Dynabook社の「dynabook R7/W」(P1R7WPBL)は11月2日に2023年秋モデルとして発表された、14型ディスプレイを搭載したクラムシェルスタイルのノートPCだ。

Dynabookのプレミアムモバイルラインナップ“R”シリーズ現行3機種のうち、エントリークラスとなる「dynabook R7/W」。発売は11月10日から順次

Dynabook社は幅広いタイプにわたる数多くのノートPCをそのラインナップに擁しているが、携行利用を重視したいわゆるモバイルノートPCにおいて、dynabook R7/Wは最上位シリーズに位置する。

Dynabookの中の人たちにとっても、“Rの称号を持つdynabook”に対する想いには特別なものがあって、以前のインタビューでも「dynabookでRの称号が与えられるというのは名誉なことなのです」という言葉が出てくるほどだった(このインタビューの詳細については「dynabook RJ74開発者インタビュー 第12世代Core搭載の14型で1kg切り『Rの称号を持つdynabook』」を参照のこと)。

軽さと実用性を両立させつつ、上位機から価格も抑えたノートPC

DynabookラインナップにおけるモバイルノートPCの旗艦シリーズとして、dynabook Rシリーズの立ち位置は今でも変わっていない。

モバイル利用で重要な小型軽量と、実利用で重要な処理能力やディスプレイをはじめとするマンマシンユーザーインタフェースサイズの“相反するトレードオフ”は、依然として高い次元でバランスが取れている。

それに加えて、今回登場したR7/WはRシリーズの中で最もエントリーに位置するモデルなので、価格競争力も重要な要素。そのため、先の掲げた要素のトレードオフに加えてコストのバランスもとらなければならないという、言ってみれば先行して登場している上位モデルのdynabook R9やミドルレンジモデルのR8/W以上に難しいバランスのとり方をしているのではないだろうか。

今回のレビューでは、そんな「エントリーなプレミアムモバイルノート」dynabook R7/Wに求められた絶妙なトレードオフの実力を検証していく。

○カラーはダークテックブルー、豊富な端子で使い勝手は◎

モバイルノートPCの基本仕様となる本体サイズは幅312.4×奥行き224.0×厚さ15.9mmと現行dynabook Rシリーズと変わらない。ちなみに本体カラーもこれまでと同じく「ダークテックブルー」の一択だ。

Dynabookにとってこの色は「それとは異なる一線を画した新しいdynabookであることを示す」という意味を込めた、ある意味dynabook Rシリーズにだけ許された特別な存在といえる(そういう意味では、平安の時代から天皇だけが纏うことができた当色として現代まで伝わる「黄櫨染」[こうろぜん]に通じるものがある、かも)。

ボディーカラーはRシリーズだけに許されたダークテックブルーを採用する

本体に搭載するインタフェースは、Thunderbolt 4(USB 4 Type-C)×2基(電源コネクタ兼用)、USB 3.2 Gen1 Type-A×2基(1基はパワーオフUSB充電機能に対応)、ヘッドホン&マイク端子のほかに、映像出力用としてHDMI出力(Standard A)、そして、ビジネス用途や最近ではネットワーク対戦用の高速有線LAN接続用としてRJ-45を用意する。

また、メディア用インタフェースとしてはmicroSDスロットも載せている。無線接続インタフェースでは、IEEE802.11axまでカバーするWi-Fi 6E(2.4GHz対応)とBluetooth 5.1を利用できる。

左側面には、 HDMI出力にUSB 3.2 Gen1 Type-A、2基のThunderbolt 4(USB4 Type-C)を備える

右側面には、マイク&ヘッドホンコンボ端子にUSB 3.2 Gen1 Type-A、有線LAN用RJ-45、microSDスロットを用意する

正面

背面

ACアダプタは右側面中央に位置するThunderbolt 4に接続する。標準付属のACアダプタのサイズは60×60×27mm。重さはコード込みで実測246グラム。出力は20Vで3.25Aだ

コンパクトなボディに14型の画面を搭載、重さは約940g

この本体サイズと深い関係にあるのが、本体の重さとディスプレイサイズ、そして、キーボードサイズだ。本体のサイズが薄く小さくなれば本体の重さも軽くなる。これはわかりやすい関係だ。しかし、本体が小さくなるとディスプレイのサイズもそれに伴って小さくなり、表示サイズが細かくなって見にくくなる。

