強豪インテルの脅威となった久保。(C)Getty Images

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 インテル戦の50分だった。タケ・クボ(久保建英)は相手ゴールに向かって直線的にドリブルした後、パスの出しどころを見つけられずにいた。私の周りにいた記者の1人は、「今日はクボに0点をつけなければならない」とつぶやいた。

 彼は、「ノティシアス・デ・ギプスコア」で私が毎試合担当している選手採点について言及していた。ただどんなにひどいプレーをしても、0点という評価はありえない、タケはどんな試合でも、何らかのインパクトを残すからだ。

 案の定、結果的にダイブで倒されたフリをしたとしてイエローカードを取られたが、もう少しのところで決定的な仕事を完遂しかけた。試合後、その記者に話しかけようとすると、同僚にメッセージを送っていると言って相手にしてもらえなかった。言い訳を見つけることができなかったのだろう。

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 イマノル・アルグアシル監督が構築したマシンについて様々な角度から論じられているが、タケのレベルや価値が疑われるのは信じられない。残念なことだが、才能は常に疑われるものだ。16歳でデビューしたカンテラ出身のアンデル・バレネチェアもそうだった。

 どんなチームにも火花を散らすことができるアタッカーが必要だ。オサスナにアブデのことを聞いてみるといい。昨シーズン、一部のファンの間でそのガンガン仕掛けるスタイルに対し、批判的な声が上がっていた。しかしその突貫ドリブラーが退団すると、オサスナはメリハリに欠けるチームに成り下がってしまった。

 タケは魔法を失ったと言われる。確かにレアル・マドリーのジュード・ベリンガムと並んでラ・リーガ最高の選手と評価されたシーズン序盤と比べれば、パフォーマンスは落ちている。

 とはいえ長いシーズンには好不調がある。つい最近までそうだったように、ゴールから遠ざかれば、批判は避けられない。しかしそんな中でも、タケは逃げも隠れもしなかった。チームメイトを、ファンを騙すことは絶対にしなかった。確かに前述のプレーのようにレフェリーを騙すことはあるが。
 

 
 タケを非難する連中は、ビジャレアル戦で3得点全てに絡む活躍を見せたこと、インテル戦でチームが作ったすべてのチャンスに関与した事実を見落としている。

 さらにタケの素晴らしさを誰よりも評価しているのはチームメイトたちだ。それは試合中、ボールを持つと、タケを探し続ける姿を見ていれば一目瞭然だ。ただ、だからこそ、相手のマークは厳しくなっている。

 スコアレスドローにおわったチャンピオンズリーグ(CL)のインテル戦もそうだった。敵将のシモーネ・インザーギは、タケを封じれば、ソシエダの攻撃力が大きく落ちることが分かっていた、対面するフェデリコ・ディマルコのカバーリング役としてカルロス・アウグストとヘンリク・ムヒタリアンにも常にその動きを注視させたのは警戒心の表れだった。

 そんな中でも、タケは味方に合わなかったとはいえ、2本のクロスでインテルを恐怖に陥れた。ソシエダは圧倒的にボールを支配し、昨シーズンのCL準優勝チームに対して、一時はポゼッション率が80%に達した。
 
 後半に入っても、タケの闘志は衰えず、何とか抜け道を見つけようと、堅守に挑み続けた。68分のアルセン・ザハリャンの絶好のチャンスを創出したのも、その1分後にCKからミケル・オジャルサバルのシュートをお膳立てしたのもタケだった。そして75分にPKをゲットしたが、VARによって覆された。

 何なら試合終了後の、アルグアシル監督との熱いハグを見てほしい。タケがチームで最も危険な武器であり続けていることを指揮官は誰よりも知っている。その功労に対する感謝の気持ちが2人の抱擁シーンに凝縮されていた。

取材・文●ミケル・レカルデ(ノティシアス・デ・ギプスコア)
翻訳●下村正幸