写真とデザインの会社「ゆかい」が運営する「あかるい写真館」もあります。

田中:あれっ、さっきまでギャラリーだったのに、すっかりスタジオになった!

須藤:間仕切りを閉めると完全に個室になり、スタジオとして使えるんです。

池田:古きよき街の写真館にあったような背景紙も用意しています。

田中:確かに、こんな感じのグラデーションのバック、写真館にあったな。

池田:普段は、前半はオーソドックスに、その後セットチェンジして、テーマに合わせて撮影していきます。今日の田中さんのテーマは、「大人の魅力」かな。軽く足を組んで、遠くを見つめて…、いいですね!

田中:そう言われてもなにがいいのか…。

 

池田:もういい写真が撮れました。

田中:こんなふうに撮ってもらったのは初めてです。なんか新鮮だな。

池田:サウナに入りに来て写真を撮るっていうのも、おもしろいでしょ。

田中:写真だけでもいいんですか?

池田:もちろん! ぜひ、家族写真も撮りに来てください

 

スタジオとしても使われるギャラリースペース(写真奥)では、展覧会やイベント、ワークショップなども開催。ショップとつながるオープンな空間として使用しています。 

 

「ただ言われるがままに座っているだけなのに、『ふざけないで』とか『もっと難しいことを考えて』とか、いろんなこと言われて(笑)。でも、でき上がった写真にびっくり。このイスとバックがあるだけで、なんだか絵みたいですよね。宣材写真にしようかな」(田中さん)。

2、3階は「ほぼ日の學校」。アカデミックな雰囲気が!

2階に上がると「ほぼ日の學校」スタッフの下尾苑佳さんが出迎えてくれました。この場所を使ってリアルなイベントも、たくさん企画したいと思っているそうです。

下尾:ここでは、さまざな方々を講師に招いてお話をしていただき、それを動画で配信する「ほぼ日の學校」というサービスを行っており、動画の撮影や生配信を行うスタジオがいくつかあります。

田中:入り口のアールのデザインがいい。古いようでもあり、未来的でもあり。

須藤:昔の学校で多用されていたアーチや赤レンガを使うことで、アカデミックな感じを出しています。スタジオの床は、昔の教室のパーケットフロアをイメージして、音が反射しにくいサイザル麻をパーケット風に張りました。

 

下尾:実際にお客さまを入れてイベントを行うことも。夏休みにはお子さんがアースボールを使って自由研究をしている間に、親御さんは隣のスペースで仕事をしたり、下のサウナに行ったり、自由に過ごしていただくイベントを実施しました。

田中:なんかそれ、いいですね。2階の待合の壁に谷川俊太郎さんの「見えない学校」っていう詩がありましたけど、遊び心があって学びもあって、余白のある空間も含めてゆとりを感じます。

 

サロンのような休憩スペース。右手の棚はイラストレーターの故・和田誠さんの事務所から寄贈されたもの。「横幅がぴったりで、上部を少しカットして使用。いろんな縁が積み重なってできています」と須藤さん。 

既存のよさを生かし、新しいものとなじませる

須藤:外壁は赤土で仕上げています。地面から生えてくるイメージで、地下のサウナのインテリアにもつながってます。

田中:本物の土なんだ! ボクの好みです。外のベンチも、近所の人が軽く座っておしゃべりできそうで、いいですね。

須藤:1階のホールの壁は、小学校などで使われていたテラゾーという石を研磨した素材で、手間がかかるので今ではあまり見かけません。階段は手すりが既存で、踏み板のゴムタイルは新しいけど、全体になじむ色を使っています。

田中:古いものと新しいものを、うまくなじませているんですね。

 

須藤:屋上は、ウッドデッキを設置して、外を感じられる空間に。イベントでテントサウナをやったりすることもあります。

田中:地下から屋上まで、見どころだらけ! 昔のコミュニティのよさみたいなものを感じさせてくれる建物でした。

●案内してくれた人:須藤 剛さん(須藤剛建築設計事務所)
住宅・店舗などの新築、リノベーションや家具デザイン・製作などを手掛ける。「この施設の設計を通して、サウナは自由で、いろんな楽しみ方があることを知りました」。

取材協力/神田ポートビル 東京都千代田区神田錦町3-9