また、同様にキーボードピッチも狭くなって運指に無理が出てくるほか、本体が薄くなるとキーストロークに必要な“深さ”を確保することができなくなり、十分にキーを押し込んだ感触が得られないため、キータイプでストレスをため込みがちになる。

このような事情から、モバイルノートPCとしての使い勝手を確保するためには、コンパクトなボディにいかにして大きなサイズのディスプレイを載せて、いかにしてキーボードのピッチを広げるかが肝要だ(これはまさに3,000トンの船体に5,500トン軽巡相当の兵装を詰め込んだ軽巡「夕張」型をデザインした造船技術者平賀譲氏に通じる日本のお家芸)。

その視点において、14型を搭載しただけでなく1,920×1,200ドットの解像度を実現したディスプレイは、モバイルノートPCで多いサイズ13.3型で解像度1,920×1,080ドットと比較しても見やすい。

そして、キーピッチ19mm、キーストローク1.5mmを確保したキーボードもストレスなくタイプし続けられる。ただ、タイプの感触は軽め、というよりは“柔らかめ”なので、そこで好みが分かれるかもしれない(この「タイプ感が柔らかめ」という特徴もdynabook R全般に共通する)。

縦方向の見通しがよく、非光沢パネルで画面に集中できるディスプレイ

ディスプレイ上部に配置した有効画素数約92万画素のカメラ

軽めタッチのキーボード。タッチパッドのサイズは110×86mmと広いエリアを確保している

ディスプレイの最大開度は180度。対面の人と画面を共有可能

○見た目より軽いが、MILスペック10項目をクリア

本体サイズと深い関係にある本体の重さは約940gで、これは従来のミドルレンジモデル「dynabook R8/W」と同等、ハイエンドモデル「dynabook R9/W」の約1.05kgと比べるとやや軽い。1kgを切るモバイルノートPCは今や珍しくなくなったが、それでも実際に手にすると軽く“感じる”。

13.3型ディスプレイ搭載モバイルノートPCと比べて、やや大ぶりなフィットプリントという見た目からくる先入観のせいか(Dynabook社は「13.3型ディスプレイ搭載ノートPC相当のボディに14型ディスプレイを搭載」と訴求しているが、13.3型“モバイル”ノートPCと比べるとわずかに大きい)、見た感じから予測する重さと比べて、実際に持ったときに認識する重さが軽いので、毎度ながら「おぅ」と声が出るほどに軽く感じる。

この本体の重さとトレードオフになるのが、本体の堅牢性とバッテリー駆動時間だ。軽くて華奢に感じる本体は、ちょっと雑に扱うとすぐに壊れてしまうはかなさというか、不安が付きまとうが、dynabook R7/W(に限らずDynabook社のモバイルノートPC全体に言えることだが)はボディ素材にマグネシウム合金を採用し、MIL-STD-810Hの10項目(76cm26方向落下、40G6方向×3回衝撃など)、Dynabook独自試験18項目などの出荷時試験をクリアしている。

特に独自試験では、他のモデルで実施しないことが多いキーボード面に対する飲みこぼしを再現する防滴試験まで検証している。

また、もう1つのトレードオフとなるバッテリー駆動時間においても、dynabook R9/Wの24時間には及ばないものの、それでもJEITAバッテリー動作時間測定法Ver.2.0で約20.5時間を掲げている。ACなしで携行しても1日不安なく使い続けられるといえるだろう。

内蔵するバッテリーの容量はPCMark 10のSystem informationで検出した値は48741mAhだった。

搭載CPUはCore i5-1340P、ベンチマーク結果をチェック

dynabook R7/Wの特徴、というか今回新たにdynabook Rシリーズに参入することになった理由の1つが、ラインナップの拡充にあるだろう。

DynabookのモバイルノートPCラインナップの最高峰ということもあって、価格的にもプレミアムな位置づけとなっていたが、エントリーモデルを加えることで購入しやすいdynabook Rシリーズが登場したことになる。

