自分自身を肯定したり、許したり。今、そんな生き方の大切さが見直されています。かつて、自分に自分でダメ出しをして、「普通のこと」ができなくなってしまったというマンガ家・自我野さん。なんと、お風呂に入ることすらできなかった時期もあったそう。

つらい状態からどのように脱出したのか、初の単行本『崖っぷちの自我』では、赤裸々に綴ってあります。マンガ家を目指して上京し、月収0〜10万円のアルバイトで生計を立てながら暮らす「崖っぷち」の日々を描いた4コマエッセイの裏側を、話題の著者にインタビューしました。

【漫画】『崖っぷちの自我』を試し読み

「母から結婚までのプランを決められて」。脱出のためにマンガ家目指す

――マンガ家になろうと思ったきっかけや、そのために上京という手段を取ったのはなぜでしょうか?

自我野:家族がマンガ好きで、いろいろなジャンルのマンガ雑誌や“24年組(※)”が小さい頃から身の回りにあり、自然とマンガ家を目指すようになりました。ものを欲しがるタイプの子どもではなかったのですが、地元の「選択肢の少なさ」がいやで、いっぱいあるなかから選びたい、そういう環境に身を置きたいと思って、上京を志しました。また、小学生の時点で、母親から進学先を、高校生の時点では、結婚までのプランをがっちり立てて提示されたので、このままではヤバいという危機感もありました。

24年組…1949年(昭和24年)頃の生まれで、1970年代に少女マンガの革新を担った女性マンガ家の一群。

――「1年でマンガ家になれなかったら親の決めた相手と結婚すること」という条件を出したり、お母さまとの関係は、なかなかインパクトがありますよね。

自我野:今思えば、母からは変な甘え方をされていたのかもしれません。30代に入った今は、距離をおくことも必要だなと思い、LINEを含めた直接の交流をお休みしています。親せきとは連絡を取っているので、だれかを経由して、お互いが元気なのが分かればいいかな、と。そう考えたら、だいぶ心が落ち着いた気がします。

●長年のコンプレックス「お風呂に入れない」が改善

――作中で「限界ライフハック」とされている、日常生活の困りごとの解決方法も参考になりました。最近、なにか新たなライフハックを実践されていますか?

自我野:劇的に改善したのが「お風呂に入れるようになったこと」です。こうあらねばならない、という思い込みが強くて、自分の決めた手順をすべて守って入浴することに高いハードルを感じていたんです。結果、メンタルが不調なときにはお風呂に入れないということが続いて…。「女の子なのに清潔にしなきゃダメだよ」と、周囲からのネガティブな声も気になるし、「なんで普通の人はできていることができないんだろう」ってずっと悩んでいました。

――実際にだれかに言われたわけではなくても、自分で自分にダメ出ししてしまう精神状態になってしまうことはありますよね。

自我野:どちらかといえば潔癖症なのに、入れない理由がどうしてもわからなくて。そこで、「なんで入りたくないの?」って、根気強く自分に問いかけていたら、お風呂にまつわるトラウマも含めていくつも理由が出てきたんです。今は、少しずつそれを解消しているところです。洗顔(上記マンガ参照)もそうですが、入浴について自分で決めた手順をすべて守ろうとせず、「お湯を浴びるだけでもOK」とハードルを下げたり、リンスインシャンプーに替えたりすることでラクになりました。完璧を目指さない暮らし方にシフトしたら、心の混乱もだいぶ減った気がします。

●「ダメダメな自分」を肯定できる場所をつくりたい

――完璧を目指しすぎる、というのは、今を生きる人たちが、大なり小なり抱えている問題点かもしれません。自我野さんの作品に救われる読者も多いと思いますが、読んでくれる方に伝えたいことはありますか?

自我野:この本には、私のダサい部分がたくさん描いてあるんですけれども(笑)、みんななにかしら弱味は抱えて生きてますよね。人前では弱さを隠して気丈に振る舞っている人が大半なだけで。思春期の頃からよく「のびのび気弱なままで生きたいだけなのに」と思ってました。でも、そうもいかないのでどうしたものかと…。

だから、まずは私がめちゃめちゃ弱音を吐きまくって「なんとなくわかるかも」と、徐々に存在に慣れてもらい、弱さを受け入れる風潮がなんとなくできて、いずれはみんなが弱音を吐きまくれるようになればいいのに…という勝手な思いを込めてマンガを描いていました。

私は、日常生活や人付き合いで困りごとがあると「自分が悪いんだ!」と思い悩み、ぐるぐると負のスパイラルに入り込んでいた時期が長くて、マンガを描くのはその感情を整理する作業でもありました。マンガの中の私を見て、「自分だけじゃない」と困りごとを共有できる場や雰囲気を提供できたら嬉しいです。