これを可能にした1つの要因がCPUの変更だ。既存のdynabook Rモデルは、ハイエンドにしてもミドルレンジにしてもCore i7クラスを採用していたが、dynabook R7/Wでは第13世代の「Core i5-1340P」を搭載している。

他のdynabook Rシリーズの採用CPUと同様にTDP(Processor Base Power)は28Wで、処理能力優先のPコアを4基、省電力を重視したコアを8基組み込んでいる。Pコアはハイパースレッディングに対応しているので、CPU全体としては12コア16スレッドだ。

ただ、スマートキャッシュの容量が12MB(Core i7-1260Pでは18MB)で、動作クロックがP-coreでベース1.9GHzのMax Turbo Frequency4.6GHz、E-coreでベース1.4GHzのMax Turbo Frequency3.4GHzに抑えられている(Core i7-1360PではP-coreでベース2.2GHzのMax Turbo Frequency5.0GHz、E-coreでベース1.6GHzのMax Turbo Frequenc3.7GHz)。

TDPはベースで28W〜64Wとなる。グラフィックス処理にはCPU統合のIris Xe Graphicsを利用するのは同様だが、演算ユニットは80基で動作クロックは1.45GHzとこちらもCore i7クラスと比べると抑えられている。

なお、CPU以外で処理能力に影響するシステム構成を見ていくと、試用機のシステムメモリはLPDDR5-4800を採用していた。容量は16GBでユーザーによる増設はできない。

ストレージは容量256GBのSSDで試用機にはSamsungのMZVLQ256HBJDを搭載していた。接続バスはNVM Express 1.4(PCI Express 3.0 x4)だ。

Core i5-1340Pを搭載したdynabook R7/Wの処理能力を検証するため、ベンチマークテストのPCMark 10、3DMark Time Spy、CINEBENCH R23、CrystalDiskMark 8.0.4 x64、そしてファイナルファンタジー XIV:暁月のフィナーレを実施した。

なお、比較対象としてCPUにCore i5-1240P(4コア8スレッド、動作クロック2.8GHz/4.7GHz、L3キャッシュ容量12MB、統合グラフィックスコア Iris Xe Graphics)を搭載し、ディスプレイ解像度が1,920×1,200ドット、システムメモリがDDR5-4800 8GB、ストレージがSSD 256GB(PCI Express 3.0 x4接続)のノートPC(要は従来モデルのdynabook R6/V)で測定したスコアを併記する。

CPU-ZでCore i5-1340Pの仕様情報を確認

大きくスコアが開いているわけではなく、一部拮抗している項目があるが、総じて第13世代のCoreプロセッサを採用したdynabook R7/Wが上回っている。特に、3DMark Time Spyに3DMark Night Raidといったゲームベンチマークテストで大きくスコアを向上させている。

このほか、外出先で使うときに気になる騒音と、薄型モバイルノートPCで注意したい表面温度を把握するために、電源プランをパフォーマンス優先に設定して3DMark NightRaidを実行。

CPU TESTの1分経過時において、Fキー、Jキー、パークレスト左側、パームレスト左側、底面のそれぞれを非接触タイプ温度計で測定した表面温度と、騒音計で測定した音圧の値は次のようになった。

底面には奥側に広範囲に吸気用スリットを設けている

ヒンジ奥に排気スリットを設けており、ディスプレイを開いた状態でパネルに沿って排熱されていく

機能やインタフェースは上位機と同等、Rシリーズでは狙い目

Dynabook社のモバイルノートPCの最高峰たるdynabook Rシリーズの中で、比較的購入しやすいエントリーモデルとして登場したdynabook R7/Wの店頭価格は、23万円前後とされている。

上位モデルのdynabook R9/Wとdynabook R8/Wの発売当時(2023年2月)に示されている予想店頭価格がそれぞれ30万円台後半と27万円台半ばであったことを考えれば、十分に価格を抑えてきたといえる。

これで、本体サイズと重さ、ディスプレイとキーボード周りの使いやすさ、用意されたインタフェースの種類と数などは、上位機とほぼ同様なのだから、価格がネックで購入を躊躇していたユーザーは、選択候補としてもう一度検討してみる価値があるのではないだろうか。